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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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こんにちは、和美です。
この記事は『 三題噺お題作成ツール 』 を使って出てきたお題を元にした小説です。
話の展開が全般的に唐突。
主人公視点、個人名なし、読み切り、です。
同じテーマの記事はカテゴリー「文章」からどうぞ。



ふー、ふー。
少し息を吹きかけて一口齧り、また息を吹きかける。
かくて眼鏡は面倒臭い。

俺は職場で唐突にもらった焼き芋を、本体が持つ熱 …… ではなく、立ち上る湯気に苦戦しながら食べていた。
「芋、旨い?」
隣からの声に、俺は口内を芋でいっぱいにしたまま無言で頷いた。
口の中に物を入れたまま喋るものではない。
「そっかー。なら良かった」
猫のように丸い目が、細くなる。

細い黒目に、地は黄色みを帯びる。
初めて会った時、まるで宝石のようだと評したら「 ナンパ? 俺ストレートなんですけどごめん 」 と謝られたのが、俺たち最初の会話だった。
誤解されないように言っておくが、俺だってストレートだよ。


閑話休題。
先程、「職場で焼き芋をもらった」と表現したが、事実からは少し外れる。
職場で …… 馴染みの取引先からもらったのは、普通の …… 生のさつま芋だ。
それを隣の友人が、どこからか持ってきたアルミホイルを使って器用にも焼いてくれたため、今俺が食べている焼き芋が完成した。

「芋って喉にもだけど、歯に詰まるから面倒臭いんだよな」
友人が愚痴を零す。
家でなら食べるが、職場には爪楊枝が置いていなくて食べられない。と。
「 歯に詰まるってそんなに気になるか?」
口内の芋を胃に送って、俺は尋ねる。
「 気になるよ。中途半端な隙っ歯だから、全部の歯に一本ずつ黄色い芋が挟まるんだぞ 」
イーッと見せた歯を指して友人が困り顔をするから、俺はその歯に黄色い繊維が挟まっている状態を脳内で合成して ……
「…… ぶっ 」
吹き出した。
「 お前なあ!」
「 俺も焼き芋好きなんだぞ!」
「 あははは、ごめ …… くくく ……」
怒る友人に、俺は笑いが止まらないまま謝って。
「 じゃあ家まで芋持って帰るの手伝ってやるから、一緒に食お。な?」

「…… じゃあいい。一箱よろしく 」
「 一箱 …… お、おう 」

一箱って、何kgあるんだろう。
俺自転車なんだけど、どうやったら段ボール箱が載るんだろう。
( 俺の自転車に荷台なんて物はない )

簡単に請け負ってしまった重量級の荷物に、俺はいい感じに冷めてきた芋を頬張りながら悩むはめになってしまった。


焼き芋
キャッツアイ
隙っ歯
でした。
ぼんやり書き進めていたらキャッツアイ( 最初はそのまま猫を出そうと思っていました ) を忘れてしまったので、友人がキャッツアイ化しました。
ストレートはLBGTに対応する言葉で、異性愛者の意味です。
ノーマルではないので注意。

アルミホイルは、友人氏が職場に個人的に置いている防災セットの中から出してきました。
なんで歯に詰まる事を気にして焼き芋を諦めるのに、爪楊枝を入れていないんでしょうね。
これに気づいて追加したとかだと良いです。

職場の取引先 ( 両方とも第三次産業 ) から細くて小さいさつま芋を三箱頂いて、( 1kgぐらい持って帰りました ) 毎年困っていると聞いたのでそんな話に。
久々の三題噺でした。
2018.9/18
2019.7/4更新
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普段来ない場所って、迷いやすくて困っちゃう。

あたしは溜め息を吐いて、見上げても頭が隠れる建物を、それでも見上げた。

国内で最も高くなった電波塔。
あたしがいるのは、その電波塔が形作る影の中。

いつもより少しだけ早く終わったバイトの帰り、うっかり「あのお店行きたいな」とか思ったのが運のツキ。
お目当てのお店は閉店してしまったのか行き方を間違えたのか見当たらない上に、正直ここどこ?
……要は迷ってしまったのだった。
「あの上からだったら方角分かるのかなぁ……」
ぼんやりそんな事まで思ってしまったけれど、大体電波塔の入り口が分かれば上に行かずとも道は分かる。

自分がどこに向かっているのかも判然としないまま、あたしは歩いた。
ここがどこか分からなくても、歩かなきゃどうにもならないから。

影から電波塔を眺め上げた時から数え始めて二つ目ぐらいの角で。
あたしは急に「曲がってみようかな」って気になった。

「へっ!?……きゃっ!!」
曲がるつもりで向いた横には……
「なんでこんなトコに牛!?」

ホルスタインだったか、白地に黒の模様が入った種類ではない。
国産種だろうか、茶色いけれど、でもそれは確実に牛だった。

「かく」
……へっ?
こんな都会のど真ん中で牛って時点で驚くのに。
こともあろうに、その牛は、低い声を上げた。

「核が落ちる」
「えっ、ちょっと!」
牛が喋る理由も、牛が言っている言葉の意味も、あんまり考えたくはないけれど。
身体と同じ色の尻尾を見せて去ろうとする牛を、あたしはひとまず呼び止めた。
「……ごめんなさい、ええと、この辺の道、分かる?」
牛が振り向いたのを確認して、あたしは首をかしげた。
牛は、軽蔑するみたいな眼差しをあたしに向けて、それから「着いて来い」とでも言うみたいに首を先へ向けた。

「ごめんなさい……。迷ってたから助かった」
無言で歩く牛の、後ろ足辺りに並んであたしはお礼を述べた。

あたしのちょうど真横で揺れる尻尾の先に、何となく目を向けて驚いた。
……あたしはこの牛に、一体何回驚かされるんだろう。

「尻尾の先っちょに、何かついてる。……白いやつ」
あたしの指摘が聞こえたのか、牛は立ち止まって尻尾をあたしの方へ向けた。
「……取るよ?」
牛に確認をすると、あたしは尻尾についている、白い輪っかを抜いた。
プラスチック製で、ちょっと透明。
パソコンとかのコンセントの近くによくある……
「結束バンドって言うんだっけ」
牛からその結束バンドを見えるように、あたしは手を近づける。
「さっきの酔いどれか」
牛は、苦虫を噛み潰すみたいな顔で一言呟いた。
「困っちゃうよね」
あたしは返答に困ってそう言った。
悪ガキじゃなく、酔っ払いと言えど、大人かよ。なんて呆れながら。

曲がり角に着く。
牛は、曲がり角の左へ、また首を振って行き方を示した。
「……あっ」
牛の振った視線の先に見えたのは、最初に行こうとしていた、目的のお店。
……に見える。

あたしはタッと小走りすると、交差点の真ん中まで出て、半分しか見えていなかったお店を確認した。
うん、やっぱりここだ。間違いない。
「ありがとう」
あたしが笑顔でお礼を言うと、牛は緩やかに首を振った。

「気をつけろ。核が落ちる」

……あたしの、当面の困り事が解決したから。
あたしは今度こそその発言と向き合う羽目になった。

牛はふいと来た道を戻るようにして、真夏の陽炎みたいに、ふっと消えた。



完。
電波塔、牛、結束バンドでした。
一年振りぐらいですか。
初めてAndroidの、アプリは「Jota+」で書きましたが……うん、不向き。
オフライン機器なので単語変換精度もさることながら、画面が小さいのが何より厳しいですね。
iPhoneの方が単語変換時の圧迫感がない分まだマシかなぁ。
Androidのキーボードってもう少し小さく表示されないものでしょうか。

牛、ではないです。件という日本独特の伝説の動物です。
最後に現れたのは第二次世界大戦中で、「日本が負ける」と残したそう。
過去の三題噺に戦争物が多いので悩んだのですが、最近で起きそうな事件という事で核を選びました。
特に「日本に」とは予言していません。念のため。
あ、電波塔はもちろん東京スカイツリーの事です。
軍事航空機博物館。
そんな名前の施設に、俺は友人と一緒に遊びに来ていた。
「戦闘機ってやっぱ格好いいよなー」
「なー。桜花とかまじすげえ」
数十年前、実際に戦闘に使われていた機体を目前にして、俺も友人も興奮気味だ。
「お、あっち空母だってさ」
「まじで!?」
空母――航空母艦。
戦闘機が発着できるほどの大きさの軍艦をどうやって持ち込んだのか。

空母への案内を見ながら歩く俺の足を、不意に誰かが掴んだ。
「おとーさん……」
足下を見ると、まだ年端も行かない女の子だった。
「迷子か?」
「どう見ても迷子だな」

ズボンを掴まれている俺の代わりに、友人がしゃがんで子供に話しかける。
「こいつはお前のおとーさんじゃないよ」
「おとーさん、どこだ?」
友人の言葉に子供はきょとんとした顔だが、ズボンからは手を離してくれた。
「案内所連れて行くか?」
「……だな」
館内にスタッフは見あたらず、少し遠いが入り口にある案内所に預ける事にした。
「はいぶりっと」
「へ?」
「はいぶりっとの車で来たの」
俺と友人に手を引かれて歩き始めた子供は、ぽつぽつと話を始めた。
「おお、ハイブリッドカーか」
「うん。水色なの」
ハイブリッドと言われて、なぜか真っ先に最近テレビで宣伝している電気自動車が思い浮かんでしまった。
いや、ガソリンと電気を併用するのがハイブリッド車だろ、と自分で突っ込みを入れる。

「ちび!」
怒気をはらんだ呼び声に顔を上げると、怒り顔の若い男性が見える。
「何ふらふらしてんだよ」
小学校にも上がらないような年齢に向かってその言い方はどうなんだろう、と思っていると。
父親らしき男性は子供の手を引いて行ってしまった。

「……別に良いけどさぁ」
「礼もなしか」
友人と二人、顔を見合わせて呟いた。


完。
お題は空母、ハイブリット、子供でした。
子供ちゃんの名前が真っ当なものであることを願っています。
ええきっとろくでもない名前でしょうね。
最初に個人名を出さない、と決めておいて良かったです。
ちなみに「思い浮かんだ電気自動車」は日産のリーフ。
どきどきする。
今日から初めての共同生活が始まるのだ。

私は、念願だった第一志望の高校に合格し、一足先に寮生活が始まった。
全寮制ではないが、さすがに二時間半の通学距離は厳しかったから。
三月末、寒さも緩み、ようやく春めいてきた時期だった。

「106号室の人?」
後ろを振り向くと、ふんわりとした女の子がいた。
「えっと、106号室です」
受け取ったばかりの封筒を見ながら答える。
この人が同室なのだろうか。
「やっぱり。じゃあよろしくね」
ふんわりと笑う女の子が差し出した手を、私も握り返した。

「ねえ、レンタルスペース行ってみない?」
「うん、行く行く」
自室にとりあえず荷物を置いて、私達は寮内の探索に出た。
荷物の片づけなんていつでもできる。
だって、三年間この部屋で過ごすのだから。
私は、出会ったばかりの彼女といる事が、何より楽しく感じていた。

『蝋燭厳禁』
レンタルスペースと名付けられた、寮内のイベントを催す時に使われる部屋。
そこにあった、唯一の貼り紙である。
「……蝋燭って、普通は火気厳禁って書かない?」
「ライターもマッチもOKなのかな」
「ていうかすごい字……」
「だよね……」
『蝋燭』を漢字にするセンスもさることながら、筆で書かれたその貼り紙は、どこかおどろおどろしい雰囲気を醸し出していた。
「あら、新入生?」
背後から掛かった声に振り向くと、三十代くらいだろうか、眼鏡を掛けた女性が立っていた。
「はい、今日寮に入りました」

「そう。寮内探検中ね」
「この部屋も含めて、寮内では蝋燭と百物語は厳禁だから」
案内の紙にも書いてあるから、ちゃんと読んでね、と付け足される。
「百物語?」
「って……怪談話の?」
全く予想もしなかった言葉に、つい聞き返す。
百物語、というと、蝋燭を百本灯して、怪談話が一つ終わる毎に一本ずつ消していくというアレだろうか。

「昔、寮のイベントで百物語をやったのよ、この部屋で」
「ちょうど百人いたから一人一話ずつ」
「自分が話し終えてから怖くなって、途中で部屋に帰った寮生が二人いたんだけどね」
「いなくなったの、その二人」
「部屋にも帰っていないし、玄関は閉まっているから外に出たはずはないのに」
「そんな事があったから、とりあえず百物語と蝋燭は禁止になりましたとさ」

「……はあ……」


じゃあ気をつけてね、と手を振った女性と分かれて部屋に戻る。
寮の利用規約が書かれた冊子には、確かに『百物語の実施及び蝋燭の使用を禁ず』と書かれてあった。
「すごい話があったんだね……」
「でも駄目って言われるとやりたくなるよね」
彼女の言葉に、ふふ、と笑う。
規則があれば破りたくなるのは人の性か、反抗期ゆえの反骨精神か。
「じゃあ夏にやろっか、百物語」
「うん、約束ね」
彼女に乗せられたなんて、この時は思いもよらなかった。

完。
蝋燭、共同生活、レンタルスペースでした。
眼鏡の女性が百物語の参加者で、主人公のルームメイトはいなくなった二人のうち片方の知り合いです。
彼女はちょっとだけ霊感あります。
という書かなかった裏設定があったり。
なのでレンタルスペースに行こうと言い出し、百物語の話に驚かず、挙げ句やってみようと言い出したのです。
……続編なんてありませんよ?多分。
三題噺のお題に百物語が出たら考えますがw
高齢化社会が更に進んだ未来。
六十歳以上の人口比率は、当時既に国民の半数を軽く超えてしまっていた。
そこで金のない新政府が思いついたのが、棄民である。
――働かないなら、捨ててしまえ。
政治家にしてはまだ若く、少し過激な発言が若者に人気があるその政府代表――総理大臣の、鶴の一声でその政策は決まった。

「父ちゃん、ごめんな」
「本当は俺達がお金出せたら良かっ……「全くだな」
平謝りするのは、まだフリーターの男性。
横柄な態度で返したのは、明後日六十五歳を迎える、男性の父親だ。

「俺の人生も申年で終わりかー」
男性の父親は、遠くを見るように首を振った。

この棄民政策は、本人が生まれた時の干支で決める。
今年は申年なので、申年生まれの老人……六十五歳以外に、七十七歳、八十九歳なども対象になる。
これは親を養う子供の生活能力の変化を想定したもので、六十五歳を無事に迎えられたからといって七十七歳の時も無事とは限らない。
もちろん急激な変化に対応できるよう、簡単な申請さえ行えばそれ以外の十二支生まれでも処分できる。

「マンホールに落とされるんですってね」
父親を残して部屋を出た男性に話しかけたのは、妻。
こちらは契約社員だ。
「ああ、そうらしいな」
「口うるさくなってきたし、正直ちょっと安心するよ」
「ふふ、私もそうだったわ。懐かしい」

「大きな声では言えないけど、私がフリーターから契約社員になれたのだって棄民政策のおかげだもの」
「じゃあ俺もちょっとは期待していいって事かな」
夫婦二人、密やかに笑い合う。
父親が落ちていったマンホールを見ながらの夕ご飯も悪くない。
生涯最期の日を明日に控え、これまでの人生に思いを寄せる父親と。
明日の夕ご飯は少し豪華にしようか、などと言い合う息子夫婦。
二つの思いが重なることは、ついになかった。


お題は高齢化社会、十二支、マンホールでした。
高齢化社会なんだから仕方ないね。
小話にまとめるため、政策の具体的な内容は削除しました。
毎年一人の老人につき一定の額を子供が国に払う、というシステムです。
この夫婦はそのお金を払えない(払う気も多分ないw)ので父親はマンホールに落とされます。
老人本人ではなく子供が、というところがミソです。
金は天下の回り物。(きぱ)
ある国に、二人の兄弟がいた。
顔も髪の色も肌の色すら似ていない二人は、しかし仲が良かった。
料理家でバイオリニストという華やかな弟の陰に隠れて、大人しい兄は目立たなかった。
けれど。

料理番組で取材を申し込んだ私達は、それが外部の人間によって作り上げられた虚像であると知る。
「兄ちゃん、次の料理どうする?」
「今度品評会があるんだけど」

「……蛸」
弟の問いかけに、兄はぽつり一言。
「品評会のメインは蛸ですか」
私の確認の問いかけに、兄はこくりと頷いた。
「蛸かぁ。煮物にするとすごく生臭いんだよね」
弟の呟きを兄は首を振って否定し、近くのメモ用紙に何かを書き付ける。
小さいメモ用紙の半面では足りず、裏にも短く文字を書いて弟に渡す。
「……兄ちゃん、レシピはちゃんとしたノートに書いてってば……」
迷うことなく書き綴られたそのメモ用紙は、蛸を主題に据えたレシピであるらしい。

――そう、この兄弟は、兄がレシピと楽譜を書き、弟が料理を作り演奏するのだ。

「……ええと、どちらが主体なのでしょうか」
つい、思い浮かんだ疑問を口にする。
「僕らは二人で一つです。僕は新しい料理も新しい曲も作れないし、兄は料理を作れないし楽器も演奏できません」
昔からずっとそうでした。
――弟の言葉は続く。

僕が料理を作って、それを食べた兄が提案を示す。
出された改善策をまた僕が作って、兄が食べる。
その繰り返しです。

「人に理解できなくても、僕らはこのスタイルを変えられません」
そう言って笑った弟の顔は、それが心からの事実である事を雄弁に語っていた。



料理、兄弟、音楽です。
あんまり音楽が出せていませんね。うう。
最初は片方ずつ設定するつもりだったのですが、料理人と音楽家(演奏家)どちらも無口な人って似合いそうで。
だったら兄=構想する人、弟=実現する人にしてしまえとw
ちなみに血が繋がっていないという設定にしようかと思っていたのですが、出せませんでした……。
『……議定書の策定に向け、今後も話し合いを続けていくことを……』
テレビに映るアナウンサーが、地球温暖化防止の世界会議のニュースを読み上げる。
ここは法律事務所、俺はそこに勤める事務員……という名の雑用なのだが。
客が来ていないとは言え、れっきとした勤務時間中なのにテレビなんか見ていて良いものなのだろうか。
それともニュースだから例外だとかそんな問題なのか。

カッシャーンッ

音がした方を向くと、普段は冷静沈着な弁護士の先生が割れたコップを目の前に、おろおろしていた。
……珍しい。
「ああ、ええと、すみませんっ」
「……いえ、火傷とか怪我とか大丈夫ですか?」
「え、ええ……」
コップが落下した音だったらしい。
俺は小さいゴミ袋とティッシュケースを手に、割れたコップを片づけ始めた。
「大丈夫ですか?疲れてらっしゃるんですか?」
他の事務員も弁護士の先生達も、意外、の表情を隠せない。
「大丈夫……です……」
「……今のニュースに出ていた外務大臣が、知り合いに似ていたものだから、驚いてしまって」
そういえば外務大臣は前任が急病とかで、今の大臣に代わってから一週間も経っていなかった。
ニュースの会議が、ほとんど初めての公務となる。
「……熱っ」
今度は何だ。
コップの破片を粗方片づけ終えた俺が上を見ると、机の端からコーヒーが滴り落ちていた。
「あー、そこも今拭きますね」
言いながら俺はティッシュを数枚取って渡す。
「ありがとう……」
塗れている手を拭くより先に、先生はキーボードを縦にした。
白いキーボードの溝を焦げ茶色の液体が伝う。
キーボードにも零したのか。
「大臣と似ているっていう方とはどういう関係なんですか?」
「……離婚した母に引き取られた兄です」
カタカタとキーボードを叩きながら先生が答える。
「名字は母の旧姓……。年齢も、名前も合っているわ」
外務大臣の事を検索したらしい。

「ごめんなさい、お騒がせして」
「いえ、大丈夫ですよ」

そんな間にニュースも終わり、テレビの電源が切られ。
法律事務所は日常に戻った。

完。
温暖化、落下、キーボードでした。
途中までなんちゃってファンタジーで書き勧めていたのですが、そっち系の話が多い気がしてきたので書き直しました。
主人公が社会人だと大体会社が舞台になってしまうので、たまには趣向を変えて法律事務所で。
大臣の平均年齢的に、先生と大臣は結構年が離れている気がします。
「ただいまー」
学校から帰った私は、キッチンに立つ姉に声を掛けた。
「おかえり」
ふわりと振り返った姉の声が返る。
「今日は……ってお寿司だよね」
「そう、お寿司よ。……忘れてた?」
からかいの意味を含みながらも、軽く咎めるような声。
「ううん、お寿司って事を忘れていただけ」
私は首を振って否定した。

私達の父と母──両親が、突然の死を迎えてから三年。
母は即死、父は病院に運ばれる救急車の中で絶命した。
ナイフか包丁か、刃物による殺人だった。
命の終わりを自覚した父が最期に遺した言葉は『……昨日の……寿司……』だった。
確かに昨日の夕ご飯はお寿司だったけれど。
それ以上の意味は分からないまま、私達姉妹は犯人の手掛かりを求めて両親の遺品を漁った。
預金通帳と共に見つかったのは『虎の巻』と表書きされた古い和綴じの本。
中に書かれていたのは、お寿司の作り方だった。
両親を殺した犯人も、その理由も、その本の意味も分からない。
ただ、月命日にはその本に載っていたお寿司を作るのが習慣になっていた。

いつか犯人を見つけた時。
このお寿司の意味も分かるのだろうか。

答えは、未来だけが知っている。


完。
お題は昨日、寿司、虎の巻でした。
……なんで殺人とかになったし。
ご飯を作る人を姉に設定した瞬間からですね。
ほんと、何があったんでしょうか、この両親。(どこまでも無責任)
遊牧民の生活を取材するため。
そう言って俺は母国を発った。
と言うと聞こえは良いが、実際の行き先は直通便もある、狭い海を隔てた隣の国だ。
ただ、少し鎖国に近く、内部を明らかにしたがらない政策というだけで。

俺は一応ジャーナリスト……正しくは週刊誌の記者だ。
一応、とつけたのは、所属する雑誌の出版社にジャーナリズム精神……「この記事で世の中を動かしてやる」という気概が見られないからに他ならない。
とは言っても、俺の単独取材に渋い顔はしつつ費用は出してくれたのだから、少しはその気も残っているのだろうか。

飛行機と電車、それから車。
最後は徒歩で、目指していた遊牧民が住む地域にやってきた。
が。
季節がずれたのだろう。
そこにあったのは、つい最近まで人が住んでいたという明確な痕跡。
組立式住居ーーテントを建てるための穴。
火を焚いた残滓。
少し歩くと、用を足すための場所と、不要な物を廃棄したと思われる、無造作に物が放りこまれた穴。

俺は生活レベルを推し量るため、屈んでその穴の中を覗き込む。
割れた電球、ポット、フライパン、と現代日本の一般家庭と遜色ないものが見える。
ーー廃棄方法だけはいただけないが。

「何、しているの」
背後から、少し険のある声が掛けられる。
振り向くと、立っていたのは少女だった。
この民族衣装は……そうだ、この遊牧民の。
「ええと、ここに住んでいた人達に会いたかったんだけど」
「移動……しちゃったみたいだね」
少女からの問いへの、返事になっているようないないような。
俺の言葉に、少女がこくりと頷いた。
「君はどうしたの?」
ここに住んでいた人と一緒じゃないの?

全く知らない、会ったばかりの人から疑問文を二つも投げられ、少女は再び顔をしかめる。
それでも律儀に答えをくれた。
「学校、行ってるの」
「おじいさまが行きなさいって行ったから」

「でも、町は嫌い」
「排気ガスの臭いが染み着いたわ」

ーー電気が通り、ガスを使い、定住する人々に紛れたように見えても。
彼らは大地と、季節と共に生きる。
まだ幼い彼女でも、慣れ親しんだ環境を離れるのは耐え難かったのだろう。

「廃棄穴の中を見ていたようだけど」
少女が話を逸らす。
もう聞くなという事だろうか。

「あー、うん」
「ええと、どんな生活をしているのか、捨てられた物を見ると大体分かるから……」
変わった人、と言いたげな瞳がこちらを見下ろす。

「……これ、何だか分かる?」
真っ直ぐな瞳から逃れるように、俺は廃棄物に話を向けた。
まだ捨てられて間もないだろう、白い家電だ。
一見鉄板のようだが、少し様子が違う。
「ロースター」
「無煙ロースターってお母さんが言ってたわ」
「ロースター……ええと、肉を焼くのか」
「そうよ。大体鳥か牛だったけど」
無煙ロースター。
ホットプレートの一種だが、肉の脂を落とすための溝がついている。
家畜を飼育して生計を立てる彼らならではの調理器具だ。
わざわざ煙が出ない型を買った理由は掴めないが、言いくるめられたのだろうか。

「そう、ありがとう」
礼を言って立ち上がると、一筋の風が吹いた。
まだまだ明るいが、そろそろ戻らないと、ホテルまで帰る手段がなくなってしまう。

「おかげで助かったよ。誰もいなかったら、穴に手を突っ込んで調べるところだった」
ふっと少女が馬鹿にしたように笑う。

それじゃあ、と手を振って俺と彼女は別れた。
ホテルに帰ったら、もう少し詳しく調べて、もう一度あそこへ行こう。
写真も撮り忘れてしまったし。


──ホテルのすぐ隣で少女と再会して、びっくりするのは、また別の話。


完。
無煙ロースター、排気ガス、遊牧民でした。
久々の三題噺です。
初・Pomeraです。
無煙ロースターは電子辞書の「肉を炙り焼く器具」という説明で最初電子レンジっぽい白モノ家電を想像したのですが、検索してみたら全然違いました……。
定住していないのにどうやって電気を引いているのかも知りませんが、遊牧民にも見える先住民族っぽい衣装の人達が携帯電話を持っているのをテレビで見たことがあったので。
俺は太陽系防衛隊の広報官。
と言っても去年の夏の臨時募集で入った、まだ半年のぺーぺーだけれども。

太陽系防衛隊、任務の内容は一応は宇宙、太陽系の監視活動なんだけれど……。
望遠鏡でひたすら空を眺め続けるそれを初めて見た時、新星でも探しているのかと内心思ってしまった事がある。
……実際、新星や新彗星の発見例は近年、太陽系防衛隊がほとんどを占めているらしい。

ちなみにそれは『現場』のオシゴト。
広報部に所属する俺は、防衛館という博物館の見回りや説明、そこで配布されるチラシや販売される冊子の編集をやっている。

個人的には冊子作りが一番楽だった。
膨大な資料を読みつつ、それを対象年齢毎に分かりやすく解説する。
好き嫌いが分かれるらしいが、活字もデスクワークも不得意ではない俺には割と合っていた。

「よ、今から昼メシ?」
「おう。オムライスにしてみた」
肩を叩かれて、俺はプラスチックの食券を見せながら答える。
後ろから声を掛けてきたのは、同じ夏の臨時採用で入った現場の友人だ。
ちなみに、全寮制となる一ヶ月の研修期間中に同じ部屋で共同生活を送ったのもこいつだ。

「なぁ、春の隊員旅行の告知、見た?」
「え?ああ、もう出てるんだ。まだ見てねーや」
隊員旅行は毎年春、五月のゴールデンウィーク前後に三日間の日程で行われる。
その中で行われる抽選会で、更に三日程度の豪華旅行があるのだ。
去年はハワイ、一昨年はラスベガス。
ラスベガスの時は、カジノで一億ほど勝ってそのまま退役した人がいるという噂だ。

「抽選、宇宙旅行日帰りパックだってさ」
「は?」
ちょっと待て。
宇宙旅行?日帰り?
太陽系防衛隊と名乗っているからといって、そんなにしょっちゅう宇宙に行ける訳じゃない。
一定以上の立場で、なおかつ勤続年数が十年だか何だかで、その上筆記と実技の試験があって、更にめんどくさい機械関係の資格を三つぐらい持っている事が最低条件。
もちろん健康診断と体力検査と精神検査は言うに及ばず。
……要は一般人と同じく、憧れてはいるものの、手の届かない存在な訳で。

それが例え日帰りでも、行ってみたい。

「エントリー、する?」
「もちろん!」
友人の問いに、俺は即答した。
ああ、もちろん抽選会はエントリー式だ。
行きたくない人がいるのかどうかは知らないが、行きたいと思う人だけが参加する仕組み。


どんな旅行だろう。
宇宙ってどんなところだろう。
っていうか日帰りってどういう事なんだろう。

疑問と期待で、俺はどきどきしていた。

完。
広報官、宇宙旅行日帰りパック、共同生活でした。
自衛隊の広報官って何やってらっしゃるんだろう←
豪華旅行の元ネタは「みらい工業」からです。
社員旅行のエジプトで出されるクイズに全問正解すると一年間の休暇、だったかな。
夏季・冬季休みが長い事で有名だそうです。

四十九のログ取り損ねました……。
「と」だけ覚えているのですが。
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プロフィール
書いている人:七海 和美
紹介:
更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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