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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 八
私が通う学校では、一年次は二学期の大半をかけてワルツを学ぶ習わしになっている。

――などと書きだすと、「ああ、最近流行りのお嬢様学校ね」と思われる方も多いかもしれない。
だが、私の通う学校は共学である。
私立である、という点は正しいのだが、何百年もの古くに端を発するような歴史はない。
開校から確か五十年ほど。
しかも、ワルツを習うようになったのは、私の親世代からだという。

しかもその理由が、当時の教頭の趣味だったというのだから笑えない。


「一と、二と、三。一と二と三」
「Bチーム、遅れてる」
凛とした声が体育館に響く。
厳しく、明るく。指導に有無を言わせない。
ワルツの授業のために招聘される顧問の先生は、そんな人だ。

「んー、ちょっと疲れてきたかな。休憩」
「おっしゃあ!」
主に男子から喜びの声が上がる。
規定のステップを踏みつつ上半身は相手と合わせる。
そんな複雑な動きは、十分も続けるとあっという間に体力を消耗してしまうらしい。
もっとも私は、なぜかすんなり覚えてしまったのだが。
運動能力が皆無な割には、大した出来だ。

「Eチームの……ええと、名前なんだっけ」

友人が後ろから、くいくいと私の短い髪を引っ張る。
「ねぇ、呼び鈴じゃないんだけど」
注意しながら私が振り向くと。

「ああ、ちょっと良いか?」
先生のど・アップの顔。
「……へ?ああはい何でしょうか」
びっくりして少し早口になってしまった。
「次、Cチーム見ててくれないか?先生はBチームに集中するから」
「あ……はい」
そっか、じゃあ頼むな。
そう言って先生はニカッと笑った。
笑顔が爽やかで、太陽のようだ。

五分間の休憩を挟んで、私はCチームの練習に付き合った。
「普段鈍くさい割、こーゆーのは得意なんだな、お前」
「だってそんなに忙しくないじゃない。ほら、足間違えてる」
「えー、それだけの理由かー?」
「Cチームうるさい」

からかう男子達に、まともに相手をしてしまった。
先生から注意が飛ぶ。
いけない、しっかりしないと。

「何が良いんだかねぇ。あんな自己中教師」
「さっき注意されたでしょ。居残りたいならご勝手にどうぞ」
「うげ」
Cチームの男子は私があの先生を好きだと決め付けて、まだ私語を続ける。

基礎のステップができていない、特に遅れている、と判断された生徒は、放課後に補習を受けさせられる。
その判断が先生の独断、かつ強制だから、脅しのネタには丁度いい。
出来の悪い生徒達が先生を嫌う、最大の理由でもあるのだけれど。

でも。
ちゃんと見ていれば分かる。
傍目には習熟度は同じぐらいに見える人は何人もいる。
けれど、補習の判断はその後だ。
注意されたことがすぐに直せるか。
覚えていないんじゃなくて疲れて間違えてしまっただけか。
ステップは覚えたけれど、上半身がついていかないだとか。
たまたま出来の悪いパートナーに当たって、つられてしまっているだけの人だっている。

そこまでちゃんと見ているのだ、先生は。

「そこの二人、そっちと代わってみてくれる?」
「ん?あぁ……」
指示を出すと、男子三人女子一人はすんなり入れ替わる。
「ええと、ちょっとストップ。ちょっと私とやってみるか」
えっと驚いた顔の男子の手を取って踊りだす。
うん、こっちは合っているのよね。

ワルツは二人の呼吸を合わせて踊るもの。
片方が間違っていたら、もう片方もつられて間違えてしまう。
どちらが正しくて、どちらが間違っているのか、それを見極めるのが大事。
踊っていると、お互いに自分は正しいと思ってしまうから。


「はい、じゃあ休んでて。お待たせ、相手お願いね」
一人空いていた女子の手を取って、もう一度踊りだす。
……やっぱり。
「ちょっと遅い……のかな?全体的に」

「一、二、三、一、二、三」
早めに唱えると、少しずつ足が合ってきた。
うーん、違うテンポを唱えながら三拍子で、間違いなく踊るのって難しい。
「お、うまくなったな」
「先生より教え方うまいもん」
先生の褒め言葉に、踊っていた女子は憎まれ口を叩く。
その『先生より教え方がうまい』という私は、先生から教わったのだが。

「あはは、藍より青し、だな」
「そんなことないですって」
その憎まれ口を否定せず、笑う。
先生のお茶目なところだ。

ちなみに藍より青し、とは、慣用句『青は藍よりい出て藍より青し』のこと。
青という染料は植物の藍から採って作るのに、もとの藍より青い、という意味だ。
トンビが鷹を生む、と似たようなものだろうか。

「じゃあ休憩したら一周踊ってみようか」
先生がぱんぱん、と手を叩いて、私は休憩に入った。


【追記】
用事とかなんやかやで無理でした。
明日まとめて書きます……。
【後書き】
太陽、ワルツ、唯我独尊。
……唯我独尊?何それおいしいの。
太陽のような、とワルツを重視した結果がこれだよ!
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プロフィール
書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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