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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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物語の中の『君』
探す旅は終わらない

この世界にもきっといるはず
信じて僕は今日もまた一歩
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同じ名前同じ顔
持って生まれた私と私
白と黒
違う色つけて違う私になった

私は私に憧れて
私は私になりたかった

多分AメロとBメロ?
Mac音家のココ姉が可愛くてあと黒と白が別人だと知ったので突発で。
私はココ白とココ黒の両方です。
一言ずつ歌っていくイメージ?(どんなだ

ちびナナとナナも別人らしいので、ちょっと歌詞変えたら転用できるかも?
この記事は三題噺です。
アプリで出てきたお題を元に、以下のルールを設けて創作小説を書いています。
・登場人物は全員名無し
・一話読み切り完結
・主人公は男女交互(今回は男性主人公)

上記を踏まえた上で以下からどうぞ。
お題は後書きにあります。
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67
詰め替え用のパック二種類を手に取り、はて、何が違うんだろうと見比べる。
同じ製品でもどうも効果が違うらしい。しっとりタイプとさっぱりタイプだと。家にあったのは、と容器を思い浮かべてさっぱりタイプをカゴに入れ、しっとりタイプを棚に戻した。
「えーと、後は……あ、ラーメン買っとこう」
買い物メモを見て漏れ落ちがない事を確認しつつ、周りを見渡して美味そうなラーメンに吸い寄せられる。


職場の転勤により、心機一転新しい土地での新生活。今日は日常必需品を買いに来ていた。
栄転……と言われているが、実質は降格だ。
僻地手当だとかで若干給料が上がるが、出世の道は閉ざされる。
と言っても俺が何かやらかした訳ではない。上司との折り合いが悪かった訳でもない。ただ、ちょっと苦手な同僚がいたから逃げた、というのが理由の一つ。

もう一つは、この土地に来たかったから、だ。
俺は表向きしがない会社員だが、副業……というか家業で忍者をやっている。
忍者と言っても黒装束に身を包む事もなければ、水の上を歩く事もできない。
お庭番と言い換えれば少しは分かりやすいだろうか、上役の求めに応じて、望まれた場所、人の情報を足で集めるのが仕事だ。探偵業がやっている浮気調査や尾行みたいなものだと思ってくれてもいい。
俺は苦手な同僚……一つ二つ年上だから一応先輩に当たる上、確か役を任されているから上司に当たるのかもしれないが、直属の上司じゃないから同僚みたいなもんだ。五歳以内の年齢差なんか誤差だ誤差。そいつともう関わらなくて済むし、副業の忍者仕事もやりやすくなるから一石二鳥だ。別にこの会社で出世したいとか全く考えていないし。


「あー、重たい。買い過ぎたなぁ」
買い物を終えて、携帯で道を確認しながら歩いて家へと帰る。新居は確かに僻地だが、職場から近いという理由で選んだ部屋は、前にいた場所よりも買い物が便利だ。
スーパーが七時に閉まるとか冗談だろ。
「遊べる場所が何もないからつまんねえぞ」と上司には散々脅されたが、休日は忍者の報告書きと調査と日用品の買い物で潰れるから遊ぶ場所なんぞ別にいらない。
まあ報告の時、今でもメールでも郵便でも電話でもなく、公共交通機関というか電車やらバスやらを乗り継いでの口頭報告があるからそれに関しては不便だが。
自分の報告内容のどの辺が重要機密なのか理解できない時の方が多いが、二ヶ月経ってから「お? これ俺が調査したやつじゃね?」と思うデカいニュースに遭遇したりするから、上役の判断が正しいんだろうと思って意見も言えないでいる。
やー、株価の大暴落とか見ていて楽しいわー。


家に着くと電話が掛かってくる。GPSで居場所を把握されてんのは知っているんだけど、冷凍ぐらい入れさせてくれ。
「はい、No.248です。何でしょう」
『明日報告の受け取りと指示を出す。場所はNo.444だ』
「分かりました。No.444で報告と指示ですね。いつも通りの時間に伺います」
『待っている』
ぷつりと電話が切れる。こっちの状況を把握しているのかってぐらいの短い電話だった。
だったら先に冷凍と冷蔵ぐらい入れさせてくれと。
電話の受け答えをしながら積み重ねていた冷凍食品と冷蔵食品を、それぞれにまとめて放り込む。
明日が報告って事は今日中に部屋の片付けと準備を完了させねえと、明後日の平日にバタバタする羽目になるな。
「うっし、頑張るか!」
俺は一つ伸びをして部屋の片付けを始めた。





完。
一石二鳥、詰替、栄転でした。
「三題噺 十二」と銘打った記事が二件ある事に今日気づきました……。
もちろん内容は違うのですが。
今更ずらすのも面倒なのでそのままにしますね。
忍者とか特殊な職業、栄転で副業もしやすくなって一石二鳥。降格だけど栄転と呼ばれる。までは発想できたのですが、詰替だけがどうにもならず……。サイトの更新準備をしながら悩んでいたら、買い物に行っているのが思い浮かびました。
男性主人公なので髭剃りフォームとかかなぁ。
降格だけど栄転と呼ばれるというのは、結構昔に新聞か何かで見た、地方だと役員以下でも転勤情報が載るから栄転と冗談半分で言われるという話を思い出したからです。
偽装結婚とかも悩んだのですが、一石二鳥じゃなくて三鳥ぐらいになってしまうので取り消しました。
2023.7/29 和美
この記事は三題噺です。
アプリで出てきたお題を元に、以下のルールを設けて創作小説を書いています。
・登場人物は全員名無し
・一話読み切り完結
・主人公は男女交互(今回は女性主人公)

上記を踏まえた上で以下からどうぞ。
お題は後書きにあります。
------

高名な刀鍛冶師が亡くなった。現代の名工だの、現代に甦った誰それだの、まあ色々と二つ名がつけられた。
その刀工が、手元に一振りだけ残していたという。
日本刀は現在、「銃砲刀剣類登録証」という許可証と共に保管する事が法律で決められている。
その登録証の日付から、打ち上げられて何年も経っている事が分かったのだ。

遺族から調査をしてほしい、と本体を持って依頼を受けた。
私は、研究所に所属する刀鑑定の研究家だ。とは言っても鑑定は基本的に柄が残っていない古い時代のものが多く、刀工も分かっている現代の刀の鑑定など初めての経験だ。
裕福な生活だったらしい。遺族からそれなりの金を積まれていなければ断っていた。
研究費用は、大事だから。

研究所が依頼を受けてすぐ、遺族はその最後の一振りの事を公表した。
何振りもの刀を打った名工が、たった一振りだけ手元に残していた刀。

刀袋に括り付けられていた登録書類とともに、号が残されていた。
「あい」という。
号は刀の愛称のようなもので、刀工自らがつけることは珍しい。それだけ大切にされていたのか。

号は和紙にひらがなで書かれていたが、「あい」に漢字を当てるなら、もっとも普遍的なのは間違いなく「愛」だろう。
現代の名工が手元に遺した謎めく一振り。

美術品界隈だけではなく、一般報道陣までが研究所に取材に来た。
朝のニュースで見たと親から電話をもらった。連絡が途絶えてしまっていた懐かしい友人から研究所に手紙が来た。あれは最早、大山鳴動と呼んで差し支えないと思う。
大山鳴動して鼠一匹という諺があるが、長曽根虎徹や村正のような知名度を誇る古刀ならさておき、無監査とはいえ現代刀一振りにこれだけ人が騒ぐのか、と専門家の端くれながら驚いた。勉強になった。

「不思議な感じがするな」
鞘から刀を抜き差しした所長が首を傾げる。
「本当にこの鞘はこの刀のために作られたのか?」
お借りします、と言い置いて、私も所長と同様に刀を抜き差ししてみる。
「鞘の方が長いですね?」
私の確認に、ああ、と所長が頷いた。
ほんの一寸もなく六分、メートル法換算で三ミリぐらいだろうか。けれどもその誤差のような僅かな隙間は、鞘に収めた時の手に強烈な違和感を訴えてくる。
六分、日本刀ならちょうど鍔の厚みぐらいの長さだ。
しかし、この刀は打った刀鍛冶の元にあった。一度誰かの手に渡った可能性がないとは言い切れないが、受け取った後に確認のための抜き差しぐらいしているはずだ。鞘と刀身の長さが違うなど、打ち上げた当の刀鍛冶が気づかないなどあり得ない。
「……鍔の厚みが違うとか……ないよな」
「ありませんね。鍔の厚みがほぼ0にならないと……」
所長に言いかけてはたと気づく。
鍔を外したら、どうなる?
二人、無言で目を見合わせた。

詳しくない人には知られていないかもしれないが、日本刀の鍔は交換ができる。
帯剣をしていた時代、武士は季節や場所に合わせて変えるため、刀一振りに対していくつもの鍔を持っていたと聞く。
今ではそんなにコロコロと頻繁に鍔を変える人はいないだろうが、取り外せる構造になっているのは当然、実用から美術品の一種になった今も同じだ。

遺族に連絡を入れ、許可を得て鍔を取り外す。
鍔を抜いた刀は、元々からそうであったかのようにぴたりと鞘に収まった。
「……だから号が『あい』だったんですね」
「ああ」
所長と二人、重い空気が場を支配する。
略称で「あい」と呼ばれる、刀と鞘がちょうどぴったり合う刀が合口。正しくは「合口拵え」と呼ばれるそれは、長くも短くも、鍔のない刀全てを指す。
そして現在、合口拵えは法律によって製造も所持も禁止されている。

これは、日本にあってはならない物なのだ。

研究所からの公表は控える事に決まった。報道陣へは「年単位で研究が必要な事が分かった」と伝えるだけで済む。
遺族にだけ結果を伝える。

現代に許されない拵え。
それでも、打ちたかったのか。誰かに依頼されたのか。
名工最後の一振り「あい」の謎はまだ続く。


完。
お題は刀、あい、大山鳴動でした。
なんか和風?wと思ったのでそのまま和風にしました。時代物のイメージが沸いたのは「魔法少女アイ」(厳密には参)の影響でしょうか。調べてみたら全然和風ではありませんでした。やった事はありません。
大山鳴動は、大きな山がうなりをたてて動く意から、大騒ぎすること。……あんまり騒がれていませんが。
ひらがなの「あい」から二振りを一対として作られたあいのこ作りを想定していたのですが、あいのこってそもそも混血児の事を指すそうで、意味が違うと断念。(差別用語とかは気にしない方向性)
「あい」で色々調べたところ、
https://www.weblio.jp/content/あい
こちらのページの埃(数字の単位)にも心惹かれつつ、隠語辞典の「匕首の略」に決まりました。
合口拵えの刀は実在するそうです。
http://shinanotuba.blog.fc2.com/blog-entry-71.html
刀剣……変な騒ぎが始まる前に見に行きたかった……。
今年初めての三題噺でした。
2023.2/19 和美 2023.2/22追記、修正
ここに来るまで、何百戦しただろう。いや、百や千の数字では収まらないなと考え直す。
それでもこの計算結果を待つ時間は相変わらず苦手だった。
三人が紙を捲る音と電卓を叩く音だけが部屋に響く。
目を彷徨わせるな、計算時間は心理戦だ。と繰り返された師匠の注意が蘇る。計算係を見たくなる両目を盤面の一点に縫い付ける。穴が開くほど見つめた。
電卓を叩く音が止まったような気がする。

ごくりと唾液を飲み下す。
多分、勝っている、はず、だ。
「勝者」
声に応じて顔を上げる。正面にいるのは見慣れた顔だ。
この人との対戦だけでも、百回は下らないかもしれない。それだけの回数を戦ってきた。昔はこんなに対等じゃなかったが。
けれど、緊張は解けない。

総計算係がすっと手を上げる。俺の側だ。
頭の中での計算通り、俺が勝ったという事か。
「……おめでとうございます」
「恐悦至極にございます」
目の前で潔く負けを認め、頭を下げて俺の勝利を祝う人に、師匠、とは言葉に出せなかった。


「決まり手は竜の表札か」
盤面を見ていた師匠が呟くように言う。このまま対戦審議に移行するらしい。
対戦審議というのはどこで勝負が決まったとか、この手が不味かったとか、この札とこの札で迷ったとか、そんな話をする時間だ。
特に計算係が三人もいる公式戦の審議は長い。
今回は師弟対決として注目を集めているから、公式戦の中でもじっくりやってくれるだろう。
大事なのは平等な博愛じゃない。愛好者に対するおもてなしだ。

決まり手……勝負の決定打になったのは、表札として出した竜。
普段は裏札の兎が多いから、俺にしては珍しいだろうか。
「そうですね。表札の決まり手でも公式戦の竜は初めてです」
計算係の同意に記憶を辿る。
……確かに記憶にない。全ての対戦を覚えている訳じゃないが、竜は記憶にない。裏札の鯉は何度か使った覚えがあるけれど。
「四枚の手札を持たせた時から何百戦と戦ってきたが、竜は嫌いだったな。何度も活用しろと注意した覚えがある」
これ、対戦審議じゃなくて審議後の公式会談でする話じゃ。
「そうですね……。裏札の鯉の方がまだ好きですし、竜は何となく苦手意識がありました。……いえ、今もありますが」
何だろう、なんで竜が苦手なんだろう。
気にした事もなかったけれど、強烈な忌避感があった。
何度も注意されて何とか使うようにはなったけれど、それでも苦手意識は治っておらず、活用には程遠い。
公式会談でも聞かれる気がするから、考えておこう。

「麒麟もこのタイミングで使うとは思わなかった」
「そちらも裏の鳳凰と悩みました」
竜の二枚前に出した表札の麒麟。うまく働いてくれれば、と思いながら出したのは覚えている。
「自分は珍しい手札が多かったですが、師匠は表の虎に裏の亀といつも通りでしたね」
俺の珍しい選択は緊張で場に飲まれたのかもしれない。それが今回はたまたまうまくはまっただけだ。
何百戦も負けた相手からたった一勝を拾えたが、平常心を失わない師匠が今も羨ましい。
「う、ん……。虎と狸は悩んだな」
「ああ、この時に虎ではなく狸だったら怪しかったでしょうか」
「そうなったら竜か麒麟でももう少しもつれ込んだかもしれませんね」
「そうだな。お前はこの時、蜥蜴よりも孔雀か鶴の方が良かったんじゃないか?」
「亀は候補に上げましたが、孔雀は思い浮かびませんでした」

師匠と俺の審議。
なんだか毎週指導教室に通っていた時のような変な気分になってきたが、それを打ち消す、計算係という三人の異分子。
懐かしくはなれない、俺と師匠の立場。

それにしても、と俺は溜め息を吐きそうになる。
師匠にはいつか公式戦で勝ちたい、と思っていたが、いざ勝ってみると何だか手を抜かれた気分がするのは複雑だ。
師匠もずっと挑戦している称号戦だから、絶対に手を抜いていないと頭では分かりきっているけれども。
私的な対戦では絶対に指導戦のようになってしまうと思っていたから、公式戦での勝利を目標にしていたのに。
理屈じゃない。感情が追いつかないのだ。

きっと師匠のような腕前だと、自分で思っていないからだ。
運も実力のうちというけれど、今回の一戦では運が良過ぎた。
だからだ。

「ありがとうございました」
対戦審議を終えて、俺たちは互いに頭を下げた。



完。
表札、竜、恐悦至極でした。
恐悦至極ってこんな字書くんだー←と思ってしまいました。
表札(ひょうさつ)と読んでしまうと「竜」という珍名さんの苗字しか思い浮かばず、個人名を設定しないという三題噺シリーズの独自ルールに反するのでやめました。(……一般住宅に一匹で住む竜って話でも面白かったかもしれませんね)
結局、(おもてふだ)と読んで将棋から着想した架空のカードゲームを捏造。
敬意をもって礼儀正しく喜ぶ状況……となるとやっぱり瑞獣の竜か。という事で、慣用句から裏面は蛇や飛車も悩んで鯉にしました。
竜以外のカードは鯉、蛇、蜥蜴、鶴、鳳凰、亀、兎、虎、狐、狸、麒麟、孔雀辺りです。他にもあるかもしれません。
花札のように役を作って点数を計算するゲームだと思っていましたが、相手が出した手札を見ながら出す順番を決めるので、UNOのように前に出された他のカードによって次に出すカードを選ぶ要素もありそうです。
公式戦なので、このカードゲームだけで生きていける程には賞金が出る模様。
……いつかカードゲームを作りたいなと画策していた頃があったのですが、どうにかしてルール制定してみたい次第。
2022.10/8 和美
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現役の駆逐艦が停泊しているらしい。
そんな噂を聞きつけて、私は一人で近くの港に行った。
駆逐艦とは、大型艦船を護衛し、近距離からの防御を目的とした軍艦である。近年はほぼ何でも屋の便利な戦艦だ。
私は昔地元で見たミサイル巡洋艦に惚れ込んで以来の戦艦好きである。ただし外見に限る。人間はいらん。

さて、駆逐艦が停泊するという噂の近くの港。人が乗り降りする港ではなく貨物貿易だけを目的としているため、人よりも荷物が多くて広い。
貨物船も戦艦とは違うときめきがあるから、写真や映像で満足できなくなった時は代用とばかりに来ている港でもある。
ちょうどあれぐらいの大きさかな、とか戦艦と貨物船が並んで停泊したところを想像すると堪らないものがある。
実際にそんな事は起きないが。

港が一望できる丘の展望台から、停泊する貨物船を双眼鏡で一艘ずつ確認していく。
これも違う、あれも違う。
端から順次確認して、
「……あった!」
偽装しているのだろうか、イージスシステム搭載型の駆逐艦である。
くふふ、と怪しげな笑い声が漏れてしまう。普通の貨物船は国旗なんて掲げませんよ。いや分かりやすくて大変嬉しい。
しかしそれにしても珍しい、部隊編成のない単独艦。
んふふふ、もう少しこの勇姿を遠目で眺めてから港に降りようかな。単独行動なら不備の臨時停泊の可能性が高い。だったら故障箇所にもよるけど数日は動かないはず。
「ちょっと」
いやあ、恰好良い。灰色の実用一辺倒なレーザー群がイージスシステム搭載艦の見せ所だよね。偽装のためか灰色じゃなくて黒い船体が珍しい。
「ちょっと」
「ああ、はいはい。何……」
「何でしょう……」
ちょっと待って私いつから話しかけられていた?

そろ〜っと振り向くと、私の肩を叩く男性がいた。
「第二種制服!!甲種一等海曹!水上艦艇徽章!!」
見えた階級章を端から叫んで気づいた。声を掛けたのは要するに不審者扱いだ私。

「失礼しました私怪しい者じゃありません!!」

慌ててパスポートと運転免許証を鞄から取り出して見せる。自衛隊の見学には本籍地が書かれた住民票かパスポートが必要で、十数年前から運転免許証だけでは不足になってしまったのだ。とても面倒くさい。
「……ありがとうございます。なるほど、停泊の噂を聞きつけてきた一般の方でしたか」
何も聞かれる事なく理解されてしまった。誠に仰る通りですが対応慣れとかですかそうですか。まあパスポートという出してくる時点でお察しですよね。
「大丈夫そうですが、一応面通しの確認をさせて頂きます。こちらへご同行お願いします」
「……はい」
うわぁ、ちょう落ち込む。さすがに不審者扱いは初めてだよう。

海曹に案内されたのは事務所っぽい場所。間借りしているんだろうか。
中には海曹と同じ男性の、こちらは二等海尉。
「連絡した女性です。声を掛けたところ、運転免許証とパスポートを見せられたので一般の方だと思われます」
了解、と同意する低い声にどうぞ、と海曹に席を勧められて座る。
「申し訳ありませんが、身分証明証を再確認させてください」
はい……と縮こまった私はもう一度運転免許証、日本国籍のパスポートを出す。あと確か本籍地が記載された住民票の控えもあったはず、と引っ張り出す。
海上自衛隊の音楽演奏会を聴きに行った時、念のために、と取得したものだ。使わずに入れたままで、二ヶ月は経っていない。

パスポートの名前と運転免許証の名前を確認したらしく、ありがとうございます、問題ありません。と返される。コピーとか取られるのかと覚悟していたけど。
「こちらには何のご用事でしょうか」
「巡洋艦が臨時停泊と聞いたので見に来ました。丘から港が一望できるので双眼鏡で探していて、見つけて形式を確認している時に声を掛けられました」
「なるほど、ありがとうございます。……近くではご覧にならないんですか?」
「近くで見るのも良いんですけど、全体を見るのも好きなので。イージスシステムのパラボラアンテナとか、上の方は近寄ったら見えないですし」
「ああ、上のアンテナ群は見えないですねぇ」
良かった、大丈夫そう。
「まあ、ちょっと周りとか注意して頂けると嬉しいです。時々……宜しくない方がいる可能性もありますので」
「はい。以後留意致します」
日本人ってハニートラップに耐性ないんだっけ、という真偽の怪しい与太話と、ついでに太平洋戦争中は旧日本軍の暗号が敵国に筒抜けで揶揄われたという話も芋蔓式に思い出して頭を下げると、ああ、いやいやそこまでは、と慌てられる。
「自衛隊に良い感情を抱いて頂いているようで現場の我々としては大変嬉しく思います」

どうぞ、紅茶ですが、と海曹にカップを出される。いつの間に出て行っていたんだろう。
「……紅茶?」
日本茶とかじゃなく?
しかも紅茶と言いつつ色味からしてミルクティーだ。
「いただきます。……美味しい!」
出された物に口をつけるかつけないか、はビジネスマナーとしても議論の別れるところだが、飲まれなければ捨てられると知っている私は飲んでしまう派だ。
お茶なんてタダみたいなものという連中がいるかもしれないが、淹れて下さった方の手間がもったいない。人件費大事。
しかし本当に美味しい。これどこのメーカーだ。
「美味しいですよね。こちらの地元の紅茶だそうです。美味しいので箱で買ってしまいました」
「そうなんですね。ここにはたまに貨物船を見に来るのですが、全く知りませんでした。探して買って帰ります」
「お勧めしたのを気に入って頂けるとこちらも嬉しいですよ。期間は申せませんがしばらく停泊していますので、今後はお気をつけてご覧ください」
「はい、ありがとうございます!」
子供か!という勢いで元気よく挨拶をして紅茶を飲み干し、私は事務所っぽい部屋からお暇する。
建物の前からちょうど駆逐艦が見える。
海上の夕日に照らされて黒くなった艦艇は一枚の影絵のように綺麗だった。

「また、来るね」



完。
駆逐艦、影絵、ミルクティーでした。あ、いけたwというメモが残っていたのですが十二年前の当時、どんな話を考えていたかは本人にも分かりません!
駆逐艦とイージス艦の説明はWikipediaで検索しまくりました。幅が広すぎてよく分からないという感想です。あと代表的な艦として載っていたのは米軍と露軍のみで自衛隊にあるのかは分かりません。
自衛隊の基地見学には本籍地の書類が必要とかいう話を以前銃ヲタの小説家先生がTwitterで書かれていたんですが、検索してもそんな話は出て来ず……。
イベント外の基地見学の申し込み時に本籍地の郵便番号と住所が必要という話が出てきたのできっとその辺だと思いますが、Twitterを掘り返す程の気力はない。
岩国航空基地:基地見学・お問い合せ
航空自衛隊の広報施設に一度行ったのと、あと陸上自衛隊の車両展示は最近の流行が始まる(自粛飽きた!)前まで見ていたのですが、自衛隊の広報イベントには行った事がないので適当な想像で書いています。
最初は駆逐艦の見学会にする予定でしたが、機密事項の塊なので退役していてもそんな事はやらないだろうと方針転換しました。が、新潟県で護衛艦「きりしま」一般公開というイベントがありました……。いや知識ないから書けない。
徽章見ただけで叫べる時点で相当な自衛隊ヲタだと思いますこの主人公。
三題噺なのに一つ目の駆逐艦に偏りすぎて他がおざなりなのはいつもの話ですね!
2022.7/2 和美
俺の家はワルツの一家、と呼ばれている。とは言っても俺は分家の妾腹の三男である。貴族社会の慣習によって正妻の子供として育てられたが、それでも傍系の筋だ。

ワルツとは今でこそ上流階級の基礎教養と呼ばれるようになったが、成立当初から今の盤石な地位を築いていたわけではない。
元々は距離感を弁えない、地方の貧しい農村の者達が踊るものとして俺と同じような上流階級からは軽蔑されていた。下心で踊っていたある家の当主を被害者とする、短剣を使った暗殺未遂事件が起きたという時代背景もある。
ヴェラーと呼ばれていたそれをワルツという耳触りの良い名前に変えたのが、領地の視察中に祭りで見た十二代前の当主だそうだ。
先見の明があったのだろう、ワルツと呼ばれるようになったそれは当主命令で我が家の定番の踊りとなった。領地民に教えて磨き上げ、洗練させ、国の政にも深く関わっていた六代前が上流階級に持ち込み、貴族ならば誰もが持っている護身用の短剣を固く禁じさせ、二代掛けて定着させた。

家が覇権を獲るためなら人の命を奪うのも当たり前の貴族の社交界で、今はワルツを踊る舞踏会は唯一、全員が何も持っていない中立地帯となりつつある。
という話を俺は母からも義母からも分家当主たる父親からも家庭教師からも侍女達からも、もうありとあらゆる方面から耳にタコができる程聞かされて育った。
だから分家三男と言えど、ワルツに関しては人並み以上の技術と知識を習得しておかなければならないと。うんもう覚えた。


さて、前置きが長くなった。俺の話だ。
当代当主もいい加減年老いて来たなぁ、と思い始めてから十年は経っただろうか。俺が社交界に出てから、歳月の経過による当主達の顔の皺は減るはずもないがなぜか増える事もなかった。
「……俺が選ばれる事なんてないだろうに」
「坊っちゃま、そう仰らないでくださいまし」
今年も当主選定の時期がやってきて、俺はげっそりと侍女に吐き出した。
家に代々伝わる大型の短剣……と呼ぶのも妙な表現だが、実際、短剣がそのまま巨大化したようにしか見えない非実用的な代物がある。
刃渡りは一メートル程あるのだが、持ち手も四十センチ程あるのだ。銘もないそれは、大型の短剣としか表現できない。
その巨大短剣に次期当主候補や当代当主達が踊る姿を映し出すと、技術と知識に秀でた者は綺麗に、それらが劣っている、欠けている者は曇って見える。
賢明な諸君ならもうお気づきだろう。短剣に最も綺麗に映った者が次の当主だ。

我が家ではこれを、短剣に選ばれた、と呼ぶ。

短剣のようにキレのある舞踏を、という意味ではと解釈したのは数世代前の子女だったらしい。
当主が選ばれた家が本家となって分家と本家の立場が逆転する。本家に養子入りなんて事にはならない。不思議だ。

「父上、母上、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
心配そうな義母に手を振られて俺は家を出た。
当主の同世代は次期当主候補から外れる。
政に関わっている兄達はそちらから直接行くと聞いている。


まずは婚約者の家の出迎えから。
「こんばんは。……相変わらず緊張しますわ」
「こんばんは。どう見ても芋とは思えませんよね」
「本当、あんな鮮やかなお芋はお目に掛かったことがありませんもの」
家で待っていた婚約者と、少なくとも食べ物には見えませんよね、なんぞ軽口を交わしながら手を差し出してエスコート。
正直この石畳が俺は一番緊張するけどな、なんて言わない。
毎回躓きそうになるから早く結婚したい、とは口説き文句としては地を這うほどに酷くて口が裂けても言えないが。
当主候補選定は五年続いたら二年の休止、を代が変わるまで続けられる。
代替わり後は、二人以上の新しい候補が社交界のお披露目を迎える年齢に育つまで途切れる。
その代替わりか二年の休止まで、基本的に結婚は避けられる。ああもう早く決まってほしい。

会場に着いたら現当主に挨拶。他の候補者達と歓談。それら全てが短剣の選定基準……かどうかは分からない。分からないからなおさら気を遣う。
当主の座なんかどうせ俺じゃないからどうでも良いが、家の評価には関わるのは困る。

五曲のうち、最初はパートナーと。それから一曲ずつ相手を変えて三曲。最後は再度パートナーと。
短剣に映ったのは現行当主ではなかったらしい。周りが騒いでいるのが聞こえる。
けれど、ここで迂闊に気を逸らすとステップが乱れる。あらぬ方向に気を取られてはいけない。
結果なんていつ聞いても変わらない。今は目の前のパートナーと一心同体となり、全力で舞踏に、音楽に向き合うのみ。


振り向くな、耳を傾けるな、集中しろ、と己に言い聞かせて、俺は五曲全てを踊り切った。
最後はパートナーもとい美しい婚約者と見つめ合い、互いに礼をして、短剣の近くに行くために改めて手を取る。
さて、次の当主はどこの家だろう?

「おめでとうございます!」

振り向いた瞬間に掛けられた声の意味を、俺は理解できなかった。
「…………」
「新当主、おめでとうございます」
囁くような震える声が後ろから聞こえる。
俺が、選ばれた?
後ろの婚約者へ顔を向けて、目線だけで問い掛ける。
柔らかな笑みに困ったような照れが混じった顔は初めて見る。
「……おめでとうございます」
「ありがとう」
今度ははっきり聞こえた。いや、婚約者の言葉を聞き逃すはずなどないが。
しかし、ああ。口から感嘆が漏れる。一番大切にしたい、共に手を取り合って生きていく人から教えられるのは良いものだ。誰よりも信じられる。


短剣の輝きを確かめるため、再度一曲が流される。
現行……先代当主となった本家夫妻と、当代当主に選ばれた俺達だ。
短剣に選ばれたという状況自体を初めて見る。一点の曇りもなく、俺たちが踊る姿は短剣の刃に魔法のように煌めく。天井のシャンデリアが反射しているだけだと思うが、その反射はこれまで目にしたどんな宝石よりも美しかった。
対して代替わりした本家夫妻は、靄が掛かったような黒と薄緑色のぼやけた塊で、最早ただの老夫婦とすら映らない。

ここまで差が出るのか。怖いな、と俺は純粋に思う。

短剣に選ばれるのはこの上ない名誉だ。けれどこれからは兄達を差し置いて当主として上に立ち、この家を、国を盛り立てて行かねばならない。
新たなる候補者二人がお披露目を迎えるのは五年後。
その年にいきなりお役御免となっては恥だ。

これから先を考えて憂鬱になっていると、腕に温かい圧迫感が伝わる。
ずっと絡められている婚約者の腕に、力が込められたらしい。

そうだ、俺は一人なんかじゃない。
二人で生きていくんだ。

「どうか、俺の手を取ってくれませんか?」



完。
老父母、短剣、ワルツ
現代を舞台に一度途中まで書いたものを諦めて書き直しました……。つらい。
今まではウォークマンに入れたAndroidアプリの「アイデア発想塾」で内容を考えていたのですが、ウォークマンの調子が悪くなってリセットしたらOSのバージョンアップも消えて再インストールできなくなるという悲惨な結果になりました……。
ネットで検索して出てきた企画系クリエイター必読!アイデアが泉のように湧きあがる発想術&ツール30選から「アイデア発想塾」に似たような手法を見つけて
SCAMPER法とは?アイデアを強制的に生み出す発想のスパークプラグを使いこなそうで考えました。
アプリ……。ウォークマン……。そろそろ買い替え時なんでしょうね。お金があったらタブレットとかにしたいのですが如何せん先立つ物が。最新型?そんな物は知らない(非Android)
円舞曲の一家、眷属の老父母、契約の大型の短剣まで考えて、老夫婦から眷属の、が消えてこんな設定に。
……老夫婦が薄い!
2022.5/3 和美
62

「何もできなかったあの子がねぇ……」
私は感慨深く呟いた。
手には一通の葉書。
ずっと一人で生きてきて、これからも一人だと思っていたけれど。
これからの楽しみが少しだけできた。 

まだ義務教育を受けていた頃の、当時の自分にとっては若さゆえの些細な過ちだと思っていた。
だが、それは大きな間違いだと判明する。

子供を、妊娠したのだ。

私は、父親に関しては頑なに口を閉ざし、月満ちて生まれた、境遇以外は普通の男の子は、遠縁に渡され結局施設に預けられたと聞いた。
血縁上の父親には、子供の事はおろか、妊娠した事すら伝えていない。

自分の義務教育を終えてから、一度だけ施設にその子を見に行った。
息子、と呼べるほど、母親と呼んでもらえるような、何かをした覚えはない。
だから名乗るつもりもなかった。
けれど。

寝食を共にする他の子供に比べても丸々とした男の子は、部屋の片隅で一人で積み木を組み立てていた。
「他の子に比べると、少し言葉が足りなかったり、お着替えが遅かったりするんですけどね」
施設の人が、今後二度と会いに来ないかもしれない「母親」に対してそう言うぐらいだ。
よほど話が下手で、身の回りの事ができないのだろう。
察した実態は、その日二時間ほど見ていただけで正しかったと確定する。

同じ月齢に話しかけられても返事が遅い。
お昼寝の時間は、他の子が着替え終わる時間に服を一枚脱ぐだけで精一杯。

それでも、生きている事に安心してしまったから。
つい、職員の人の勧めを受けてしまった。
「おかー……さん?」
首を傾けるあやふやな問いに、「そうだよ」と答えてしまった。

教えるつもりもなかった連絡先まで残してしまって、それから十年、と、もう少し。
高校卒業年の三月末に行われたという施設の退所式にも出なかった。
写真もないまま、桜を眺めて一人で願った。
どうか、少しでも幸せになっているように、と。

一度会っただけだ。
あの子はきっと覚えていない。
黙って恨まれているものだと思ったから。

ところが、だ。
退所が最後だと思っていた施設から連絡が来た。
個展を開催するという。
葉書の裏面には、針金で柔らかな曲線を描くよく分からない立体の写真がいくつも載っていて、真ん中には、針金で作られた罰印が三つ。
「弦で彩る世界に、愛を込めて」という文章は、個展の題名だろうか。

そして気づく。
真ん中の針金……ではなく、弦でかたどられたのは、罰印ではない。
あの子を生んだ頃、学校の仲間うちで流行っていたのを思い出す。
xxx
英語圏で手紙の最後に添えてキスを表し「愛しているよ」の意味だ。
派生でxoxなんかもあったなぁ、と本来の意味も、言葉の重さも分からずに使っていた苦さを思い出す。

行ってみよう。
覚えていなくてもいい。
恨まれていてもいい。

生んでしまった今が、あの子にとって少しでも幸せであったらいい。
そう願いながら。

×××
ドラ息子


×××は愛情を表すとかいう英文手紙の文末定型句ですか?w

から進まず……結局Androidアプリ「アイデア発想塾」の力を借りました。
弦で何かを作るドラ息子、から捨てられた子供になりました。
完成してから、息子視点の方が良かったかな、とも思いましたが、男性主人公と女性主人公を交互に書いているので変更できませんでした。
xxxは子供から来た手紙の文末になる予定でしたが、弱かったので個展の題名に変更。
罰印で自分に対する罰とか思っていそうです。
父親は……何となく売春とかかと思っていましたが、堕ろさなかったところを見ると、双方合意の上という雰囲気ですね。

2019.5/10 和美
こんにちは、和美です。
この記事は『 三題噺お題作成ツール 』 を使って出てきたお題を元にした小説です。
話の展開が全般的に唐突。
主人公視点、個人名なし、読み切り、です。
同じテーマの記事はカテゴリー 「 文章 」 からどうぞ。


その事故は一瞬の出来事だった。

僕は、スケートボードをしていた。
日本じゃ、公園の一角でズボンを腰まで落とした連中が遊んでいる感覚しかないようだが。
滑る場所を雪上に移したスノーボードがXゲームや冬季五輪で競技されている事を考えれば、人気がないだけでプロプレイヤーがいそうだと分かって頂けるだろう。
そう、プロを目指していた。
あの事故を起こすまでは。

しまった、と思った次の記憶は、ぼんやりとした白い空間だった。
病院だと気づくのに数日掛かったから、もしかしたら頭にもケガをしていたのかもしれない。

何に 「 しまった 」 と感じたのかも覚えていないが、病室で目覚めたらしい僕は……抱いた夢が永久に叶わなくなった事に、その場で気がついた。

足の感覚が、ないのだ。
切断か、と震える手で辿った先には、自分の身体から生える脚が存在している。 
なのに、その足に触れた手の感触が、ない。

僕は、人の訪れない病室で泣き続けた。


そんな僕にもずっと黙って側にいてくれた存在がある。
かつては相棒だった、それ。
…… 否、夢を失くした今も相棒だ。

スケートボードは僕より痛手を負ったのだろう。
そして、僕の現状を顧みれば、直す事は無駄だと判断されたのだろう。
古くも新しくも、大きくも小さくもある、あちこちの傷が癒える事はない。
応急処置のように縫合されてはいるが、真ん中に入った線は、その身が大きく折れた事を教えてくれていた。

ブロック体で書かれた名門のロゴに被害がなかったのは不幸中の幸いと思うべきか。
adidas ーーー
手を伸ばしてその文字と、棒が列を成して描く三角のマークをなぞる。

初めて見たプロスケートボーダーが使っていたのに憧れて、少ないお小遣いを貯めてようやく買った物だった。

そうだ、傷を削って埋める方法があったはずだ。
僕は白い病院を歩いて探し回り、接着剤のような物と、紙やすりを手に入れた。

…… この病院、誰もいないよな ……。

よぎる疑問が警鐘を鳴らす音がした。
けれど僕は、大切な相棒の傷を癒やす事を選んだ。
大丈夫、時間ならたっぷりある。

傷に接着剤を塗って埋め、乾いたら紙やすりで盛り上がった部分を均す。

その治療の間、寝た覚えはない。
お腹も空かない。

本当は、気づかなきゃいけなかったのだ。
誰も来ないここは、病院なんかじゃなかったという事に。
事故の結果と …… 現実と向き合うには、僕はあまりに幼かった。


手を休めた僕は、夢を見た。

知らない人が、知り尽くしたような顔で眉をひそめて囃し立てる。
「 まだ小学生でしょ ……」
「 遊んでいる最中の事故ですって 」
「 はねられたお子さんが意識不明のままで、損害賠償なんだとか 」
「 怖いわねえ…… あの公園で遊ばせるの、やめようかしら 」

濡れたままの、疲れた顔が僕に話し掛ける。
なんで、ママ。
「 ねえ、そっちは楽しいかしら 」
「 大事にしていたスケートボード、棺に入れてあげられなくてごめんね 」
「 もう少し待っててね。ママもすぐそっちに行くから 」
なんで、ママ。
ママ、僕は……。

僕は、ここに、

いない、のかな。

せいれい、って言うんだっけな。
お化けみたいなやつなのかな。

そして僕は知る。
僕の現実を。


その夜、マンションの一角が燃え上がった。


-了-
アディダス、精霊、紙やすりでした。

アディダスって……スポーツ用品メーカーですか。
という、あんまりにも直接的なお題に全く話が思い浮かばず……。
Androidアプリの「アイデア発想塾」を使って、
・adidasが好きな精霊(しょうりょう。死者の魂)→スポーツが好き
・怪我でダメになった→本当は死んだ
・紙やすりで何かを削って作るデザイナーになる
まで捻り出して書きました……。
スケートボードはアディダス公式サイトで扱っている製品を見て決めました。

書き始めた当初は、adidasのメーカーに住み着いた小人さんのような存在にするつもりだったのですが。
つい最近、自転車事故で異常な賠償金を請求されたニュースを見かけたのでこんな結末になりました。
六十歳の命に一千万円の価値はない。

2017/12/09   和美
こんにちは、和美です。
この記事は『 三題噺お題作成ツール 』 を使って出てきたお題を元にした小説です。
話の展開が全般的に唐突。
主人公視点、個人名なし、読み切り、です。
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「日本沈没」という名前の小説があった。
その小説は随分と話題になり、案の定映画化され、その後、「日本以外全部沈没」とかいう題名のパロディ小説が出たのを覚えている。

だが、今のこの状態は。
「会社だけ水没?」
パロディにしては地味。
題名も面白くない。
パニック映画にしようにも、逃げ惑う人がいない。
小説であれば粗筋の時点で編集者から、映画であればプロットの時点で制作会社から、いずれも却下されてしまう素案である。
まあ、筆力がある作家なら、その題名と舞台設定でも、読者や観客を惹きつける作品が出来上がるのかもしれないけれど。

「残念、ここは虚構じゃなくて現実よ」

作品を投げ出した事で知られる監督の、最新映画のキャッチコピーを思い出させる声が後ろから聞こえる。
そういえば特撮が好きで、でも監督は嫌いで、見に行こうかどうか悩んでいたっけ。
「先輩、」
私は振り向いて呼びかける。
営業部専属の事務である私とは違い、経理部で係長を務める女性。
腕を組んでやれやれと呆れたような顔で立っていた。

「で、何よこれは」
「何よこれは、と言われたら……答えてあげる世の情けはないみたいですよ?」
「なんでうちの会社だけ水没してんのかしらね」
「さあ?」

会社が単独で持っている、五階建ての自社ビル。
建築時の法律だか税金対策だかで、ビルの……会社の名前が書かれた看板の横にある階段から、半分地下に降りた場所を一階としている。
(だから、外見は一応四階建て半である)

今、その一階が丸ごと水に浸かっているのだ。

「ま、理由なんて考えても仕方がないわ」
「ちょっと経費でバケツでも買おうかしら」
えー……
先輩の言葉に、営業やら広報やら開発やらその他、あちこちに所属する男性社員の嫌そうな声が挙がる。

バケツなら、すぐそこの商店街に銀色のが売っている。
経費でバケツを買う事に異論はない。
けれど、会社に溜まった水をバケツで汲み出していたら、人が何人いたって日が暮れてしまう。
まだ、朝だけど。

「じゃ、どうする? 仕事ができなくても終業時間までは帰れないわよ」
先輩の質問に、先程は批難の声を挙げたみんなが言葉を詰まらせる。

「ま、ぼーっとしているしかないんでやりますけどね」
「あと十分経ってからなら」

現在八時二十分。
始業時間まで、もう少し。


「それもそうね」


……バケツを売っているお店が十時開店だと私達が気づくのは、それから十分経ってからだった。

-了-
お題は水没、会社、商店街でした。

会社も商店街も水没したのか……w
三題噺を保存した時の↑の呟き以外、何も思いつきませんでした……。
結局会社だけが沈没することに。

日本沈没、日本以外全部沈没、両方読んでいませんし、映画も見ていないのでどんな話なんだか。
ちなみに「虚構か、現実か」は新世紀エヴァンゲリオンをぶん投げた、庵野秀明監督の映画「シン・ゴジラ」
……破まで公開されたので最新作ではなくなりましたね。
完結するとは思っていません。

水没理由は、近くの工事とかの振動がきっかけで地下水が湧き出たためです。
夜間は施錠してある扉の隙間から漏れ出したので、階段も水没しました。
上階へ昇る階段はビルの裏側。
二階の窓は防犯対策で金網を入れてあるので、割っても社内には入れません。

……この理由だと、水を汲み出す作業が終わりませんね。
頑張れみんな。
2018.9/18、公開:2021.01/25
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プロフィール
書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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