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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 二十七
いつも、誰かにガンを飛ばすような。
そんな強い目つきの女の子だった。

「どうしたの?」
私は、一人の少女に声を掛けた。
校庭の隅でうずくまる少女の黒い制服は、背後からでも私と同じ学校に通う生徒である事を表す。

「……別に」
少女は振り向き、私に一瞥をくれると元の通りに目線を戻した。
しかし、分かった事が一つある。

りぼんの色が赤い。
下級生なのか。

それから、度々同じような光景を見かけるようになった。
授業で校庭に出た時、休憩時間、放課後。
席替えをして、授業中に窓から校庭に目を向けると見つけた事もあった。

「ああ、あの子ね」
「花壇の手入れをしているのよ」
気になって先生に尋ねると、あっさりとそんな答えが返ってきた。
余程有名なのだろう。
下級生である事、いつも校庭にいるという事以外、私は何も知らないというのに。


「ねえ、手伝おうか?」
次は昼休みに声を掛けると、少女はいつも通りにガンを飛ばし、それからこくんと頷いた。
雑草を根元から丁寧に抜き、水をやり、肥料を与え、土を被せる。
だだっ広い校庭に点在する花壇の一つ、全ての花に同じ事を状態に合わせてやっていく。
単純で、けれど私は彼女が隣にいるだけで充分楽しかった。

そんな時間には、やはり限りがあるもので。
無情にも、昼休憩の終わりを告げる鐘が鳴った。
「……授業は、出ないの?」
私が確認するように聞くと、彼女はこくりと頷いた。


「授業……一応ギリギリは出たのよね、あの子」
授業には必要最低限しか出ないけれど、成績は割と良いのだという。
そして、花壇の手入れをしている理由も私は聞いたのだが。
「さぁ……?なんでかしら」

放課後。
「えっ、聞いてな……じゃなくて、多分忘れてた……」
私は友人から、図書管理会が主催する百人一首大会の話を聞かされた。
クラスから成績の良い若干名、それが私だった。
仕方ない。
先約を反故にする訳にもいかず、私は放課後の予定……少女と花壇の手入れ、を諦めた。

「しっかし図書券ねえ……」
早く終われば間に合うかもしれない、と本気を出した私に与えられたのは、優秀賞の栄誉と副賞だった。
ぴらぴらと小さなカードで扇ぎながら、私は少女を探しに出た。

「……あ」

ばったり。
袋に雑草を詰め、スコップと肥料とジョウロを持った彼女。
遭遇したのは、校舎に面する水場だった。
「今日は終わり?」
少女はこくりと頷く。
その目線が、私の右手……図書券に向けられている事に気づいて、私は説明した。
「百人一首の大会でもらったんだけど……」
「良かったらいる?」
私、本買わないのよね。と付け足すと、少女はこくりと頷いた。

「はい、プレゼント」
中身を見るために開けてそのままだった封筒に図書券を入れ直し、少女に渡す。

「……ありがとう、ございます」

感謝を伝える小さな声は、少し低くて、可愛かった。
「どういたしまして」
私がくすりと笑うと、彼女は俯いて、もうこちらを向いてはくれなかった。


翌日。
花壇の傍で本を広げる少女を見つけた。
分厚い本だ。けれど辞書にしては雰囲気が違う。
近づくと、タイトルが読めた。
「……植物図鑑?」
少女は顔を上げて私を認知すると、こくりと頷いた。

「病気とか……調べられるから」
「そっか。なら良かった」
私は隣に座ると、鞄を置いて雑草を抜き始めた。



完。
プレゼント・ガン・植物図鑑でした。
ガンが癌しか浮かばなくて、ふっつーな話にしかならん予感wwとか思いましたw
ガンを飛ばすって強引だなおい。
マリみてのバラエティギフトっぽい話になってしまった気がががg
(古い温室の妖精に呼ばれた少女の話があったのです)
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書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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