気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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こんにちは、和美です。
この記事は『 三題噺お題作成ツール 』 を使って出てきたお題を元にした小説です。
話の展開が全般的に唐突。
主人公視点、個人名なし、読み切り、です。
同じテーマの記事はカテゴリー 「 文章 」 からどうぞ。
その事故は一瞬の出来事だった。
僕は、スケートボードをしていた。
日本じゃ、公園の一角でズボンを腰まで落とした連中が遊んでいる感覚しかないようだが。
滑る場所を雪上に移したスノーボードがXゲームや冬季五輪で競技されている事を考えれば、人気がないだけでプロプレイヤーがいそうだと分かって頂けるだろう。
そう、プロを目指していた。
あの事故を起こすまでは。
しまった、と思った次の記憶は、ぼんやりとした白い空間だった。
病院だと気づくのに数日掛かったから、もしかしたら頭にもケガをしていたのかもしれない。
何に 「 しまった 」 と感じたのかも覚えていないが、病室で目覚めたらしい僕は……抱いた夢が永久に叶わなくなった事に、その場で気がついた。
足の感覚が、ないのだ。
切断か、と震える手で辿った先には、自分の身体から生える脚が存在している。
なのに、その足に触れた手の感触が、ない。
僕は、人の訪れない病室で泣き続けた。
そんな僕にもずっと黙って側にいてくれた存在がある。
かつては相棒だった、それ。
…… 否、夢を失くした今も相棒だ。
スケートボードは僕より痛手を負ったのだろう。
そして、僕の現状を顧みれば、直す事は無駄だと判断されたのだろう。
古くも新しくも、大きくも小さくもある、あちこちの傷が癒える事はない。
応急処置のように縫合されてはいるが、真ん中に入った線は、その身が大きく折れた事を教えてくれていた。
ブロック体で書かれた名門のロゴに被害がなかったのは不幸中の幸いと思うべきか。
adidas ーーー
手を伸ばしてその文字と、棒が列を成して描く三角のマークをなぞる。
初めて見たプロスケートボーダーが使っていたのに憧れて、少ないお小遣いを貯めてようやく買った物だった。
そうだ、傷を削って埋める方法があったはずだ。
僕は白い病院を歩いて探し回り、接着剤のような物と、紙やすりを手に入れた。
…… この病院、誰もいないよな ……。
よぎる疑問が警鐘を鳴らす音がした。
けれど僕は、大切な相棒の傷を癒やす事を選んだ。
大丈夫、時間ならたっぷりある。
傷に接着剤を塗って埋め、乾いたら紙やすりで盛り上がった部分を均す。
その治療の間、寝た覚えはない。
お腹も空かない。
本当は、気づかなきゃいけなかったのだ。
誰も来ないここは、病院なんかじゃなかったという事に。
事故の結果と …… 現実と向き合うには、僕はあまりに幼かった。
手を休めた僕は、夢を見た。
知らない人が、知り尽くしたような顔で眉をひそめて囃し立てる。
「 まだ小学生でしょ ……」
「 遊んでいる最中の事故ですって 」
「 はねられたお子さんが意識不明のままで、損害賠償なんだとか 」
「 怖いわねえ…… あの公園で遊ばせるの、やめようかしら 」
濡れたままの、疲れた顔が僕に話し掛ける。
なんで、ママ。
「 ねえ、そっちは楽しいかしら 」
「 大事にしていたスケートボード、棺に入れてあげられなくてごめんね 」
「 もう少し待っててね。ママもすぐそっちに行くから 」
なんで、ママ。
ママ、僕は……。
僕は、ここに、
いない、のかな。
せいれい、って言うんだっけな。
お化けみたいなやつなのかな。
そして僕は知る。
僕の現実を。
その夜、マンションの一角が燃え上がった。
-了-
アディダス、精霊、紙やすりでした。
アディダスって……スポーツ用品メーカーですか。
という、あんまりにも直接的なお題に全く話が思い浮かばず……。
Androidアプリの「アイデア発想塾」を使って、
・adidasが好きな精霊(しょうりょう。死者の魂)→スポーツが好き
・怪我でダメになった→本当は死んだ
・紙やすりで何かを削って作るデザイナーになる
まで捻り出して書きました……。
スケートボードはアディダス公式サイトで扱っている製品を見て決めました。
書き始めた当初は、adidasのメーカーに住み着いた小人さんのような存在にするつもりだったのですが。
つい最近、自転車事故で異常な賠償金を請求されたニュースを見かけたのでこんな結末になりました。
六十歳の命に一千万円の価値はない。
2017/12/09 和美
この記事は『 三題噺お題作成ツール 』 を使って出てきたお題を元にした小説です。
話の展開が全般的に唐突。
主人公視点、個人名なし、読み切り、です。
同じテーマの記事はカテゴリー 「 文章 」 からどうぞ。
その事故は一瞬の出来事だった。
僕は、スケートボードをしていた。
日本じゃ、公園の一角でズボンを腰まで落とした連中が遊んでいる感覚しかないようだが。
滑る場所を雪上に移したスノーボードがXゲームや冬季五輪で競技されている事を考えれば、人気がないだけでプロプレイヤーがいそうだと分かって頂けるだろう。
そう、プロを目指していた。
あの事故を起こすまでは。
しまった、と思った次の記憶は、ぼんやりとした白い空間だった。
病院だと気づくのに数日掛かったから、もしかしたら頭にもケガをしていたのかもしれない。
何に 「 しまった 」 と感じたのかも覚えていないが、病室で目覚めたらしい僕は……抱いた夢が永久に叶わなくなった事に、その場で気がついた。
足の感覚が、ないのだ。
切断か、と震える手で辿った先には、自分の身体から生える脚が存在している。
なのに、その足に触れた手の感触が、ない。
僕は、人の訪れない病室で泣き続けた。
そんな僕にもずっと黙って側にいてくれた存在がある。
かつては相棒だった、それ。
…… 否、夢を失くした今も相棒だ。
スケートボードは僕より痛手を負ったのだろう。
そして、僕の現状を顧みれば、直す事は無駄だと判断されたのだろう。
古くも新しくも、大きくも小さくもある、あちこちの傷が癒える事はない。
応急処置のように縫合されてはいるが、真ん中に入った線は、その身が大きく折れた事を教えてくれていた。
ブロック体で書かれた名門のロゴに被害がなかったのは不幸中の幸いと思うべきか。
adidas ーーー
手を伸ばしてその文字と、棒が列を成して描く三角のマークをなぞる。
初めて見たプロスケートボーダーが使っていたのに憧れて、少ないお小遣いを貯めてようやく買った物だった。
そうだ、傷を削って埋める方法があったはずだ。
僕は白い病院を歩いて探し回り、接着剤のような物と、紙やすりを手に入れた。
…… この病院、誰もいないよな ……。
よぎる疑問が警鐘を鳴らす音がした。
けれど僕は、大切な相棒の傷を癒やす事を選んだ。
大丈夫、時間ならたっぷりある。
傷に接着剤を塗って埋め、乾いたら紙やすりで盛り上がった部分を均す。
その治療の間、寝た覚えはない。
お腹も空かない。
本当は、気づかなきゃいけなかったのだ。
誰も来ないここは、病院なんかじゃなかったという事に。
事故の結果と …… 現実と向き合うには、僕はあまりに幼かった。
手を休めた僕は、夢を見た。
知らない人が、知り尽くしたような顔で眉をひそめて囃し立てる。
「 まだ小学生でしょ ……」
「 遊んでいる最中の事故ですって 」
「 はねられたお子さんが意識不明のままで、損害賠償なんだとか 」
「 怖いわねえ…… あの公園で遊ばせるの、やめようかしら 」
濡れたままの、疲れた顔が僕に話し掛ける。
なんで、ママ。
「 ねえ、そっちは楽しいかしら 」
「 大事にしていたスケートボード、棺に入れてあげられなくてごめんね 」
「 もう少し待っててね。ママもすぐそっちに行くから 」
なんで、ママ。
ママ、僕は……。
僕は、ここに、
いない、のかな。
せいれい、って言うんだっけな。
お化けみたいなやつなのかな。
そして僕は知る。
僕の現実を。
その夜、マンションの一角が燃え上がった。
-了-
アディダス、精霊、紙やすりでした。
アディダスって……スポーツ用品メーカーですか。
という、あんまりにも直接的なお題に全く話が思い浮かばず……。
Androidアプリの「アイデア発想塾」を使って、
・adidasが好きな精霊(しょうりょう。死者の魂)→スポーツが好き
・怪我でダメになった→本当は死んだ
・紙やすりで何かを削って作るデザイナーになる
まで捻り出して書きました……。
スケートボードはアディダス公式サイトで扱っている製品を見て決めました。
書き始めた当初は、adidasのメーカーに住み着いた小人さんのような存在にするつもりだったのですが。
つい最近、自転車事故で異常な賠償金を請求されたニュースを見かけたのでこんな結末になりました。
六十歳の命に一千万円の価値はない。
2017/12/09 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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