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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 二十!
初めに。
「三題噺 二十!」と旧「三題噺 二十一」の中身が一緒でした。
よって6/19午後8時頃に旧「三題噺 二十一」の記事を削除し、「三題噺 二十二」を「三題噺 二十一」に改めました。
すみませんでした。
以上。
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綿棒の入れ物に描かれた獅子。
中国地方、と呼称される地域を中心に、その綿棒は広まっていた。

それは、そう古くない物語。
乱暴な獅子が、とある地域を荒らしまわっていた。
獅子と言ってもアフリカの草原に生息する百獣の王、ライオンではない。
その当時でさえ伝説や神話の世界にのみ伝わると思われていた、聖獣である。
狛犬の片割れであり、獅子舞となって踊る、それ。

強暴な性質ではないと伝えられていたのだが、この獅子だけは違った。

獅子が根城にしていたのは、鳥取とも岡山とも、広島とも山口とも言われるが、少なくとも中国地方ではあったらしい。

時の政権は、その獣が中国地方から他の地方へ勢力を広げることを恐れ、様々な手段を取った。
舞を奉納し、捧げ物を贈り、人柱を立てた。
だが、いずれも効果がなかったという。

「やがて、うちにも来るんだろうな……」
「ええ……。残念ですが、今年の農作物は無理でしょうか……」
三日と空けず作物を食い荒らす獅子により、隣の村は既に全滅。
隣の村と接する家から、ほぼ順番に被害が出ているという情報が、私達の元にも伝わっていた。

夫の遠く、獅子が来る方角を見つめるようなぼんやりとした眼差しに。
私も、もう駄目かもしれないという思いが頭を占めていた。

翌日、朝から夫と共にお役所に掛け合い、村の被害は国が補填してくれる事になった。
けれど。
村を離れて都会で暮らす娘達に、今年も美味しい作物を届けたかった。
その願いだけは、どうにもならないようである。


「あら、あれ……」
「なっ!」
隣家が管理する畑に、見慣れない緑の毛むくじゃら。

「っきゃああああああ!」

そう、まさしくそれが獅子。
村の半ばまで、もう侵入していただなんて。


気がつくと私は、部屋に横たえられていた。
「驚いたんだろう、倒れたから驚いた」
心配そうに夫は言う。
そうか、私は倒れたのか。

目を閉じれば思い出す。
赤い顔、緑色の毛が生えた巨体。
「俺は寄り合いに行かなきゃならんのだが……一人で大丈夫か?」
「……ええ。大丈夫よ、あなた」

私は座って夫を見送った後、再び目を閉じた。
毛むくじゃらの身体。
最後に見たのは、畑に頭を擦り付けるような、奇妙な仕草だった。
まさかマーキングでもしているのだろうか。
曲がりなりにも、精霊と呼ばれる生き物が。


そしてその日の夜。
夫は帰ってこなかった。
代わりに家に来たのは、招かれざる客……獅子。

どこかに身を潜めていたのだろうか。
隣家を襲った後、現れたという話は聞かなかったはずだ。

私はその巨体を目の当たりにして、ある事に気づいた。
「……耳、どうしたの?おまえ」
耳に、何か小さなものが挟まっているようだった。
赤い体に対し、耳の中は白い。
ふさふさとした毛の中に、青い何かが覗いていた。


獅子は人語を解するのだろうか。
のっそりと縁側から居間に上がると、獅子は私の目の前におとなしく座った。
私は警戒心を解かないよう気をつけながら、耳の中を覗き込む。
だが、青い異物は白い毛に埋もれて見えにくい。
「……うーん、ちょっと待ってて」
私は救急箱を漁り、綿棒を一本取り出した。
耳かきがあれば良かったのだが、生憎、先日紛失したばかりだったのだ。
綿棒で毛を横に押しやり、中の青に指を伸ばす。

出てきたのは、青く塗られた木。洗濯バサミの欠片だろうか。
「あらら、こんなもの挟まってたのね」
前を向いた獅子にも見えるよう、青いものを手の平に載せる。

獅子は目だけを動かして確認すると、少し頭を上下に動かして。
入ってきた時と同じようにゆっくりと庭に降りる。

庭で猫のように後ろ足で耳を掻くと、風に乗って消えていった。



そんな言い伝えが、中国地方にはあるそうな。


完。
お題は獅子・中国地方・綿棒でした。
えええ、何この脈絡のなさ。せめて中国だったら良かったのに……。
と諦めかけながら、何とか形にしてみました。
中国地方にそんな話はないと思いますが、意外と知られていない昔話ってあると思うのです。
例えば「くだん」(件)って災いを警告する生き物とか。
もっとも、最後に現れたのは第二次世界大戦前らしいですが。
「日本が負ける」と残したそうです。
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プロフィール
書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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