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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 四十一
「お嬢様、起きてください」
「お嬢様!」

僕の一日は、お仕えする家のお嬢様をお起こしする事から始まる。
お嬢様、とは言っても、正しくはこの家のご当主なのだけれど。
本来ならば、お嬢様が跡を継いだ時に「奥様」もしくは「ご主人様」と呼び替えるべきだったのだけれど。
お嬢様は、執事である僕にだけ「お前は呼び名を変えない事。良いわね」と言われ、お言葉に甘えてそのままになっている。
多分、年齢がほど近く、ほとんど一緒に生きてきたから、気を許せる相手として残したかったのだろう。
貴族の当主というのは、多分に神経をすり減らす立場だから。


「んー……こんな良い天気の日に叩き起こさないで頂戴……」
お嬢様はベッドに座って目を擦る。
叩き起こさないで、と言われても、それが僕の務めなのだから仕方がない。
「今日は一日天気が良いようですから、お昼にはティーパーティが出来ますよ」
「……それもそうね」
「今日は孤児院で行いましょう。それが良いわ。子供達も喜ぶかしら」
「はい、お嬢様」
お嬢様は僕の提案を良い考えだ、と言って計画を立てていく。

孤児院というのは、この家がずっと慈善活動の一環として寄付を続けているところだ。
今は執事に収まっている僕も、そこに捨てられていたらしい。
たまたま様子を見に来た先代の当主……旦那様と奥様が、お嬢様の遊び相手として連れ帰って頂いたのが、この家で奉公するきっかけである。


孤児院と貴族。
表社会の最底辺と最上位。
この二つが結びつくのは、ボランティアなどという甘ったるい理由ではない。

孤児院で育てた子供を拾い上げ、自分の義理の子供として社交界に潜り込ませる。
その子供を他家の子供と婚姻させ、または愛人にさせ。嫁いだ家の情報を自分の家に流す。
……要はスパイ。

情報一つ一つは大した事ではなくても、複数集まれば重要な意味を持つ事もある。
狸と狐の化かし合い。
できれば、この家が……お嬢様が、狸でありますよう。

僕は、お嬢様の幸せを願っている。




完。
日だまり・ボランティア・執事でした。
まさかの二日連続日だまりwww
最後の狸は「狐七化け狸は八化け」ということわざから、化かし合いに勝ってほしいという意味があります。
ちなみにこの後「カワウソ九化けネコは十化け」と続くらしいです。
猫化かしすぎるwww
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書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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