気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 五十八
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普段来ない場所って、迷いやすくて困っちゃう。
あたしは溜め息を吐いて、見上げても頭が隠れる建物を、それでも見上げた。
国内で最も高くなった電波塔。
あたしがいるのは、その電波塔が形作る影の中。
いつもより少しだけ早く終わったバイトの帰り、うっかり「あのお店行きたいな」とか思ったのが運のツキ。
お目当てのお店は閉店してしまったのか行き方を間違えたのか見当たらない上に、正直ここどこ?
……要は迷ってしまったのだった。
「あの上からだったら方角分かるのかなぁ……」
ぼんやりそんな事まで思ってしまったけれど、大体電波塔の入り口が分かれば上に行かずとも道は分かる。
自分がどこに向かっているのかも判然としないまま、あたしは歩いた。
ここがどこか分からなくても、歩かなきゃどうにもならないから。
影から電波塔を眺め上げた時から数え始めて二つ目ぐらいの角で。
あたしは急に「曲がってみようかな」って気になった。
「へっ!?……きゃっ!!」
曲がるつもりで向いた横には……
「なんでこんなトコに牛!?」
ホルスタインだったか、白地に黒の模様が入った種類ではない。
国産種だろうか、茶色いけれど、でもそれは確実に牛だった。
「かく」
……へっ?
こんな都会のど真ん中で牛って時点で驚くのに。
こともあろうに、その牛は、低い声を上げた。
「核が落ちる」
「えっ、ちょっと!」
牛が喋る理由も、牛が言っている言葉の意味も、あんまり考えたくはないけれど。
身体と同じ色の尻尾を見せて去ろうとする牛を、あたしはひとまず呼び止めた。
「……ごめんなさい、ええと、この辺の道、分かる?」
牛が振り向いたのを確認して、あたしは首をかしげた。
牛は、軽蔑するみたいな眼差しをあたしに向けて、それから「着いて来い」とでも言うみたいに首を先へ向けた。
「ごめんなさい……。迷ってたから助かった」
無言で歩く牛の、後ろ足辺りに並んであたしはお礼を述べた。
あたしのちょうど真横で揺れる尻尾の先に、何となく目を向けて驚いた。
……あたしはこの牛に、一体何回驚かされるんだろう。
「尻尾の先っちょに、何かついてる。……白いやつ」
あたしの指摘が聞こえたのか、牛は立ち止まって尻尾をあたしの方へ向けた。
「……取るよ?」
牛に確認をすると、あたしは尻尾についている、白い輪っかを抜いた。
プラスチック製で、ちょっと透明。
パソコンとかのコンセントの近くによくある……
「結束バンドって言うんだっけ」
牛からその結束バンドを見えるように、あたしは手を近づける。
「さっきの酔いどれか」
牛は、苦虫を噛み潰すみたいな顔で一言呟いた。
「困っちゃうよね」
あたしは返答に困ってそう言った。
悪ガキじゃなく、酔っ払いと言えど、大人かよ。なんて呆れながら。
曲がり角に着く。
牛は、曲がり角の左へ、また首を振って行き方を示した。
「……あっ」
牛の振った視線の先に見えたのは、最初に行こうとしていた、目的のお店。
……に見える。
あたしはタッと小走りすると、交差点の真ん中まで出て、半分しか見えていなかったお店を確認した。
うん、やっぱりここだ。間違いない。
「ありがとう」
あたしが笑顔でお礼を言うと、牛は緩やかに首を振った。
「気をつけろ。核が落ちる」
……あたしの、当面の困り事が解決したから。
あたしは今度こそその発言と向き合う羽目になった。
牛はふいと来た道を戻るようにして、真夏の陽炎みたいに、ふっと消えた。
完。
電波塔、牛、結束バンドでした。
一年振りぐらいですか。
初めてAndroidの、アプリは「Jota+」で書きましたが……うん、不向き。
オフライン機器なので単語変換精度もさることながら、画面が小さいのが何より厳しいですね。
iPhoneの方が単語変換時の圧迫感がない分まだマシかなぁ。
Androidのキーボードってもう少し小さく表示されないものでしょうか。
牛、ではないです。件という日本独特の伝説の動物です。
最後に現れたのは第二次世界大戦中で、「日本が負ける」と残したそう。
過去の三題噺に戦争物が多いので悩んだのですが、最近で起きそうな事件という事で核を選びました。
特に「日本に」とは予言していません。念のため。
あ、電波塔はもちろん東京スカイツリーの事です。
あたしは溜め息を吐いて、見上げても頭が隠れる建物を、それでも見上げた。
国内で最も高くなった電波塔。
あたしがいるのは、その電波塔が形作る影の中。
いつもより少しだけ早く終わったバイトの帰り、うっかり「あのお店行きたいな」とか思ったのが運のツキ。
お目当てのお店は閉店してしまったのか行き方を間違えたのか見当たらない上に、正直ここどこ?
……要は迷ってしまったのだった。
「あの上からだったら方角分かるのかなぁ……」
ぼんやりそんな事まで思ってしまったけれど、大体電波塔の入り口が分かれば上に行かずとも道は分かる。
自分がどこに向かっているのかも判然としないまま、あたしは歩いた。
ここがどこか分からなくても、歩かなきゃどうにもならないから。
影から電波塔を眺め上げた時から数え始めて二つ目ぐらいの角で。
あたしは急に「曲がってみようかな」って気になった。
「へっ!?……きゃっ!!」
曲がるつもりで向いた横には……
「なんでこんなトコに牛!?」
ホルスタインだったか、白地に黒の模様が入った種類ではない。
国産種だろうか、茶色いけれど、でもそれは確実に牛だった。
「かく」
……へっ?
こんな都会のど真ん中で牛って時点で驚くのに。
こともあろうに、その牛は、低い声を上げた。
「核が落ちる」
「えっ、ちょっと!」
牛が喋る理由も、牛が言っている言葉の意味も、あんまり考えたくはないけれど。
身体と同じ色の尻尾を見せて去ろうとする牛を、あたしはひとまず呼び止めた。
「……ごめんなさい、ええと、この辺の道、分かる?」
牛が振り向いたのを確認して、あたしは首をかしげた。
牛は、軽蔑するみたいな眼差しをあたしに向けて、それから「着いて来い」とでも言うみたいに首を先へ向けた。
「ごめんなさい……。迷ってたから助かった」
無言で歩く牛の、後ろ足辺りに並んであたしはお礼を述べた。
あたしのちょうど真横で揺れる尻尾の先に、何となく目を向けて驚いた。
……あたしはこの牛に、一体何回驚かされるんだろう。
「尻尾の先っちょに、何かついてる。……白いやつ」
あたしの指摘が聞こえたのか、牛は立ち止まって尻尾をあたしの方へ向けた。
「……取るよ?」
牛に確認をすると、あたしは尻尾についている、白い輪っかを抜いた。
プラスチック製で、ちょっと透明。
パソコンとかのコンセントの近くによくある……
「結束バンドって言うんだっけ」
牛からその結束バンドを見えるように、あたしは手を近づける。
「さっきの酔いどれか」
牛は、苦虫を噛み潰すみたいな顔で一言呟いた。
「困っちゃうよね」
あたしは返答に困ってそう言った。
悪ガキじゃなく、酔っ払いと言えど、大人かよ。なんて呆れながら。
曲がり角に着く。
牛は、曲がり角の左へ、また首を振って行き方を示した。
「……あっ」
牛の振った視線の先に見えたのは、最初に行こうとしていた、目的のお店。
……に見える。
あたしはタッと小走りすると、交差点の真ん中まで出て、半分しか見えていなかったお店を確認した。
うん、やっぱりここだ。間違いない。
「ありがとう」
あたしが笑顔でお礼を言うと、牛は緩やかに首を振った。
「気をつけろ。核が落ちる」
……あたしの、当面の困り事が解決したから。
あたしは今度こそその発言と向き合う羽目になった。
牛はふいと来た道を戻るようにして、真夏の陽炎みたいに、ふっと消えた。
完。
電波塔、牛、結束バンドでした。
一年振りぐらいですか。
初めてAndroidの、アプリは「Jota+」で書きましたが……うん、不向き。
オフライン機器なので単語変換精度もさることながら、画面が小さいのが何より厳しいですね。
iPhoneの方が単語変換時の圧迫感がない分まだマシかなぁ。
Androidのキーボードってもう少し小さく表示されないものでしょうか。
牛、ではないです。件という日本独特の伝説の動物です。
最後に現れたのは第二次世界大戦中で、「日本が負ける」と残したそう。
過去の三題噺に戦争物が多いので悩んだのですが、最近で起きそうな事件という事で核を選びました。
特に「日本に」とは予言していません。念のため。
あ、電波塔はもちろん東京スカイツリーの事です。
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書いている人:七海 和美
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