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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 五十三
『……議定書の策定に向け、今後も話し合いを続けていくことを……』
テレビに映るアナウンサーが、地球温暖化防止の世界会議のニュースを読み上げる。
ここは法律事務所、俺はそこに勤める事務員……という名の雑用なのだが。
客が来ていないとは言え、れっきとした勤務時間中なのにテレビなんか見ていて良いものなのだろうか。
それともニュースだから例外だとかそんな問題なのか。

カッシャーンッ

音がした方を向くと、普段は冷静沈着な弁護士の先生が割れたコップを目の前に、おろおろしていた。
……珍しい。
「ああ、ええと、すみませんっ」
「……いえ、火傷とか怪我とか大丈夫ですか?」
「え、ええ……」
コップが落下した音だったらしい。
俺は小さいゴミ袋とティッシュケースを手に、割れたコップを片づけ始めた。
「大丈夫ですか?疲れてらっしゃるんですか?」
他の事務員も弁護士の先生達も、意外、の表情を隠せない。
「大丈夫……です……」
「……今のニュースに出ていた外務大臣が、知り合いに似ていたものだから、驚いてしまって」
そういえば外務大臣は前任が急病とかで、今の大臣に代わってから一週間も経っていなかった。
ニュースの会議が、ほとんど初めての公務となる。
「……熱っ」
今度は何だ。
コップの破片を粗方片づけ終えた俺が上を見ると、机の端からコーヒーが滴り落ちていた。
「あー、そこも今拭きますね」
言いながら俺はティッシュを数枚取って渡す。
「ありがとう……」
塗れている手を拭くより先に、先生はキーボードを縦にした。
白いキーボードの溝を焦げ茶色の液体が伝う。
キーボードにも零したのか。
「大臣と似ているっていう方とはどういう関係なんですか?」
「……離婚した母に引き取られた兄です」
カタカタとキーボードを叩きながら先生が答える。
「名字は母の旧姓……。年齢も、名前も合っているわ」
外務大臣の事を検索したらしい。

「ごめんなさい、お騒がせして」
「いえ、大丈夫ですよ」

そんな間にニュースも終わり、テレビの電源が切られ。
法律事務所は日常に戻った。

完。
温暖化、落下、キーボードでした。
途中までなんちゃってファンタジーで書き勧めていたのですが、そっち系の話が多い気がしてきたので書き直しました。
主人公が社会人だと大体会社が舞台になってしまうので、たまには趣向を変えて法律事務所で。
大臣の平均年齢的に、先生と大臣は結構年が離れている気がします。
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プロフィール
書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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