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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 九
俺はカウンセラーをしている。
学校で児童・生徒の話を聞く、スクールカウンセラーと呼ばれる部類だ。
ちなみに精神科医とは違い、医者ではない。
薬を処方することもない。
ただ、医者よりは近づきやすい環境、にあるだけだ。

少子化が進んだ日本。
俺がまだ学生だった時も、もうすでに少子高齢化社会と言われていたけれど、それから更に少子化が進んでいた。

公立なら一学年五十人でマンモス学校と呼ばれてしまう。
ちなみに俺が常勤しているのは一学年二十人。
親が、「二十人なんて一クラスの半分じゃない」というが、小学生の甥っ子曰く「二十人とか顔覚えられない」らしい。
まぁ中学校に上がったらもう少し覚えられるんじゃないか?

と、そんな時代背景はさておき。
「せんせぇー、また海鳴りなったぁ……」
「お、そっか。おいで」

近年、カウンセリングに来る子供達に、不思議な現象が起きていた。
仮称『海鳴り』である。
耳鳴りの書き間違いではない。
耳鳴りはキィーンという甲高い音が多いが、海鳴り(仮)はザザァ……と文字通り海の音がするらしい。

発症率は五十%程度。
最初は耳鼻科や脳外科、神経外科に心療内科に精神科など、病院への受診を勧めていたのだが、全て返ってくるのは異常なし、の診断結果。
そして、対処療法のみが最近、発見された。

「ほら、ぎゅー」
「ぎゅー」

それは、ただ、抱き締めるだけ、というもの。
効果があるのは成年の、しかもある程度社会基盤のある人間、という辺りが何だか胡散臭いのだが、五千人を超える臨床実験で出た結果なのだから仕方がない。

「……先生、ありがとう」
「治った?」
俺の問いかけに、生徒はん、と首肯した。
「先生、も一個良い?」
生徒の質問に、俺はおう、と答えた。
この生徒は、海鳴りが収まるとすぐに帰ってしまう方で、話がある事は今までになかったはずだ。

「こないだ失踪事件あったの、知ってる?」
「ああ、うん」
最近……そう、海鳴りの対処療法が発見されたのと同時期だろうか。
生徒、児童の失踪事件が各地で相次いでいた。
この子の友人も、先日から、行方が分からなくなっていた。

「夢に、見たの」
「こっちおいでって。海の中から私を呼ぶの」
不安そうに俺を見つめてくる生徒。
俺は軽く生徒を抱き寄せながら考える。
「うーん……それは何だろうなぁ」
「夢占いだと未来を暗示する意味があるんだけど……」
その夢で不安になったということは、何かを察知したということ。
穏やかな夢は穏やかな日常を指し、荒れた夢は変化を意味する。

――もしかして、その友人は、もう……。
なんて、口が裂けても言える訳がない。
カウンセラーがクライアントの心を乱してどうする。

「ちょっと話したらマシになった」
「怖かったんだよ、ホント」
そう言って生徒は離れた。
「そか。また不安になったら来いよ。海鳴りじゃなくてもさ」
「うん!」

その生徒は、二度と来なかった。
隣の県にある海の砂浜を、一人で歩いていた、というのが、最後の目撃情報だった。


――俺は、何もできなかった。


完。
すみません、明日ry
【後書き】
カウンセラー・海鳴り・少子化でした。
ざ・投げっ放し。
穏やかな夢なら~のくだりは嘘です捏造です(待て
海の夢占い:あなたのこの先の生活、将来的な展望が海の夢となって現れます。http://yume-uranai.jp/
だそーですよ。
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プロフィール
書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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