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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 五十五
高齢化社会が更に進んだ未来。
六十歳以上の人口比率は、当時既に国民の半数を軽く超えてしまっていた。
そこで金のない新政府が思いついたのが、棄民である。
――働かないなら、捨ててしまえ。
政治家にしてはまだ若く、少し過激な発言が若者に人気があるその政府代表――総理大臣の、鶴の一声でその政策は決まった。

「父ちゃん、ごめんな」
「本当は俺達がお金出せたら良かっ……「全くだな」
平謝りするのは、まだフリーターの男性。
横柄な態度で返したのは、明後日六十五歳を迎える、男性の父親だ。

「俺の人生も申年で終わりかー」
男性の父親は、遠くを見るように首を振った。

この棄民政策は、本人が生まれた時の干支で決める。
今年は申年なので、申年生まれの老人……六十五歳以外に、七十七歳、八十九歳なども対象になる。
これは親を養う子供の生活能力の変化を想定したもので、六十五歳を無事に迎えられたからといって七十七歳の時も無事とは限らない。
もちろん急激な変化に対応できるよう、簡単な申請さえ行えばそれ以外の十二支生まれでも処分できる。

「マンホールに落とされるんですってね」
父親を残して部屋を出た男性に話しかけたのは、妻。
こちらは契約社員だ。
「ああ、そうらしいな」
「口うるさくなってきたし、正直ちょっと安心するよ」
「ふふ、私もそうだったわ。懐かしい」

「大きな声では言えないけど、私がフリーターから契約社員になれたのだって棄民政策のおかげだもの」
「じゃあ俺もちょっとは期待していいって事かな」
夫婦二人、密やかに笑い合う。
父親が落ちていったマンホールを見ながらの夕ご飯も悪くない。
生涯最期の日を明日に控え、これまでの人生に思いを寄せる父親と。
明日の夕ご飯は少し豪華にしようか、などと言い合う息子夫婦。
二つの思いが重なることは、ついになかった。


お題は高齢化社会、十二支、マンホールでした。
高齢化社会なんだから仕方ないね。
小話にまとめるため、政策の具体的な内容は削除しました。
毎年一人の老人につき一定の額を子供が国に払う、というシステムです。
この夫婦はそのお金を払えない(払う気も多分ないw)ので父親はマンホールに落とされます。
老人本人ではなく子供が、というところがミソです。
金は天下の回り物。(きぱ)
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書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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