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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 三十九
ワイングラスを手に、目の前の女が薄く笑う。
「私と結婚してくれたら、父の遺産が全て手に入るのよ」

女は、大企業をいくつも立ち上げ、また傾いた企業をも再生させてきた男の一人娘。
その男は、今病院にいる。
既に脳死判定を受け、この女が承諾すれば生命維持装置も取り外され、完全な心臓死も迎える。

そんな女からの結婚話。
ここで一つ俺が頷けば、努力など欠片もしないで大金が転がり込む。

けれど。
甘すぎやしないだろうか。
俺は女の瞳を見ながら考えた。

……甘ったるい目だ。
人に媚びを売るだけで生きてきた女特有の、色気のある瞳。
澄んでいるように見える目はその実、どんな黒よりもどんよりと濁っている。
その澄んだ目の奥には、ただ欲しか見えない。

「ねえ、良いでしょう?」
ワイングラスを白いテーブルに置き、女は手を絡めてきた。
一体何人の男を、この手で、この瞳で落としてきたのだろう。

そうはなるまい。

俺は強くそう思った。
何か。何か裏があるはずだ。きっと。
その何か、はまだ分からない。
けれど直感を、俺は信じる事にした。
世の中、そんなに甘くないぜ、と心のどこかで自分に言い訳をしながら。


俺は、女の白い指を握り返した。
「いいや」
「悪いけど、この話は受けられない」

「……どうして?」
「お前には、俺は不釣合いだよ」

「だからごめん」



追いすがるような瞳を避けるように、俺は店を出た。
数日後、女は他の男と結婚し、父親は死んだ。

女には借金があったそうだ。
その上、父親の相続権は女にはなかった。
新しく妻がおり、その妻に半額を、残りは会社のために、と遺言書にはあった。
法定相続分だか何だかで、幾ばくかは女の手元にも来るそうだが……ギリギリ借金が棒引きになる程度の額。
結婚しても、金銭面のメリットはなかった。


だが俺は、それから以後、誰とも結婚の話なんて沸いて来なかった。
最後のチャンスだったらしい。



後悔するべきか、否か。
……俺には、分からない。

完。
ワイングラス・父親・瞳でした。
最初に書いた「君の瞳に乾杯☆と父親がry」の文章に引きずられてなかなか書けませんでしたw
漫画「神の雫」に出て来た女社長みたいな雰囲気ですねww
しかしこういうシチュエーションだと赤ワインのイメージがあるのはなぜだ。
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プロフィール
書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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