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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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進路指導室に兄が呼び出された。
無駄に教育熱心という、時代遅れな担任が話をしたい、らしい。

「何かやりたい事はないのか」
「ありません」
教師は兄に問いかけるが、兄は一言きっぱりと答える。

兄の……って私も同じだが、家は会社をしている。
曽祖父の、更に親の代から続く、割と大きな会社だ。
兄は小さい頃から跡継ぎとして大きな期待を一身に受けて育った。
今はまだ高校生だが、大学を出た後は由緒ある家柄のお嬢様との結婚も決まっている。

今更、他の道など考えられるはずもない。

そんな身の上を話すと、人は決まって「親が敷いてくれたレールの上を歩くだけって楽で良いよね」などと心ない事を言う。
家柄が良い上に成績優秀、品行方正な兄を、人は羨み、妬んだ。
けれど。
兄は、私にこんな例え話をしてくれた。
「鉄道の線路には、広軌と狭軌の二種類があるんだって」

「広軌用に作られた電車は、狭軌の線路を走れない」
「狭軌用に作られた電車もまた、広軌の線路では使えない」
大は常に小を兼ねるとは限らない、という実例だそうだ。
「線路は走る電車を選び、適合しない電車はその線路を走る資格がないんだよ」

幼かった当時の私は、その話の持つ意味が分からなかったけれど。
今なら分かる。

敷かれたレールの上を歩くにも、相応の努力が必要なのだ。

そう、兄は言いたかったのだろう。


進路指導室から、年季の入った溜息が聞こえる。
教師も、頑なな兄にとうとう諦めたのだろう。


兄が出てくる前に、帰る準備を終えなければ。
私は、進路指導室の前の廊下を、歩き出した。



完。
兄・お嬢様・進路指導室でした。
なぜか最初「……シスコン?w」とか思いました。
お嬢様が主人公の予定だったようですね。

私はレール敷かれた人生が羨ましいですが←

兄の人生の目標はきっと、周りに「跡継ぎに相応しい」と認められる事なのですよ。
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東西南北、世界を回るおれの父親は、現在ホノルルにいる。
父親は何の仕事だって?
……おれが聞きてえよ。

ごく稀に帰ってきても、父親は仕事の話を一切しないのだから仕方がない。
ただ、「日本のメシうめえ!」と普通の白いご飯や煮崩れた魚やら焦げた肉を食っては喜ぶだけだ。
まぁおれとしてもそう言われるともちろん悪い気はしない。

さて、そんな父親から、携帯に電話が掛かってきた。
着メロと同時に、休み時間の終わりを告げる鐘が鳴る。
海外にいる時は滅多に掛かってこない父親からの電話だ。
俺は授業をサボる事に決めた。

通話ボタンを押して着メロを止める。
「おー、おれおれ。元気?」
「誰。その手の詐欺には乗らないよ」
ひどいなー、もう。と父親のわざとらしい声が聞こえる。
うん、とりあえず元気そうだ。
「冗談だよ。どうしたん?」
「いやー、それがさー」
父親は勿体振るように言葉を切って。
一言こう言った。

「佃煮食いたいの」

は?
父親が和食党らしいのはかなり前から知っていたけれど。
何ゆえ佃煮?
「別に良いだろー。食いたいの。ちっさい浅蜊のやつな」
父親は散々我儘を言うだけ言うと、送ってくれよな信じてる!と謎の信頼を示して電話は切れた。

「ったくもー……」
食べたいと言ってきたのだから仕方がない。
国際電話代、高いんだろうなぁと思いながら、おれは教室へと歩き始めた。



完。
佃煮・ホノルル・東西南北でした。
ホノルルってどこですk 追記:ハワイだそうです。
しかし全く関係ないですねホノルル。
お父さんのお仕事はスパイかもしれません。
ちなみに母親はいませんよ。職場結婚だろうなぁとは思いましたが。
森の奥に入ると、二度と帰ってこられない。

「ねえ、やだよ!」

泣き叫ぶワタシを引きずって主人は歩く。
……ワタシの声なんて、聞こえる訳もない。
だってワタシ達は、人形なのだから。

森の奥に立つ、一本の大きな木。
そこは、ワタシ達人形の墓場。
人々に飽きられ、引退させられたワタシ達が眠る、終末の地。
安息の地などではない。
そこに待つのは、孤独と、空腹と、ひたすらの闇。

繋がれた糸を切られても嬉しくなんてなれない。
自由と引き換えに、ワタシ達は動く術を奪われる。
長く束縛された生活。
側にあったのは、不自由という名をした一時の栄華。
主人に捨てられて生きられる程、人形は強くもなくて。

脈々と息づく大樹の元で、ただ朽ちていくのを待つだけの時間。

受け入れるしかできないなら、せめて。
目を閉じて、過去を思い返そう。
現実を見なければ、絶望しないで済むかもしれない。


ワタシは、堅く瞳を閉じた。



完。
引退・人形・木の下でした。
人形と名乗っていますが、多分踊り子の奴隷です。
なんか歌詞にできそうだなぁと思ったので、敢えて台詞少なめにしてみました。

三十五は取り忘れたので欠番ですorz
地球上で三ヶ所目の被爆地となったのは、前回・前々回と同じ日本国内だった。
日本は数十年振りの戦争に巻き込まれていた。

戦争が始まったのは数か月前。
相手国とは基盤国力に莫大な差があったものの、三ヶ国から陸海空をほぼ同時に攻め込まれ、後述する人的要因も重なって初期応戦が遅くなり、長期化に繋がってしまった。

「……全く、あの気違い防衛大臣が!」
「あの、准尉」
一曹が嗜めるような目で私を見る。
しかし事実だ。

売国奴の噂があった党が政権を取って成立した内閣。
その防衛大臣は最初の攻撃当時、一週間の外遊に出ていたのだ。
以前の例に漏れず、大臣が外遊から帰って来たのは、予定から更に一日経った六日後だった。
大臣の申請がなくては内閣も動けず、戦局は相手方へと傾いてしまった。

さて、私は一週間分の兵糧を保管する場所を選定していた。
兵糧が被害に遭っては士気に関わる。
「この空き地は?」
「そちらは先日焼夷弾の被害に遭いました。危険でしょう」
地図を指しながら、土地勘のある士長に聞いていく。

「この工場は何だ?」
「……そちらはナタデココ加工工場跡地です。今は無人ですから使えるかと」
「工場か。内部は機械だらけでは?」
「いえ。鉄器不足の折りに供出されました」
五年ほど前に起きた、大規模な鉄製品盗難事件。
不必要な鉄器を全国から集めた際に空になったのか。
「よし、ここにしよう」
「指示を出してくる。案内を頼む」
「はっ」
私は衛生部隊に指示を出すため、駐屯テントを出た。



完。
兵糧・ナタデココ・被爆でした。
……ビキニ湾とか?程度しか思いつかなかったのですが、結局未来日本が舞台……もとい被害に。
相手国は書いていませんが、一応設定はあります。
政治色が濃くなるので明言は避けました。ってか十分政治色出てますねw
まさかの戦争物第二弾はまさかの連続女性視点でした。
(男性視点と女性視点を交互に書いているのです)
「上長、投げられる石がもうありません!」
投石器を担当する砲兵から、悲痛な声がする。
「その辺に転がっている梨を使え!食えんだろう」
とりあえず叫んで、私は投石器の方へ走った。

地面に転がる巨大梨に足が絡まる。
梨とは名ばかりの一抱えもある大きな果実は、水分が少なく、栄養もなく、到底食べられるものではない。

「砲兵!」
「あっ……上長」
慌てて敬礼を返すのは、先ほど指示を求めた砲兵ではなかった。
「二等兵、砲兵は」
二等兵は敬礼を解くと、黙って首を振った。
「……そうか」

人が死ぬのは辛いが、だからといって悼んでいる暇はない。
私は梨を拾うと、沈んでいる二等兵に投げた。
「ここで死んでは、奴も浮かばれん」
「はっ!」
言葉の意図するところを察したのだろう。
二等兵は空いていた投石器に梨を充填した。


そして私は。
……立ちくらみを起こした。
目の焦点が合わない。
ここは戦争の最前線。
体調管理には気をつけているつもりだったが。

私は立っていられなくなり、その場に崩れ落ちた。
「上長!」
工兵らしい声がする。

そうか、これは……。
辛うじて目を開けると、傍に来ていた衛生兵に手を振った。
「問題ない。久し振りの変体が来ただけだ」

変体。

それは、人の進化。

人生で五度、その現象は起きる。
三日間から一週間の半変体……さなぎの期間を経て、再び蘇る。
時期は定まらず、きっかけも何も解明されていない。
ただ、誰にでも起こる、生理現象だ。


「……そう、ですか。分かりました」
「では後方から指示を」
衛生兵の提案に頷くと、私は意識を失った。




完。
お題は変体・投石器・梨でした。
変態じゃなくて変体かー。
要するに芋虫がサナギになって蝶になるあれですか。
とか思ってたんですが。
うわひでえwwww(本日二回目)

階級はマイナーなのを使いたくてドイツ軍bywikiを参考にしました。
砲兵と衛生兵は同じ二等兵です。
上長は海軍の階級で、兵曹上長の略。
准尉と少尉の間にある上級准尉と同じらしいです。
これ陸軍じゃないかとか突っ込んではいけませんw
放課後、俺の最近の予定は麻雀だった。
「なぁ、今日も行く?」
今日も変わらず頭にバンダナを締めた友人が聞いてくる。
暑くなってくると頭が蒸れそうで俺は気になるのだが、本人はないと違和感がある、のだそうだ。

「もっちろん」
麻雀は元から好きだったのだが、毎日のように行っているのは、訳がある。

それは「人和」という役。
「れんほー」と読むその役はローカルルールであり、雀荘によって若干ばらつきがある。

俺が慣れているのは、「自分の第一ツモを経た後であっても、第一打をロンした場合は人和とする」という、数種類ある人和の定義でも優しく、かなりマイナーなもの。
ちなみに一般定義は、チー・ポン・カンのない初巡の、自分の第一ツモ以前のロン和了を人和とするというタイプ。
麻雀その他専門用語が分からない人は、各自辞書を引いてくれたまへ。

そんな人和のマイナールールを採用している雀荘が、同じく雀荘通いの級友によってもたらされた。
ちなみにその彼はバンダナを自身のトレードマークとし、今では共に雀荘に通う友人となった。


陶器の壺が飾ってあるガラスを横目に、俺達は扉を開けた。
「おっちゃん、ちはーっす」



完。
バンダナ・陶器・れんほーでした。
ってえええええ!?
「れんほー」って蓮舫な気がしてならないorz
追記:麻雀の役に人和というのがあるそうです。天和みたいなもんか?(酷い認識

という雄叫びがあったり、うっかり先に「三十三」を先に書いてしまったり、と色々ありましたが、何とか完成。
人和の定義はwikiペを丸々コピーしました。
すみません辞書引かずに書きましたごめんなさい。
(某漫画の台詞パロですw)
草木も眠る丑三つ時。
俺は、廃校になった幼稚園を使ってホラー系スタンプラリーをやっていた。

ルールは簡単。
地図に示された場所に置いてあるスタンプを紙に押して帰ってくるだけだ。
二階建てだが、元々幼稚園なだけあって、建物自体大きくも広くもない。

それではあまりに簡単すぎる、と言い出した友人の提案で、明かりをなくす事にした。
懐中電灯なし。
加えて六月から続く梅雨のため、月明かりもない。

「じゃあ行ってくる」
「おー」
先頭はホラー大好き、友人♂。

「ねえ、一緒に、行ってくれない……?」
友人がいなくなるなりそう言い出したのは、同じく友人ただし♀。
「うーん……お前怖いの嫌いだもんなぁ」
なのになぜここにいるのかと言えば。
前述の友人♂の誘いを断り切れなかったからに他ならない。

「十分も掛かんねえのに、弱いんだなー」
異論を唱えたのは、言いだしっぺの友人こちらは♂。
「けど、一応女の子だぜ?」
「そりゃそうだけど」
とりあえず行ってくる、と残し、友人♂その二は建物へと入って行った。

「……じゃあ、二人には内緒な」
「! うん」
友人♂その二が見えなくなったのを確認して、俺は提案した。

しかし一緒に入るのは良いが、一緒に出るとまずい。
最悪、友人二人が監視の上で一人ずつ回らされる事にもなりかねない。
俺は地図を眺めて、そして気づいた。
「二階の端と一階の端に一個ずつあるから、最後にここで別れよう」
「そしたら帰ってくる時間がズレるから、多分ばれない」
地図を指し示しながら、俺は提案する。

「うん、ありがとう」
そして、俺たちは建物内へと入った。




「……ねえ、何かおかしくない?」
「奇遇だな。俺も思った」
建物がぐらぐらと揺れている。
ズズズ……と重いものを引きずって無理矢理動かすような音がする。
「っきゃああああああ!」
窓から見える景色が動く。
いいや、動いているのは……俺たちがいる建物の方だ。
建物がゆっくりと角度を変えていく。
まるで回転するかのように。

「外に出よう!」
友人の手を引いて俺は今来た廊下を引き返す。
……けれど。
「ねえ、ここ玄関よね?」
「ああ……」
靴箱はあるのに、玄関はない。
……玄関だったところは、全面のガラス張りになっていた。

「窓も開かねえ」
ドンドンと叩いてみるが、びくともしない。
高校の窓ガラスでも、叩けば少しぐらい手応えはあったのだが。

「とりあえず、二人を探そう。じっとしてても多分何も変わらない」
「……うん」


俺は友人の手を引いて、異様に真っ暗な校内を歩き出した。




完。
スタンプ・丑三つ時・回転でした。
わお、ひでえwww←
過去に書いた話に、「スタンプ3」というのがありまして。(未公開・未完)
それをモデルにしてみました。

回転が強引すぎますね。
そして男三人に女一人ってどうよw
しかし読み切りなのであんまり人数出せないのですよ……(´・ω・`)
「どーこ行ったんだろう、部長……」

園芸部に所属する私は、とある人を探して校内を歩いていた。
ちなみに園芸部、と言う名称だが、れっきとした委員会である。

今日の放課後、園芸部全体で園芸塔の手入れをする事が決まっていた。
校内各所に植えられる花を一括で育てる場所である。
私と部長の担当は睦月部屋。
各部屋には、月の異名が睦月から師走までつけられている。

今日の集合場所になっているその部屋の前に、部長は放課後二十分を経過しても現れないのだ。

「もー、校内にいるんじゃないのー?」
私はぐちぐちと独り言にしては大きな声で文句を言いながら三階を歩く。
教室、園芸塔、図書室、運動場と見て回ったが、全くいる気配がない。
下校したという可能性を考慮して靴箱も覗いたのだが、黒のローファーが乱雑に突っ込まれたままだった。

適当に歩き続けるうち、私は校舎の端に来ている事に気がついた。
それは、旧音楽室にして現音楽準備室……もとい物置き場の前。

♪♬♪♫♩~
「ん?」
低い、軽快な音楽が流れる。
ジャズだろうか。

楽器は……ピアノではなく、ドラムでもなく、ギターでもない。
ということはサックスだろうか。
ジャズに使われていそうな楽器を挙げて、そう、トランペットを忘れていた。
ただ、トランペットはもっと音が高かった気がするけれど。

「えいっ」
何となく誰が吹いているんだろう、と思い始めて、私は目の前の扉を開けた。
開けた瞬間、推定サックスの音が止む。
「……あれ、どした?」

「どしたって……ぶちょー……」


そう、推定サックスの奏者は部長だったのだ。
「……何やってんですか」
「何って、練習?」
いや、練習?じゃなくて。
私は頭を抱え、一旦話をリセットした。

「今日、園芸塔の手入れの日だって事、覚えてます?」
「あ……れ?今日だっけ」
きょとんとした顔の部長。本気で忘れていたらしい。
「今日ですよ」
きっぱりと言い放つと、部長はごめん、と一言謝った。

「もー、探し回ったんですからねー」
推定サックスを専用ケースに仕舞う部長に、私は文句を垂れた。
「あー、うん、悪い」
「何もない日はここでサックス吹いてるから」
今度はそうして、と部長は言うけれど。
「今度ってまた忘れる気ですか」
「うー……はい。ごめんなさい」
もう探させないでください、と言って、私達は音楽準備室を出た。


完。
お題は睦月・園芸・サックスでした。
月の異名より他の物が思い浮かびますむつきって。
オリジナル漫画「ラムネっとふぁんたじー(爆)」の話が頭の片隅にあったりなかったり。
サックスといえば小花美穂の漫画「アンダンテ」で主人公が吹いていましたね確か。
「なーなー、Qeenの元ボーカルって有田焼好きだったんだってさ」
「へー」
ほらここ、と友人が差し出した雑誌には、Qeenの特集記事があった。
ライブハウスでトリの出演までの空いた時間。
俺たちはできる限りたわいもない雑談をするよう、努力していた。

「今日でこのライブハウスも最後か」

目を細めた俺に、友人は言う。
「何言ってんの。またここでライブしようぜ」
「そん時は、単独でここ埋め尽くすんだ」
ワクワクする、という友人に、俺はそれもそうだな、と笑った。

そう、俺たちはメジャーデビューが決まったのだ。
相方が決まってから苦節十八年。
親には、
「桃栗三年柿八年、柚子の大馬鹿十八年。ちょうどぴったりの年ね」
なんて言われてしまったが。
十八年掛かってもデビューのデの字も出てこないバンドは数多く知っているから、まだ良かった方じゃないだろうか。

「よーし、終わったら飲むぞー!」
「おー、終わったらなー!」


俺は友人とぱんと手を合わせて、ステージへと向かった。



完。
ゆず・ライブハウス・有田焼でした。
……ライブネタ多い?
気のせいですよねきっとw

ゆずと言われると二人組のあれしか出てこなかったのですが、wikiペで見たらそんな諺を思い出したのでした。
いつも、誰かにガンを飛ばすような。
そんな強い目つきの女の子だった。

「どうしたの?」
私は、一人の少女に声を掛けた。
校庭の隅でうずくまる少女の黒い制服は、背後からでも私と同じ学校に通う生徒である事を表す。

「……別に」
少女は振り向き、私に一瞥をくれると元の通りに目線を戻した。
しかし、分かった事が一つある。

りぼんの色が赤い。
下級生なのか。

それから、度々同じような光景を見かけるようになった。
授業で校庭に出た時、休憩時間、放課後。
席替えをして、授業中に窓から校庭に目を向けると見つけた事もあった。

「ああ、あの子ね」
「花壇の手入れをしているのよ」
気になって先生に尋ねると、あっさりとそんな答えが返ってきた。
余程有名なのだろう。
下級生である事、いつも校庭にいるという事以外、私は何も知らないというのに。


「ねえ、手伝おうか?」
次は昼休みに声を掛けると、少女はいつも通りにガンを飛ばし、それからこくんと頷いた。
雑草を根元から丁寧に抜き、水をやり、肥料を与え、土を被せる。
だだっ広い校庭に点在する花壇の一つ、全ての花に同じ事を状態に合わせてやっていく。
単純で、けれど私は彼女が隣にいるだけで充分楽しかった。

そんな時間には、やはり限りがあるもので。
無情にも、昼休憩の終わりを告げる鐘が鳴った。
「……授業は、出ないの?」
私が確認するように聞くと、彼女はこくりと頷いた。


「授業……一応ギリギリは出たのよね、あの子」
授業には必要最低限しか出ないけれど、成績は割と良いのだという。
そして、花壇の手入れをしている理由も私は聞いたのだが。
「さぁ……?なんでかしら」

放課後。
「えっ、聞いてな……じゃなくて、多分忘れてた……」
私は友人から、図書管理会が主催する百人一首大会の話を聞かされた。
クラスから成績の良い若干名、それが私だった。
仕方ない。
先約を反故にする訳にもいかず、私は放課後の予定……少女と花壇の手入れ、を諦めた。

「しっかし図書券ねえ……」
早く終われば間に合うかもしれない、と本気を出した私に与えられたのは、優秀賞の栄誉と副賞だった。
ぴらぴらと小さなカードで扇ぎながら、私は少女を探しに出た。

「……あ」

ばったり。
袋に雑草を詰め、スコップと肥料とジョウロを持った彼女。
遭遇したのは、校舎に面する水場だった。
「今日は終わり?」
少女はこくりと頷く。
その目線が、私の右手……図書券に向けられている事に気づいて、私は説明した。
「百人一首の大会でもらったんだけど……」
「良かったらいる?」
私、本買わないのよね。と付け足すと、少女はこくりと頷いた。

「はい、プレゼント」
中身を見るために開けてそのままだった封筒に図書券を入れ直し、少女に渡す。

「……ありがとう、ございます」

感謝を伝える小さな声は、少し低くて、可愛かった。
「どういたしまして」
私がくすりと笑うと、彼女は俯いて、もうこちらを向いてはくれなかった。


翌日。
花壇の傍で本を広げる少女を見つけた。
分厚い本だ。けれど辞書にしては雰囲気が違う。
近づくと、タイトルが読めた。
「……植物図鑑?」
少女は顔を上げて私を認知すると、こくりと頷いた。

「病気とか……調べられるから」
「そっか。なら良かった」
私は隣に座ると、鞄を置いて雑草を抜き始めた。



完。
プレゼント・ガン・植物図鑑でした。
ガンが癌しか浮かばなくて、ふっつーな話にしかならん予感wwとか思いましたw
ガンを飛ばすって強引だなおい。
マリみてのバラエティギフトっぽい話になってしまった気がががg
(古い温室の妖精に呼ばれた少女の話があったのです)
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プロフィール
書いている人:七海 和美
紹介:
更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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