忍者ブログ
気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
[1]  [2]  [3]  [4]  [5]  [6]  [7]  [8
津波が起きた。
原因は外国で起きた地震。

海にほど近い学校に通っていたおれは、高台にある体育館に避難した。
先日行われた津波の避難訓練で、気持ちだけは準備万端だ。
あんな形式的な訓練でも、役立つことはあるのだと思った。
今度からは真面目にします、先生。

体育館には既にたくさんの人がいたが、両親含め、家族は誰も見つからなかった。
親父はまぁ仕方ない。県外に勤めているのだから。

問題は母と、妹だ。

体調を崩して学校を休んでいた妹を、母は無事に連れ出せたのだろうか。
体育館の目と鼻の先に建っている病院に行っていたのかもしれないけれど。
でも、もし。
もし家にいたら。
もし逃げるのが遅れていたら。

おれは知り合いが誰も見当たらない不安から、思考がよくない方へと向かっていた。
首を振って、耳を塞いで。
おれは頭をリセットして、もう一度周りを見渡した。

「ばあちゃん!?」

おれの目に飛び込んできたのは、ばあちゃんだった。
「ぼん。無事だったかい」
相変わらずゆったりとしたしゃべり方で、ばあちゃんはおれに答えた。
「うん。おれは」
「ばあちゃんも無事だったんだ」
おれの言葉に、ばあちゃんもうん、と頷く。

「ぼん、これ」
「ん?」
ばあちゃんが差し出したのは、小袋の干菓子だった。
パサパサの粉っぽい、でもものすごく甘いお菓子だ。
「ありがと」
「でもおれはいいや。妹見つけたらあげるよ」

おれは灰色の小袋を受け取ってポケットにしまう。
この干菓子は、妹の大好物だから。
「ああ、ほいじゃあもう一つあげるよ」
自分で見つけたらあげようと思っていたんだけどねぇ。
お兄ちゃんの方が見つけるのは得意だろう。
そう言って、ばあちゃんはもう一つ同じ小袋を差し出した。

「……ありがと。じゃあ今食べちゃう」
中に入っていた薄茶色の干菓子は、兄ちゃん早く見つけて。
そう叱る妹の声が聞こえた。



完。
津波・干菓子・準備万端でした。
干菓子は個人的好みで落雁をイメージw
津波がストレートすぎるwwww

あ、主人公の男の子はなんとなく小学生のつもりで書いていました←どうでもいいw
PR
不老長寿は人間の夢だというが、本当にそうだろうか。

私は、不老長寿の女だ。
スタイルも群を抜いて美しい。当然だろう。

ただ、そんな私にも欠点がある。
目だ。
少しだけ、目が気に入らない。
ばっちりとした大きな目は、それはそれで美しいものだけれど。
憂いを帯びたように伏せられた眼差しも、別の魅力があると思う。

私は願っていた。
誰か、私に流し目のように惹かれる瞳を。


そう願ってから数ヶ月。
念願のその時が来た。
最近流行のプチ整形、というやつを受けることになったのだ。

私はいつもの場所から移動して、床に横たえられ、首をもぎ取られた。
「さぁ、このマネキンの顔を描き換えるのよ」


完。
お題はプチ整形・流し目・不老長寿でした。
マネキン目線……て難しいなぁ。
私は、普通の女子高生。
ちょっと女の先輩に憧れるだけの。
ごくごく普通の、高校生だ。

ある日。
先輩が、鞄の他に、本を持って登校された。
おそらく通学の電車内で読まれていたのだろう。
だが、注目すべき点はそこではない。
その持っていた本にカバーが掛けられていたこと、だ。
本屋で本を買った時についてくる、紙製のものではない。
おそらく手作りだろうと思われる、布でできたブックカバーだ。

「誰にもらったんだと思う?あのブックカバー」
私は級友に話を振った。
「さぁ……。仲のいい後輩でもいるんじゃない?」
すげない友人の言葉に、私はがっくりと肩を落とす。
「仲の良い後輩か……そりゃ一人や二人ぐらいいるわよね」
「どうせ私なんていいとこストーカー紛いの背景だもんね……」
級友へ向けたはずの言葉は、すぐにぼやきに変わる。

先輩に憧れる、でも話しかける勇気なんて持てない。
そんな中途半端な人間だから、私は。

けれど。
神様だか仏様だかご先祖様だか精霊だか幽霊だか。
なんだかよく分からない謎の力が、私に味方してくれた。

お昼に繰り広げられるパン争奪戦で、見事目的のものを手にした私は、精算所に向かった。
「……先輩?」
「……はい?」
前に並んでいたのは、かの先輩だった。
しかもパンをごろごろと抱えて。

「っと、すみません」
うっかり出た声が、呼び掛けたような形になってしまい、私は慌てて謝罪した。
先輩はくすりと笑うと「いいわよ、お構いなく」と返してくれた。
精算を済ませた先輩が列を出る。

私がお金を払い終わると……なぜか先輩が手ぶらで微笑んでいた。
「私に、何か用事でもありそうだったから」

「……アリガトウゴザイマス」


「ええと……大したことじゃないんですが……えっと」
「先輩、今日は本にカバーかけられていましたよね」
「普段はそういうの使われていないのに、どうしてかなって思って」
しどろもどろになりながら、内心ヒヤヒヤしながら、妙なところに冷や汗をかきながら。
それでも私は聞いた。
だって気になるんだもの。

「……ああ。今朝の本ね」
「あれはお友達から借りたのよ」
「だからあのカバーも友人の物」
「どう?疑問は解決したかしら」

先輩の顔が少し近づいて、私は見惚れてしまった。
「……あ、はい!」
「ありがとうございます」
慌てて返事と、謝礼を述べる。

「そう、なら良かったわ」
先輩。先輩はどうしてそんなに優しいんですか?
ただの後輩に。
名前も知らない一生徒に。

「また、気になることがあったら聞いてね」
「答えられる時は答えるから」
それじゃ、と先輩は行ってしまった。

……はい、先輩。
今度は、私の方から先輩に声を掛けたいです。
勇気、出しますから。
また、優しく聞いてください。


完。
普通・ブックカバー・ぼやきでした。
えええwとか思ったんですが、頑張ってみた。
ううん、普通じゃない。
某マリみて臭しかしませんねすみません。
私達は、陸上部の強化合宿に来ていた。
「よし、なかなか良い調子ね」
私は選手達のスコアを整理しながら一人呟く。
ちなみにこんな事をやっているところからお分かりのように、私は選手ではない。
マネージャーだ。
ちなみに陸上には競歩・マラソン・リレー・棒高跳びなど、いくつもの競技があるが、私は走り高跳び専門のマネージャーである。
走り高跳び専門って随分と限定的かもしれないが、私が通う学校では圧倒的に人数が多く、また成績も良い。

人数が多いから成績上位者が出るのか、成績上位者に憧れて人数が増えるのかは定かではないが。

夏の高地練習も今日で一週間。
部のメンバーも全員、成績が安定してきたようだ。

さて、と私はスコアを片付けて一つ、伸びをした。
明日は最終。ホテルを離れて帰る準備をしておかないと。


翌日。
部員達からはぼやきが漏れていた。
「バスが手配出来なかっただぁ?」
「す、すまん……。バス会社の不手際でな」
「えーと、路線バスを使って帰ることに……なったんだ」
先生が大汗をかきながらしどろもどろに説明をする。
一昨日、他の陸上部員が大学生と合同練習を行うため、先にこのホテルを発った。
一部が残り、大半が帰るという辺りで連絡ミスが生じたのだろうか。

不満を言い続けても仕方がない。
私達は午前中いっぱいまで行う予定だった練習を途中までで切り上げ、路線バスに乗った。
「まぁ座れたから良いや」
「おーだりぃ。寝よ寝よ」
車内は私達走り高跳びのメンバー以外いない。
部員たちは鞄を降ろすと思い思いの座席に座った。

「マネージャー、座らなくて大丈夫?」
「大丈夫よ。さすがに鞄は下ろすけど」
部長の気遣いに、私は笑顔を返す。

あんまり、座りたくない気分なのよね……。

部長が気晴らしのゲームを始めた頃、私は一人呟いた。
座りたくない気分、というのも妙な感覚だと思うが。
実際そう感じたのだから仕方ない。

私は駅までの約二十分間、景色を眺めることにした。


「何かだりぃ……」
一人の部員がそう口にしたのは、もうすぐ駅に着こうかという頃。
「あー、何となく分かる。俺もー」
何かおかしい。
部員たちは全員ずっと座って、ほとんどが寝ていたはずだ。
疲れるはずのない状況で、なぜ。
「……部長は、どうですか?」
「認めたくはない、が……身体の力が抜けたような感覚だ」
「あと、頭痛がする」
「そう……ですか」
私は部員たちの状況を確認するように見渡して……。
何となく近くの窓を開けた。
「けほっ」
部長が大きな咳をする。
理由は分からないが、対処法は見つかった気がする。
私は急いで全ての窓を開けて回った。



「一酸化炭素中毒、ですか?」
ええ。と救急隊員の人が答える。
駅に着いてからすぐに119番通報をして事情を説明したところ。
酸素ボンベを積んだ救急車がやってきた。

幸い重症者はなく、私はとりあえず胸を撫で下ろした。
「マフラーに何か……何でしょうね。これが詰まっていました」
指差す先には、マフラーの中に黒っぽい詰め物。
排気口がいつの間にか塞がれ、行き場を失った排気ガスが車内に充満したらしい。
「さぁっすがマネージャー。助かったぁ」
「しっかりしてるよなぁ」
部員たちが口々に言う。
……褒めても何も出ないんだからねっ。

事件性があるため呼ばれた警察は、事情聴取をしたかったようだがそれは後日に回してもらった。
運転手さんに聞いた方が確実だと思うんだけどなぁ……。

そして、私達は。
改めて帰路に着いた。


完。
お題は走り高跳び・路線バス・一酸化炭素。
事故?一酸化炭素って何。
とか思いつつ、頑張って三つともねじ込んでみました。
運転手さんの自殺エンドにしようかと思ったのは内緒です。
きっと真昼間から飲んだくれた阿呆がやったんでしょう(ぇっ

マネージャーちゃんが立ちっ放しなのは、二酸化炭素は空気より重いので、一酸化炭素も同じじゃね?とか思ったからです。
一酸化炭素濃度は、0.16%で20分間で頭痛・めまい・吐き気、2時間で死亡。0.32%で5~10分間で頭痛・めまい、30分間で死亡らしいので、この辺のはず。
参考サイト:東京ガスhttp://eee.tokyo-gas.co.jp/safety/co.html
軽い一酸化炭素中毒で風邪に似た症状、脱力感や頭痛、目がチカチカしたり悪臭を感じたり、辺りも微妙に参考に。
……脱力感はもしやガスのせい?ああもういいy(ry
俺は劣等感に苛まれていた。

富めるものは財を持って更に富み、持たざるものは目先に囚われて更に貧しく。
貧富の差が激しくなった時代。
――一般的には、飽食の時代、と呼ばれていた。

俺は富める側に生まれた。
運が良かったのか悪かったのかは、分からない。
ただ、俺は小さい時に出会った、多分同じ年頃の少女に、未だ強い劣等感を抱いていた。


その少女と出会ったのは、家の近くにある空き地だった。
元々空き家があったはずなのだが、いつの間にか取り壊されたらしい。

「ねぇ、生きてて楽しい?」

初めて少女と出会った時、真っ先に言われた言葉だ。
一目見ただけで、俺の心は彼女に見透かされていた。
飢餓に喘ぎ、その日の食料すら保障されない生活。
手も足もやせ細った少女は、何の苦しみも知らないような笑顔で聞いた。

「……楽しくない」
俺は正直に答えるしかなかった。
くだらない勉強、定められた生活。
俺は何の変哲もない日常に飽きて、家を抜け出し、空き地まで来たのだから。
「やっぱり?面白くなさそうな顔しているんだもの」
くすくすと笑いながら少女は言った。
「面白い事見つけて過ごさなきゃ、だめよ」
少女は笑い続けながら言う。
「探しても見つからないんだから、仕方ないだろ」
深窓の令嬢のような、年が離れた姉のような、教え諭すような彼女の物腰に。
俺は努めて冷静に反論した。
……つもりだったが、どう考えても子供の口論だ。

「あら、あるわよ。必ず」

「例えば……」
彼女は人差し指を顎に当て、そう切り出した。

家庭教師の先生に、成績が悪いって怒られたら、どうする?
態度変える? 私は変えない。でもこっそり勉強するの。
努力するところなんて絶対に見せてやらない。
でね、次にいい成績取ったら、家庭教師の先生は驚くでしょう?
その顔、面白いなって眺めるの。

「面白いことっていうのは、探すだけじゃだめ」
その辺に落ちているものなら、みんな道端這いつくばって探しているわ。
少女は面白そうに笑う。
確かに。
道端を壮年の紳士淑女が這うように探していたら、さぞ滑稽だろう。
「どうしたら面白くなるかって考えて」
「考えて、それが実現できるように仕向けるの」

「それがジンセイを楽しく生きるコツ」
ぴっと人差し指を立てて、一つウインク。
「ふうん」


その後の事は覚えていない。
ただ、俺はもう一度その空き地に行ったけれど、その少女には会えなかった。
その後すぐ、空き地には家が建った。

俺は、その少女への劣等感が、今も拭えない。



完。
お題は飢餓・空き地・劣等感。
ええええええ。スラム街的な何かしか出てこない。
ちょっと展開に悩んだので一本案没にして明日書きますorz
↑とか書きつつ、結局ちょっと冒頭変えて書き直したというwww
暑くなってきた。

もう六月も半ばか……。
日本の初夏独特の、重苦しい湿気を肌で感じながら、俺は休憩に入った。
当初は終わりなく見えた片付けも、延々とやっていれば、果てもそれなりに見えてくるものだ。

俺は冷蔵庫に冷やしてあるラムネ瓶を取りに、立ち上がった。

ころん。

どこからか零れ落ちてきたのは、現像していないフィルム一本。
俺はそれを手に取ると、冷蔵庫へ足を向けた。


ぶしゅうっ

爽やかな炭酸を吐き出しながら、瓶の蓋を開ける。
……ラムネ瓶にだけは、「蓋を開ける」という表現が相応しいとは思わないが。
中のラムネを飲むためにやっている動作は、付属の蓋を使ってビー玉を瓶の中に落とし込むことだ。
「蓋を開ける」という言葉からはどうしても、プルトップ缶のように、また栓抜きで王冠を外すように、上へ持ち上げるという行為を思い浮かべる。


さて、と俺はラムネ瓶を机に置き、手中の物を見る。
先程部屋から持ち出したフィルムである。
ちなみにプラスチック製で白く半透明な、よくあるフィルムケースに入っている。
写っているだろう写真に、一切の心当たりはない。

俺は写真を撮ることは嫌いじゃないが、格段好きでもない。
携帯電話についているカメラと、セールで一万円前後のデジカメで満足しているレベルだ。
中身の手がかりを求めて、俺はフィルムケースを眺めまわす。
側面にも上蓋にもヒントは得られず、俺は何気なくケースをひっくり返した。
「アミモノ……何じゃそれ」
こんな狭い面にマジックでは、漢字で書けないと判断したのだろう。
「編み物、ねぇ……」

俺は、その文字を、言葉を理解するように繰り返して、ふっと思い出した。
去年死んだ親父のことだ。
一昨年の春に母が入院した時、親父は突然に「編み物をやりたい」と言い出したのだ。
兄弟の誰にも、親戚の誰にも理由は分からない。
母が入院していなければ分かったのかもしれないが、親父は母にだけは絶対に言うなと固く口止めをして回った。
そして親父はその夢を一人で実行し、秋に白いセーターを編み上げた。
完全に弱り切っていた母に親父はそのセーターを渡し、母はそれを機に回復へと向かった。

母は今も元気だ。

そういえば、この文字、親父の筆跡に似ている気がする。
「写真屋ってどこにあったっけなぁ……」
とりあえず現像してみないことには真相は分からない。

俺は、ラムネを飲みながら近くの写真屋を一軒一軒思い出し始めた。

完。
フィルム・編み物・ラムネ瓶でした。
うん、ノパソは小説書くのに向いてない!w
どこ片付けてんだお前って?多分家です。←
何も考えてないですw
「もうすぐ、目的地に到着いたします」
私は、アナウンス用の声に切り替えてマイクを取った。

大手旅行会社のガイドである私は、今回サーカスの観劇旅行にバスガイドも兼ねて参加した。

今回観劇するサーカス団の特徴は、何と言ってもこけしだ。
いきなりそんなことを言っても意味が分からないだろうから、順番に解説していこう。

まず、サーカス団のマークに使われている。
公演案内のチラシにも、パンフレットにも、とりあえずこけし。

ところで、こけしの性別は、と聞かれれば、はぁ?と最初に思われるだろう。
そして、大半の人が女性では、と答えられるだろう。
このサーカス団、団員は全て女性だ。

さぁ、そのこけしを描いて、と言われれば、大半の人が大体同じような顔を描く。
おかっぱ頭に、まっすぐ切り揃えられた前髪。
開いているのか閉じているのか判断がつかない目。
密やかに笑っているように見える、微妙な口元。
個性が出るのは、主に首から下だ。

このサーカス団、団員は全て同じような顔をしている。
顔、と言っては失礼だろうか。
化粧で、全員同じ顔に見せているのだ。

――なぜそんなことをするのか。
とあるインタビューによると、演技に集中してほしいからだという。
個性を消すことによって、誰がやっているか、ではなく、何をやっているか、に注目してほしいのだという。
そのインタビューには、団員・団長の名前も出ていなかった。
読者に分かりにくいから、編集部でA、B、と振ったところ、サーカス団名義で止めてほしい、と意見が来たそうだ。

「こちらがサーカスの行われる○○大演場でございます」
「では皆様、サーカス団『マトリョーシカ』の演技を、どうぞごゆっくりお楽しみください」
そうアナウンスして、私はマイクを置いた。

完。
こけし・サーカス・バスガイドでした。
えー、とバスガイド……?
普通のガイドさんですね、これでは。
こけし愛好家の皆様申し訳ございませぬ。
でも同じ顔に見えげふん。

三題噺も適当にさぼりつつ十作目ですよ。いつまで続くかな。←←
俺はカウンセラーをしている。
学校で児童・生徒の話を聞く、スクールカウンセラーと呼ばれる部類だ。
ちなみに精神科医とは違い、医者ではない。
薬を処方することもない。
ただ、医者よりは近づきやすい環境、にあるだけだ。

少子化が進んだ日本。
俺がまだ学生だった時も、もうすでに少子高齢化社会と言われていたけれど、それから更に少子化が進んでいた。

公立なら一学年五十人でマンモス学校と呼ばれてしまう。
ちなみに俺が常勤しているのは一学年二十人。
親が、「二十人なんて一クラスの半分じゃない」というが、小学生の甥っ子曰く「二十人とか顔覚えられない」らしい。
まぁ中学校に上がったらもう少し覚えられるんじゃないか?

と、そんな時代背景はさておき。
「せんせぇー、また海鳴りなったぁ……」
「お、そっか。おいで」

近年、カウンセリングに来る子供達に、不思議な現象が起きていた。
仮称『海鳴り』である。
耳鳴りの書き間違いではない。
耳鳴りはキィーンという甲高い音が多いが、海鳴り(仮)はザザァ……と文字通り海の音がするらしい。

発症率は五十%程度。
最初は耳鼻科や脳外科、神経外科に心療内科に精神科など、病院への受診を勧めていたのだが、全て返ってくるのは異常なし、の診断結果。
そして、対処療法のみが最近、発見された。

「ほら、ぎゅー」
「ぎゅー」

それは、ただ、抱き締めるだけ、というもの。
効果があるのは成年の、しかもある程度社会基盤のある人間、という辺りが何だか胡散臭いのだが、五千人を超える臨床実験で出た結果なのだから仕方がない。

「……先生、ありがとう」
「治った?」
俺の問いかけに、生徒はん、と首肯した。
「先生、も一個良い?」
生徒の質問に、俺はおう、と答えた。
この生徒は、海鳴りが収まるとすぐに帰ってしまう方で、話がある事は今までになかったはずだ。

「こないだ失踪事件あったの、知ってる?」
「ああ、うん」
最近……そう、海鳴りの対処療法が発見されたのと同時期だろうか。
生徒、児童の失踪事件が各地で相次いでいた。
この子の友人も、先日から、行方が分からなくなっていた。

「夢に、見たの」
「こっちおいでって。海の中から私を呼ぶの」
不安そうに俺を見つめてくる生徒。
俺は軽く生徒を抱き寄せながら考える。
「うーん……それは何だろうなぁ」
「夢占いだと未来を暗示する意味があるんだけど……」
その夢で不安になったということは、何かを察知したということ。
穏やかな夢は穏やかな日常を指し、荒れた夢は変化を意味する。

――もしかして、その友人は、もう……。
なんて、口が裂けても言える訳がない。
カウンセラーがクライアントの心を乱してどうする。

「ちょっと話したらマシになった」
「怖かったんだよ、ホント」
そう言って生徒は離れた。
「そか。また不安になったら来いよ。海鳴りじゃなくてもさ」
「うん!」

その生徒は、二度と来なかった。
隣の県にある海の砂浜を、一人で歩いていた、というのが、最後の目撃情報だった。


――俺は、何もできなかった。


完。
すみません、明日ry
【後書き】
カウンセラー・海鳴り・少子化でした。
ざ・投げっ放し。
穏やかな夢なら~のくだりは嘘です捏造です(待て
海の夢占い:あなたのこの先の生活、将来的な展望が海の夢となって現れます。http://yume-uranai.jp/
だそーですよ。
私が通う学校では、一年次は二学期の大半をかけてワルツを学ぶ習わしになっている。

――などと書きだすと、「ああ、最近流行りのお嬢様学校ね」と思われる方も多いかもしれない。
だが、私の通う学校は共学である。
私立である、という点は正しいのだが、何百年もの古くに端を発するような歴史はない。
開校から確か五十年ほど。
しかも、ワルツを習うようになったのは、私の親世代からだという。

しかもその理由が、当時の教頭の趣味だったというのだから笑えない。


「一と、二と、三。一と二と三」
「Bチーム、遅れてる」
凛とした声が体育館に響く。
厳しく、明るく。指導に有無を言わせない。
ワルツの授業のために招聘される顧問の先生は、そんな人だ。

「んー、ちょっと疲れてきたかな。休憩」
「おっしゃあ!」
主に男子から喜びの声が上がる。
規定のステップを踏みつつ上半身は相手と合わせる。
そんな複雑な動きは、十分も続けるとあっという間に体力を消耗してしまうらしい。
もっとも私は、なぜかすんなり覚えてしまったのだが。
運動能力が皆無な割には、大した出来だ。

「Eチームの……ええと、名前なんだっけ」

友人が後ろから、くいくいと私の短い髪を引っ張る。
「ねぇ、呼び鈴じゃないんだけど」
注意しながら私が振り向くと。

「ああ、ちょっと良いか?」
先生のど・アップの顔。
「……へ?ああはい何でしょうか」
びっくりして少し早口になってしまった。
「次、Cチーム見ててくれないか?先生はBチームに集中するから」
「あ……はい」
そっか、じゃあ頼むな。
そう言って先生はニカッと笑った。
笑顔が爽やかで、太陽のようだ。

五分間の休憩を挟んで、私はCチームの練習に付き合った。
「普段鈍くさい割、こーゆーのは得意なんだな、お前」
「だってそんなに忙しくないじゃない。ほら、足間違えてる」
「えー、それだけの理由かー?」
「Cチームうるさい」

からかう男子達に、まともに相手をしてしまった。
先生から注意が飛ぶ。
いけない、しっかりしないと。

「何が良いんだかねぇ。あんな自己中教師」
「さっき注意されたでしょ。居残りたいならご勝手にどうぞ」
「うげ」
Cチームの男子は私があの先生を好きだと決め付けて、まだ私語を続ける。

基礎のステップができていない、特に遅れている、と判断された生徒は、放課後に補習を受けさせられる。
その判断が先生の独断、かつ強制だから、脅しのネタには丁度いい。
出来の悪い生徒達が先生を嫌う、最大の理由でもあるのだけれど。

でも。
ちゃんと見ていれば分かる。
傍目には習熟度は同じぐらいに見える人は何人もいる。
けれど、補習の判断はその後だ。
注意されたことがすぐに直せるか。
覚えていないんじゃなくて疲れて間違えてしまっただけか。
ステップは覚えたけれど、上半身がついていかないだとか。
たまたま出来の悪いパートナーに当たって、つられてしまっているだけの人だっている。

そこまでちゃんと見ているのだ、先生は。

「そこの二人、そっちと代わってみてくれる?」
「ん?あぁ……」
指示を出すと、男子三人女子一人はすんなり入れ替わる。
「ええと、ちょっとストップ。ちょっと私とやってみるか」
えっと驚いた顔の男子の手を取って踊りだす。
うん、こっちは合っているのよね。

ワルツは二人の呼吸を合わせて踊るもの。
片方が間違っていたら、もう片方もつられて間違えてしまう。
どちらが正しくて、どちらが間違っているのか、それを見極めるのが大事。
踊っていると、お互いに自分は正しいと思ってしまうから。


「はい、じゃあ休んでて。お待たせ、相手お願いね」
一人空いていた女子の手を取って、もう一度踊りだす。
……やっぱり。
「ちょっと遅い……のかな?全体的に」

「一、二、三、一、二、三」
早めに唱えると、少しずつ足が合ってきた。
うーん、違うテンポを唱えながら三拍子で、間違いなく踊るのって難しい。
「お、うまくなったな」
「先生より教え方うまいもん」
先生の褒め言葉に、踊っていた女子は憎まれ口を叩く。
その『先生より教え方がうまい』という私は、先生から教わったのだが。

「あはは、藍より青し、だな」
「そんなことないですって」
その憎まれ口を否定せず、笑う。
先生のお茶目なところだ。

ちなみに藍より青し、とは、慣用句『青は藍よりい出て藍より青し』のこと。
青という染料は植物の藍から採って作るのに、もとの藍より青い、という意味だ。
トンビが鷹を生む、と似たようなものだろうか。

「じゃあ休憩したら一周踊ってみようか」
先生がぱんぱん、と手を叩いて、私は休憩に入った。


【追記】
用事とかなんやかやで無理でした。
明日まとめて書きます……。
【後書き】
太陽、ワルツ、唯我独尊。
……唯我独尊?何それおいしいの。
太陽のような、とワルツを重視した結果がこれだよ!
四月上旬、暦の上では季節は春。
だというに、頭の三度笠にはうっすらと雪が積もっていた。

俺は、北を目指して歩いていた。
親父の親戚の知り合いだという、寺だ。

面識のある知り合いがいる訳じゃない。
ただ、できれば遠くの、できれば知り合いの、寺に行きたかっただけだ。
信心などこれっぽちもなかった俺が、なんで急にそんなところへ行きたがったのか。
親父は疑問に思っただろうが、何も言わずに送り出してくれた。

北への旅は、まだ季節的に向かず。
もう帰れないかもしれない。
それでも。

俺は行かなければならなかった。

―― 否、離れなければならなかった。
俺が生まれ育った、あの場所から。


俺は、失恋した。
相手は、幼馴染。
地元でも大手の茶屋の、看板娘だ。
取引先の豪商から、俺と共通の幼馴染、果ては通りすがりの客まで。
気立てがよく顔も良い彼女は、引く手あまただった。

だが、茶屋のおかみさん―――看板娘のおっかさん――は、なぜか俺に縁談を持ってきた。
「うちの娘をどうですやろか」と。
俺は耳を疑い、何度も聞き直した。
「ほんまに俺ですか?」
幾日空け、幾度同じ問いを繰り返しても、おかみさんの答えは変わらなかった。
「ええ。うちはおまえさんが良いんです」

そうして俺と彼女は付き合い始めた。
俺は天にも昇る想いで、日々を過ごした。
――この時、俺は彼女の、何を見ていたのだろう。
多分、俺は彼女の何も見えていなかった。
表面の、素の美しさに見惚れて。
彼女の目が沈んでいたことに、彼女の唇が綺麗な弧を描くことがなくなったことに、俺は気づけなかった。


ある日、俺は丸一日出掛けた。
帰りに通った隣町で、俺は彼女を見つけた。
知らない男と、ひどく楽しそうに話す彼女。
べたべたと手に、腕に、肩に触れる男。
俺は二人をじっと見つめて、そして思い出した。
常連客の男だ、と。

そっと会話を立ち聞きできる位置まで俺は動いた。
「ほいじゃあ、そろそろ帰らにゃ……」
「ああ、また次な」
「うん。また時間見つけて会おうなぁ」
色気を帯びた、彼女の声。
事情を知らぬ者が聞けば、恋仲にある男女の会話にしか聞こえないだろう。

「……そっか」
俺は、彼女の気持ちが自分にないことを知った。
それからしばらくして、俺は彼女に別れを告げた。

間を置いたのは、彼女の本意を確認するためと、自分の気持ちを整理するため。
それから、彼女に俺が「知っている」事を知られないためだ。
彼女に本命がいると分かれば、彼女を推してくれたおかみさんにも迷惑が掛かるから。
彼女の気持ちが俺になくとも、俺は彼女が好きで。
だから彼女に辛い思いをさせるのは、俺の望むところじゃなかった。

彼女に別れを告げた時、彼女が密かに喜んだことが、俺にとって唯一の救いだった。
俺は、彼女を俺のものにするより、彼女が幸せでいられることの方が、嬉しかったから。



どうか、時よ。
叶うなら、俺のこの気持ちを、降りしきる雪で覆い隠して。
もう二度と彼女を思い返すことがないように。



俺は、白くなり始めた道を歩き続けた。
たった一度の恋心を抱えながら。


完。
お題は「三度笠、看板娘、別れても好きな人」でした。
三度笠ってナニ!?とか思ったのですが、木枯らし紋次郎がかぶっている笠らしいですね。
(例えがいい加減かつ古い)
もしくは北風小僧の寒太郎。(だから古(ry
演歌調にしようかと思ったのですが、早々に断念しました。
多分時代は江戸とか明治とかその辺です。
交通機関が発達していなさそうな。
累計アクセス数
アクセスカウンター
レコメンド
プロフィール
書いている人:七海 和美
紹介:
更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
忍者ブログ [PR]