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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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傍目には、どこにでもいそうな普通のおじさん。
だがこのおじさん、凄腕の探偵なのだそうだ。

と言っても、稼業は探偵ではない。
ただ、警察は幾度も捜査協力を依頼に来ているのだという。

ちなみに推理小説によくある通り、元刑事だ。

俺は先輩刑事について、初めて「おじさん」の元へ来た。
「ふーん、随分若いのが来たね」
暖炉に置いた植木をいじりながら、おじさんは言う。

「今年入ったばかりです」
「よろしくお願いします」
先輩の紹介に合わせ、俺は慌てて頭を下げた。
おじさんは、この部屋に入った時からずっと暖炉の植木をいじり続けている。
だからおじさんは俺の顔も知らないはずなのだが。
どうして俺が若い、と気づいたのだろうか。

「刑事に必要なのはな、直感だよ」
「あと思いつき。閃きだ」
それから体力だの何だのが必要になってくる。

おじさんは相変わらず暖炉に顔を入れて植木を動かしながら言う。

きっと、長い刑事生活の中で実感したことなのだろう。
俺は黙って聴いていた。

「で、おじさん、この事件なんですけど……」
先輩が話を切り替え、資料を差し出す。

暴力団員を兄に持ち、売春グループの元締めだった女子高生が殺された。
貢いでいたホスト、最近切れたという男、兄の友人である暴力団員。
売春で性病を感染させられた友人、言いがかりをつけられ脅された知人。
主に容疑が掛かった人間の交友関係まで調べると、容疑者は多岐に渡った。

「お前はどう思う?」
おじさんは資料を一瞥すると、先輩と、そして俺に聞いた。

「自分はこのホステスだと思います」
先輩は被害者が貢いでいたホストの、愛人であった女を挙げた。
女は日頃から、ホストが話題に出す被害者の事を妬ましく思っていたという。

「お前は」
おじさんが俺に意見を求める。
自信ないんだけどなぁ……。
「母親、か父親、だと思います」
後ろに「何となく、ですが」と小声でそっと付け足した。

「いい目しとるね。第六感がちゃんと働いとる」
おじさんは、初めて俺と正対して言った。

隣で先輩が驚く。
おじさんは続けた。
「母親が実行犯だろう。父親が指示に回った。だが共犯だ」
「高校生を川まで運んで八つ裂きにするなんて、女性の力じゃ無理だ」


「後は自分らで調べな。アリバイとか言うのは好きになれん」
「はっ!」
ふい、とおじさんは背を向けると、暖炉の近くにあったソファに座った。


そして調べた結果。
本当に犯人は両親だった。
親の名前で深夜徘徊を繰り返し、妊娠までした子供が許せなかったのだという。
「あんなのを生み出したのは私達の責任です」
「だから私達が始末しなければ……」
取り調べの際、母親はそう語ったという。


完。
すみません不手際で二十五のログ取り損ねましたorz
おじさん・第六感・暖炉でした。
ええと久々すぎる件。

刑事がこれで良いのかと思いつつ、でもお題が第六感だったのでこんな超能力捜査になりました。
現職の皆様方すみません。
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久々に文庫本を買った。
最近、仕事の都合で実用書しか読めていなかった私にとって、それは一時の憩いだった。

しかし。
「外した……かなぁ、これは」
作家は新人らしい。
なんちゃってファンタジーとでも言うべき内容。

――
「くっそー!これでも食らいやがれっ」
俺はシャキーンと鳴る、秘められた鋏を構えて叫んだ。

「奥義・黄金の鋏(ゴールド・シザー)!」

ゴゴオオオオオオオオオオオ!と奇妙な音を立てて、敵は崩れた。
だが、これで終わりじゃない。
俺は、相変わらずつま先立ちをするような恰好で浮かび続ける彼女に寄り添った。

――

大した特徴もないカタカナの効果音。
出てくる武器や技、そしてただの情景描写にまでつけられる、漢字で書いて英語その他外国語でふりがなを振る難読のオンパレード。
メインヒロインと思しき特殊生命体に限らず、出てくる女性は全て可愛く美しく、しかも全員主人公が好きだと言う。

「今度からはこの人、買わないでおこう……」
文庫本一冊七百五十円也。
それは、内容をよく見ないでポップアップだけで買うと損をする、ということの勉強代となった。


完。
え、何これwww
文庫・シャキーン・つまさき立ちでした。
実体験ではないですが、何となく読みづらい文章の人っているんですよね。
擬音はよほど特徴ある書き方でないと文章が軽く=現実味がなくなるというのは、「ラノベの書き方」で書いてあった内容です。
最近文庫本買わないので、一冊いくらか忘れました……。
中原涼先生、生きてらっしゃるんだろうか。
文化祭の出店内容を決める、ホームルーム。
俺らのクラスは非常にいい加減というか適当というか、非常にマイペースな雰囲気だ。
こういう事項になると、特にその雰囲気は顕著になる。
「どーすんだよもう……」
黒板を背にし、俺はコンコンとチョークで黒板を叩いた。
「えー、別に何でも良いよ」
「てか適当に決めてよ」
教室のあちこちからいい加減な言葉が聞こえる。
「ちょ……お前らなぁ……」
ちなみに俺が進行役を務めているのは、四月に文化祭実行委員に任命されてしまったからである。
もちろん俺が立候補した訳じゃない。
「ったくもー……」
グチグチ言いながら、俺も妙案がある訳じゃない。
結局俺も、このクラスの一員なのである。
先日……五月末に行われた体育祭の時は、出場種目が決まっていたからくじ引きにしたのだけれど。
文化祭は何もない状態から決めるのだ。同じ手は使えない。
「あー、近隣のクラスはもう喫茶店とか何とか決まってるらしいけど」
「別に出店内容が多少重なっても良いらしいです」
俺は先週の文化祭準備会議で言われた事を、再度繰り返す。
「何かやりたい事……マジでない?」
ホームルームが始まって早くも十分が経とうとしている。
俺はすでに諦めかけながらも、一応聞いてみる。
うーん、ほんとそろそろヤバイんだろうけどなぁ。
コンコンと教室の扉が鳴らされる。
「はいー?」
「えーと、どう?」
俺が返事すると、入ってきたのは一つ離れた隣の組の文化祭実行委員だった。
「どーもこーも相変わらず」
俺があきれ返ったような返事を出すと、そいつはほっとしたような顔をした。
「うちのクラスさぁ、部活やってる奴が多くて、売り子とか足りなくなりそうなんだよ」
「そんで、うちと共同出店て形取れないかなーって思ったんだけど」
「はぁ……」
まさか他のクラスと合同出店とか。
そんな話が浮上してくるなんて思わなかった俺は、呆気に取られるしかない。
「え、それで良くね」
一人が声を上げた。
静まった中では、その呟きも、随分大きく聞こえた。
それに呼応するかのように、賛同の声が上がる。
「決まりで良いじゃん」
「おーけってーい」
「ちょ、お前ら……」
一気に賛成に傾くクラス内を制し、俺は実行委員に確認する。
「えーと、普通の喫茶店?」
「一応甘味処って名乗ってるけどまぁ喫茶店だわな」
「出すのはティーバックの紅茶とインスタントのコーヒーに、あと一部女子が作る焼き菓子」
これはメンバー決まってるよ。と言い添えられる。
「要するに表で客にお茶出す人がいない訳」
「りょーかい」
言いながら、俺は未使用だった黒板に概要をまとめていく。
「はい、これで良い?反対意見ないなら決まり」
教室の中が静まる。
ていうか、これで決まりみたいな顔で帰る準備を始めるな。
「じゃあ決まりな」
「えーとじゃあA組のことよろしくお願いします」
実行委員が頭を下げる。
「おー、どう?」
扉を開けてひょっこり顔を出したのは、共同出店が決まったA組の、ムードメーカーとでも呼ぶべき人。
「決まったー」
実行委員が軽く返事をする。
「よし、じゃあ三本締めしてこうぜ」
……は?
「三本締め。決まったら三回手打つんだよ。知らない?」
「……いや、それは知って「じゃあやろうぜ。さーんはい」
クラス全員で三度打った手の音は、少し離れたA組まで届いたそうだ。
完。

近隣・賛成・三本締めでした。
あ、久々にまともに書きやすそうw と思ったんだけど……ううん、すんなり話が進みすぎる気がして断念><
このやる気のなさは某所チームですww(えええ
「へいゆー、今日も元気に生きてるかーい!?」
うちのバンドの定石。
それは、ライブのトーク内で行われる、戯言のような約束。

私は趣味のバンドでドラムをやっている。
友人の友人が主催という知らないバンドで、ドラムを募集しているからと紹介してもらったものだ。

「先週の約束通り、ギターが新曲作ってくれましたー」
「っつーことで、次の曲行っくよー【親子鳥】」
くだんの無責任トークはベースが担当している。
ボーカルは歌が上手い割に口下手、作曲担当のギターも話が苦手。
そんな事情で、バンド内のムードメーカーに決まったのだが、これが意外に受けている。


 かるがも親子が泳いでた
 小さな池 近所の公園
 
 親の背中追っかけ泳ぐ 小さな雛
 見てないようで見てる親の目線
 
 いっつも先行く親の背中を
 追っかけ追いつく小さな俺
 いつかその背越えるまで
 親の背中眺めて泳ぐ

月に一度の定期ライブは合同開催で、今回は制限三曲までとなっている。
一番盛り上がる二曲目と三曲目の間に、長めのトークが入る構成が定期ライブの定石。
ちなみに先週は別バンドの記念で、前座として出演させてもらったのだ。

しかし練習できたのが結局三日というのは厳しい。
サビ直前の転調部分で間違えてしまった。

「じゃあ……今週は何にしよっかな」
――もう一曲頑張れー
――あの曲やってー
ベースの振りに、客席から声が上がる。
「はいはい、何かおもしろそーな声が聞こえたよ?」
そこ!とベースが一人の客を指差した。
指名された客は男で、少し酔っているらしい。
泥酔では入れないし、中ではアルコールを提供していないから軽く、なのだろうが。


「ドラムメインの曲聴きたい」

……は?

「おっけー。うん、ドラム上手いよね。って自画自賛ですが(笑)」
「じゃあ来月までに頑張ってきっまーす。三曲目行くよー!」


その三曲目を、私はちゃんと叩けた自信はない。
ただ、メンバーから大丈夫だった、と言われた事だけが救いだ。



完。
戯言って何だ。
お題は定石・戯言・ライブでした。
定石って何?戯言(たわごとと読むのが正しいらしい)って何とか思いながら普通のバンドにしてみました。
ライブ以外のお題、全部微妙だなw

あ、途中の詩は捏造です。
バラードにしか見えませんが、適当なアップテンポで各自歌ってください。
旧街道沿いに残る、昔の旅館……旅籠。
俺は、当時からそのまま営業を続けているという、とある旅籠に宿泊する事になった。

ちなみに俺は、史跡を主に紹介する旅行雑誌の編集を仕事にしている。
その旅籠の周りには、史跡が多く残っているのだ。

昔賑わった、というがさして大きくもないその旅館……ではなく、旅籠。
俺は八畳の和室に荷物を置くと、貴重品だけを持って外に出た。

「風呂、どこだろう」
「お風呂は近くの温泉を使うそうですよ」
きょろきょろと辺りを見渡す俺を見かねたのだろう。
一人の男性が声を掛けてきた。

「ああ、ありがとうございます。……温泉って?」
「近くに源泉があるんですよ。だからお風呂がないんですって」
にこやかに笑う男性は、俺より少し年下に見えた。
一人旅が多いのだろうか、初対面の俺に親切に解説をする。
ほー。と俺が感心したような声を出すと、何も知らないと見たのだろう。
「良かったら一緒に入りに行きますか?」
実際、事前知識がほとんどないのは事実だ。
俺はありがたくその言葉に甘えさせてもらった。


男二人、ほっこりと温まった。
説明によると、混ぜ湯をせず源泉を冷まして適温を保っているのだそうだ。
「はー、良い湯だったな」
「ですね。温泉にしては適温でした」
男は、硬質そうな髪をドライヤーで乾かしながら言う。

「ドライヤー使うんだなー」
「はい。こうしないと乾かなくて枕濡らしちゃうんですよ」
枕が濡れると旅館の方に迷惑ですしね、と男は笑った。

「なぁ、明日さ、旅籠に泊まった感想聞かせてくれないかな」
「?良いですけど……」
きょとん、とした顔の男に、俺は口頭で説明する。
旅雑誌の編集をしていること。
今回、旅籠をメインに扱うこと。
その記事にコメントを使わせてほしい、と。

「へー、雑誌編集の方なんだ。良いですね」
男は名刺もない俺の説明をすんなりと聞き入れ、感心したように声を上げた。
「あ、俺インタビューみたいなのだと色々言い忘れちゃうんで、逐一コメント出すとかでも良いですか?」
「ああ、良いよ」

明後日まで泊まるという男と無事に約束を取り付けた俺は。
旅館に帰ると、自室でゆっくりと記事の構想を練り始めた。



完。
お題はドライヤー・旅籠・コメントでした。
え、コメント?とか思ったのですが、利用者の感想とか女将のお薦めポイントとかもコメントって言いますよね。
毎回キーワードを一つ検索して、それを軸に話を組み立てている気がします。
今回だと旅籠がそれです。wikiたんこういう時は助かる。

主人公の相手役は異性になりやすいので、今回は同性にしてみました。
ドライヤーが割と自然に出せたので結果オーライですw
初めに。
「三題噺 二十!」と旧「三題噺 二十一」の中身が一緒でした。
よって6/19午後8時頃に旧「三題噺 二十一」の記事を削除し、「三題噺 二十二」を「三題噺 二十一」に改めました。
すみませんでした。
以上。
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綿棒の入れ物に描かれた獅子。
中国地方、と呼称される地域を中心に、その綿棒は広まっていた。

それは、そう古くない物語。
乱暴な獅子が、とある地域を荒らしまわっていた。
獅子と言ってもアフリカの草原に生息する百獣の王、ライオンではない。
その当時でさえ伝説や神話の世界にのみ伝わると思われていた、聖獣である。
狛犬の片割れであり、獅子舞となって踊る、それ。

強暴な性質ではないと伝えられていたのだが、この獅子だけは違った。

獅子が根城にしていたのは、鳥取とも岡山とも、広島とも山口とも言われるが、少なくとも中国地方ではあったらしい。

時の政権は、その獣が中国地方から他の地方へ勢力を広げることを恐れ、様々な手段を取った。
舞を奉納し、捧げ物を贈り、人柱を立てた。
だが、いずれも効果がなかったという。

「やがて、うちにも来るんだろうな……」
「ええ……。残念ですが、今年の農作物は無理でしょうか……」
三日と空けず作物を食い荒らす獅子により、隣の村は既に全滅。
隣の村と接する家から、ほぼ順番に被害が出ているという情報が、私達の元にも伝わっていた。

夫の遠く、獅子が来る方角を見つめるようなぼんやりとした眼差しに。
私も、もう駄目かもしれないという思いが頭を占めていた。

翌日、朝から夫と共にお役所に掛け合い、村の被害は国が補填してくれる事になった。
けれど。
村を離れて都会で暮らす娘達に、今年も美味しい作物を届けたかった。
その願いだけは、どうにもならないようである。


「あら、あれ……」
「なっ!」
隣家が管理する畑に、見慣れない緑の毛むくじゃら。

「っきゃああああああ!」

そう、まさしくそれが獅子。
村の半ばまで、もう侵入していただなんて。


気がつくと私は、部屋に横たえられていた。
「驚いたんだろう、倒れたから驚いた」
心配そうに夫は言う。
そうか、私は倒れたのか。

目を閉じれば思い出す。
赤い顔、緑色の毛が生えた巨体。
「俺は寄り合いに行かなきゃならんのだが……一人で大丈夫か?」
「……ええ。大丈夫よ、あなた」

私は座って夫を見送った後、再び目を閉じた。
毛むくじゃらの身体。
最後に見たのは、畑に頭を擦り付けるような、奇妙な仕草だった。
まさかマーキングでもしているのだろうか。
曲がりなりにも、精霊と呼ばれる生き物が。


そしてその日の夜。
夫は帰ってこなかった。
代わりに家に来たのは、招かれざる客……獅子。

どこかに身を潜めていたのだろうか。
隣家を襲った後、現れたという話は聞かなかったはずだ。

私はその巨体を目の当たりにして、ある事に気づいた。
「……耳、どうしたの?おまえ」
耳に、何か小さなものが挟まっているようだった。
赤い体に対し、耳の中は白い。
ふさふさとした毛の中に、青い何かが覗いていた。


獅子は人語を解するのだろうか。
のっそりと縁側から居間に上がると、獅子は私の目の前におとなしく座った。
私は警戒心を解かないよう気をつけながら、耳の中を覗き込む。
だが、青い異物は白い毛に埋もれて見えにくい。
「……うーん、ちょっと待ってて」
私は救急箱を漁り、綿棒を一本取り出した。
耳かきがあれば良かったのだが、生憎、先日紛失したばかりだったのだ。
綿棒で毛を横に押しやり、中の青に指を伸ばす。

出てきたのは、青く塗られた木。洗濯バサミの欠片だろうか。
「あらら、こんなもの挟まってたのね」
前を向いた獅子にも見えるよう、青いものを手の平に載せる。

獅子は目だけを動かして確認すると、少し頭を上下に動かして。
入ってきた時と同じようにゆっくりと庭に降りる。

庭で猫のように後ろ足で耳を掻くと、風に乗って消えていった。



そんな言い伝えが、中国地方にはあるそうな。


完。
お題は獅子・中国地方・綿棒でした。
えええ、何この脈絡のなさ。せめて中国だったら良かったのに……。
と諦めかけながら、何とか形にしてみました。
中国地方にそんな話はないと思いますが、意外と知られていない昔話ってあると思うのです。
例えば「くだん」(件)って災いを警告する生き物とか。
もっとも、最後に現れたのは第二次世界大戦前らしいですが。
「日本が負ける」と残したそうです。
一次産業が大半を占める、とある王政の国。

「くっそ……今年も豊作は期待できそうにないな……」
俺は腕で汗を拭って空を見上げた。
育てているのは、この国の特産物。レアメタル。

レアメタルは基本的に地中から採れるもの、らしいのだが。
この国では、ヤシに似た木の実から少量採れるのだ。
メタルツリーという何とも安直な名前のその木は、実がなるかどうかすら天候に酷く左右される。
そしてその実から抽出される量もまた、土壌成分で異なる。

生産家からみれば、気まぐれの一言。

だが、この国に職業選択の自由はない。
王族やごく一部の選ばれた人、を除き、全てがメタルツリー生産家だ。

「ねえ、今年はどう?」
「やっぱり……年貢収めるの厳しそう?」
彼女がタオルを差し出しながら恐る恐る声を掛けてきた。
「うーん、厳しそう……だなぁ。今の時期にこの晴天じゃ」
もっと雨が降ってくれないと、と俺は言外に含ませて。


この国、年貢制度を採っている。
先代までは、メタルツリーの実を年間一万個、だったのだが。
今の国王に代替わりしてから、少しだけ年貢率が変わった。
レアメタルを年間500g、実物で納めよ、とのお触れが出たのだ。

メタルツリーの実一万個からは天候の良い時で1kg以上抽出できる。
しかし天候がうまく合わないと、一万個から300g前後にしかならない時もある。

天候不順の年が続いている時に、その改定は重かった。

ちなみに、俺に話しかけてきたのは婚約者でもある恋人だ。
彼女もまた、メタルツリー生産家だった。
ただ、彼女の兄が才能を認められ、俺のような一般農家より少しだけ、年貢率が優遇されている。


「何か解決策ってないものかなぁ……」
「うーん……、そんなのがあったら、すぐに教えてあげるんだけどね……」
彼女の困ったような顔に、だよなー、と俺は乾いた笑いを返す。


実家の農園に戻る、という彼女と別れ、俺は家に帰る道を歩き出した。

農園の端に、誰かいる。


……選ばれた人、だろうか。
俺は男を注視した。
厚い黒縁の眼鏡を掛けた、研究者のような出で立ち。

男は人差し指で眼鏡の位置を調整すると、道路へと消えて行った。
急いで後を追おうとしたが、影も形も見当たらなかった。

男が立っていた場所には、メモ帳が一冊、落ちていた。
俺はそのメモ帳を手に取る。
表紙には、たった一行、こんな疑問文が書かれていた。


……人生の分かれ道。この先、どちらを選ぶ?


そんなの、より良い方、に決まってるだろ。


そのメモ帳を拾ったことが、まさか本当に人生の分かれ道だったなんて。
当時の俺は、当然ながら知る由もなかった。

完。
お題はメモ帳・年貢・人生の分かれ道でした。
パームツリーというのがアプリ「カフェつく」に出てくるので、メタルツリーはそんな感じを思い浮かべて書きました。
メモ帳よりはメモ用紙の方が雰囲気には合うのですけれどね。
私は、重い足取りで校門をくぐった。

ここは自動車教習所。
私は普通免許を取るために学校に通っているのだ

交通標識、アクセルペダルとブレーキペダル、クラッチ。
色々あったが、割とすんなりとやってこれたと自負している。

そんな私の悩み事は、課題となっている車線変更である。
田舎育ちで片道一車線ですら広いと思うのに、左折専用レーンなんてありえない。
なのに、この教習所。
高速道路という元々車線数の多いところで、更に車線変更が必須課題になっているのだ。
その課題に使われる場所が、また問題なのである。


「もう……あんな道路ありえない」

「おっはよ。今日、高速道路教習?」
「おはよー。うん、元気に事故ってくるわー…」
憂鬱な顔で弱音を吐く私に声を掛けて来たのは、この教習所で知り合った友人だった。
「あはは、事故なんか起こしそうになったら先生が助けてくれるって」
私のブラックジョークを軽く笑い飛ばす。
そういえば彼女は、もう二回目の高速実習を終えたはずだった。

「あ、そだ」
「終わったらダーツバー行かない?」
「へ?この近くに……」
あったっけ?
専用のダーツなら常に鞄に入れているけれど。

彼女と仲良くなったきっかけ……それが、ダーツという趣味である。
彼女が落としたダーツを私が拾って渡したのが最初だった。

「あるよ。ってか見つけたの。駅前なんだけどねー」
「駅前かー。ごちゃごちゃしててまだよく分かんないんだけど」
あるなら行きたい。
彼女の腕前を、私はまだ知らないから。
私の下手さもまた、彼女は知らないのだけれど。

「だから、生きて帰ってきてよ?」
「うん、分かった。頑張るね!」

私は、彼女としっかり約束をして教習に向かった。



完。
お題はダーツバー・車線変更・校門でした。
へ!?とか思ったのですが、車線変更から自動車教習所を思いついたので何とか。
ちなみに車線変更なんて簡単じゃないかと免許持って長い方は思うかもしれませんが。
大阪に妙な場所があるそうです。
目的地によっては、わずか数百mの間に端から端まで突っ切っていくという高速道路が。
環状線かな?西名阪?詳しくは知らないのですが。
そんな場所を思い浮かべてみました。

あ、そのうち関西弁キャラ出そうか←
学校帰り、俺は民芸店に寄った。

三日月の形をした看板が印象的な、まだ新しい小さな店だ。
自分でも、なぜ入ろうと思ったのかは分からない。
けれど、なぜか惹かれた。
目立つ外観ではない。珍しい雰囲気でもない。けれど。

「いらっしゃいまし」
扉を開けると、出迎えてくれたのは紺のベールを全身にまとった女性だった。
京風の、おっとりとした言葉遣い。
ベールは薄いはずなのに、なぜか何も透けては見えなかった。

「何を、お求めでしょうか」
「や、何か探していた訳じゃ……」
ないんですけど。
そう続くはずの言葉は、俺の動揺によって消えた。
ベールから覗いて見えた店員の唇に、真っ赤な口紅が引かれていたからだ。

声も、雰囲気も、唇も。
全てがちぐはぐだった。

真っ赤な口紅から想像する派手な風貌は、ベールによって覆い隠され。
おっとりとした声色から受ける穏やかな物腰と、全身を覆うベールから醸し出される曖昧な存在感は、くっきりとした口紅によって否定される。

噛み合わないその店員を、俺はもっと知りたくなった。
ただ、会話の糸口を求めて、言葉を探す。

「あの、何かお薦めとかないですかね」

「お薦め、ですか」
困ったように店員は復唱して、考え込み。
そうですねぇ。と話を切り出した。
「当店は三日月を象徴としているので、お薦めするならそちらでしょうか」
本当に気に入ったものだけを集めているのだろう。
色々あるのだが敢えて挙げるとするなら、といった口調だ。
「こちらに多く置いてあります」
ごゆっくり、と店員は店の一角を示す。

確かに言われた通り、三日月のモチーフが揃えてある。
同じ三日月と言っても色々だ。
三日月の形、描いてある絵が三日月。
それら全てが違う形をしていた。

そして俺は。
銀色のスプーンに目を奪われた。

なぜか。なんて、もう考えるのは止めた。
この店に入った時からそう。
理由なんてきっとない。
今の心境を正確に言い表しても、多分違和感を感じるだろう。

俺は直感に従って、銀色のスプーンを手に取った。
値段は大して高くない。
見た時は一瞬純銀かと思ったが、この値段ではそれもないだろう。

財布の中身を確認して、俺は店員を探した。

店の奥に、小さなテーブルがある。
そうか、あれがレジか。

そういえば。
ヨーロッパの方だったと記憶している。
貧しい子供は木のスプーンを持って、裕福な子供は銀のスプーンを持って生まれてくるという言い伝えがあった。
だから、出産祝いには銀のスプーンを贈るのだと。

「おおきにありがとうございます。またお越しやす」
純粋培養の京言葉に送られて、俺は店を出た。



完。
お題は民芸店・三日月・スプーンでした。
京都弁知りませんすみません。

こういう系好きだなぁ自分。
謎のお店に入って何かを買うっていう。
そして次に行ったらそのお店はなくなっているのですよ分かりますw
指定がスプーンじゃなきゃ意味不明な物を買わされていたと思います。
良かったね主人公www
業務用のプリンターで、午前中に終わった取引明細の控えを取る。
私のお昼前の日常だ。

最後の一枚を確認して、私は目を見張った。
「あらま、訂正印がないじゃない」
午前中最後の取引だったのだろう、ボールペンでぐりぐりと塗り潰された箇所に、訂正を証明する印鑑は押されていなかった。
「捨印もないし……仕方ないか」
私は明細に名前が記された同僚の元へ向かった。

が。
彼の席に当人はいない。
おそらく昼食を摂りに行ったのだろう。
ということは、お昼休憩が終わってからでないと捕まらない。

「はああ、面倒くさいなぁ……」
一応、複写の提出期限は今日いっぱい。
けれど、午後は忙しい部署から手伝いを頼まれている。
できれば通常業務は午前中に済ませておきたかった。

「どうしたんだ?」
「あ、先輩……」
後ろから声を掛けてくれたのは、くだんの同僚を監督する先輩だった。
「これ、訂正印欲しいんですけど……」
「ああ、そんなこと」
持っていた明細を見せると、先輩は同僚の机の中を探り始めた。
机の上を軽く見渡し、左側の引き出し、右側一段目の引き出しを開けて出てきたのは、訂正用の小さな印鑑。
「はい、これでよし」
ぽんぽんと朱肉をつけると、先輩は勝手に明細に判を押してしまった。

「良いんですか?そういう事しちゃって……」
「良いんだよ。おれの部下なんだし」
「それに見たところ、特に重要な訂正でもないし」

「現場は臨機応変。これ重要だよ」
テストに出るから覚えておくように、と先輩は人差し指を立てた。

「あはは、ありがとうございます」
私は笑って紙を受け取る。

「コピー終わったら、一緒にご飯行かない?どこでも良いんだけど」
「うーん、午後から他の部署行かなきゃいけないんですけど……テイクアウトでも良いですか?」
先輩のお誘いに、私は微妙にズレた了承。
断りたくはなかったけれど、のんびり並んでいる時間がないのもまた、厳然たる事実。

あー広報かぁ。大変だね、と気を悪くした風ではない先輩。
そういえば広報には先輩の知り合いがいると聞いたことがある。
何度か廊下で話しているのを、私も見たことがあった。

「うん、良いよ。どこかアテはある?」
「じゃあ先日できたハヤシライス屋さんで」
おっけー、と先輩は握りこぶしを上に突き上げた。



完。
うううん、一日に三本は無理でし√乙(、c゜、)ミバタリ
追記。
お題はプリンター・ハヤシライス・印鑑でした。
恋愛……かもしれないと思いながら書いていました。
しかし会社員の日常は分からんです。
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プロフィール
書いている人:七海 和美
紹介:
更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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