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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 十九
一次産業が大半を占める、とある王政の国。

「くっそ……今年も豊作は期待できそうにないな……」
俺は腕で汗を拭って空を見上げた。
育てているのは、この国の特産物。レアメタル。

レアメタルは基本的に地中から採れるもの、らしいのだが。
この国では、ヤシに似た木の実から少量採れるのだ。
メタルツリーという何とも安直な名前のその木は、実がなるかどうかすら天候に酷く左右される。
そしてその実から抽出される量もまた、土壌成分で異なる。

生産家からみれば、気まぐれの一言。

だが、この国に職業選択の自由はない。
王族やごく一部の選ばれた人、を除き、全てがメタルツリー生産家だ。

「ねえ、今年はどう?」
「やっぱり……年貢収めるの厳しそう?」
彼女がタオルを差し出しながら恐る恐る声を掛けてきた。
「うーん、厳しそう……だなぁ。今の時期にこの晴天じゃ」
もっと雨が降ってくれないと、と俺は言外に含ませて。


この国、年貢制度を採っている。
先代までは、メタルツリーの実を年間一万個、だったのだが。
今の国王に代替わりしてから、少しだけ年貢率が変わった。
レアメタルを年間500g、実物で納めよ、とのお触れが出たのだ。

メタルツリーの実一万個からは天候の良い時で1kg以上抽出できる。
しかし天候がうまく合わないと、一万個から300g前後にしかならない時もある。

天候不順の年が続いている時に、その改定は重かった。

ちなみに、俺に話しかけてきたのは婚約者でもある恋人だ。
彼女もまた、メタルツリー生産家だった。
ただ、彼女の兄が才能を認められ、俺のような一般農家より少しだけ、年貢率が優遇されている。


「何か解決策ってないものかなぁ……」
「うーん……、そんなのがあったら、すぐに教えてあげるんだけどね……」
彼女の困ったような顔に、だよなー、と俺は乾いた笑いを返す。


実家の農園に戻る、という彼女と別れ、俺は家に帰る道を歩き出した。

農園の端に、誰かいる。


……選ばれた人、だろうか。
俺は男を注視した。
厚い黒縁の眼鏡を掛けた、研究者のような出で立ち。

男は人差し指で眼鏡の位置を調整すると、道路へと消えて行った。
急いで後を追おうとしたが、影も形も見当たらなかった。

男が立っていた場所には、メモ帳が一冊、落ちていた。
俺はそのメモ帳を手に取る。
表紙には、たった一行、こんな疑問文が書かれていた。


……人生の分かれ道。この先、どちらを選ぶ?


そんなの、より良い方、に決まってるだろ。


そのメモ帳を拾ったことが、まさか本当に人生の分かれ道だったなんて。
当時の俺は、当然ながら知る由もなかった。

完。
お題はメモ帳・年貢・人生の分かれ道でした。
パームツリーというのがアプリ「カフェつく」に出てくるので、メタルツリーはそんな感じを思い浮かべて書きました。
メモ帳よりはメモ用紙の方が雰囲気には合うのですけれどね。
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書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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