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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 三十八
進路指導室に兄が呼び出された。
無駄に教育熱心という、時代遅れな担任が話をしたい、らしい。

「何かやりたい事はないのか」
「ありません」
教師は兄に問いかけるが、兄は一言きっぱりと答える。

兄の……って私も同じだが、家は会社をしている。
曽祖父の、更に親の代から続く、割と大きな会社だ。
兄は小さい頃から跡継ぎとして大きな期待を一身に受けて育った。
今はまだ高校生だが、大学を出た後は由緒ある家柄のお嬢様との結婚も決まっている。

今更、他の道など考えられるはずもない。

そんな身の上を話すと、人は決まって「親が敷いてくれたレールの上を歩くだけって楽で良いよね」などと心ない事を言う。
家柄が良い上に成績優秀、品行方正な兄を、人は羨み、妬んだ。
けれど。
兄は、私にこんな例え話をしてくれた。
「鉄道の線路には、広軌と狭軌の二種類があるんだって」

「広軌用に作られた電車は、狭軌の線路を走れない」
「狭軌用に作られた電車もまた、広軌の線路では使えない」
大は常に小を兼ねるとは限らない、という実例だそうだ。
「線路は走る電車を選び、適合しない電車はその線路を走る資格がないんだよ」

幼かった当時の私は、その話の持つ意味が分からなかったけれど。
今なら分かる。

敷かれたレールの上を歩くにも、相応の努力が必要なのだ。

そう、兄は言いたかったのだろう。


進路指導室から、年季の入った溜息が聞こえる。
教師も、頑なな兄にとうとう諦めたのだろう。


兄が出てくる前に、帰る準備を終えなければ。
私は、進路指導室の前の廊下を、歩き出した。



完。
兄・お嬢様・進路指導室でした。
なぜか最初「……シスコン?w」とか思いました。
お嬢様が主人公の予定だったようですね。

私はレール敷かれた人生が羨ましいですが←

兄の人生の目標はきっと、周りに「跡継ぎに相応しい」と認められる事なのですよ。
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書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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