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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 十二
俺は劣等感に苛まれていた。

富めるものは財を持って更に富み、持たざるものは目先に囚われて更に貧しく。
貧富の差が激しくなった時代。
――一般的には、飽食の時代、と呼ばれていた。

俺は富める側に生まれた。
運が良かったのか悪かったのかは、分からない。
ただ、俺は小さい時に出会った、多分同じ年頃の少女に、未だ強い劣等感を抱いていた。


その少女と出会ったのは、家の近くにある空き地だった。
元々空き家があったはずなのだが、いつの間にか取り壊されたらしい。

「ねぇ、生きてて楽しい?」

初めて少女と出会った時、真っ先に言われた言葉だ。
一目見ただけで、俺の心は彼女に見透かされていた。
飢餓に喘ぎ、その日の食料すら保障されない生活。
手も足もやせ細った少女は、何の苦しみも知らないような笑顔で聞いた。

「……楽しくない」
俺は正直に答えるしかなかった。
くだらない勉強、定められた生活。
俺は何の変哲もない日常に飽きて、家を抜け出し、空き地まで来たのだから。
「やっぱり?面白くなさそうな顔しているんだもの」
くすくすと笑いながら少女は言った。
「面白い事見つけて過ごさなきゃ、だめよ」
少女は笑い続けながら言う。
「探しても見つからないんだから、仕方ないだろ」
深窓の令嬢のような、年が離れた姉のような、教え諭すような彼女の物腰に。
俺は努めて冷静に反論した。
……つもりだったが、どう考えても子供の口論だ。

「あら、あるわよ。必ず」

「例えば……」
彼女は人差し指を顎に当て、そう切り出した。

家庭教師の先生に、成績が悪いって怒られたら、どうする?
態度変える? 私は変えない。でもこっそり勉強するの。
努力するところなんて絶対に見せてやらない。
でね、次にいい成績取ったら、家庭教師の先生は驚くでしょう?
その顔、面白いなって眺めるの。

「面白いことっていうのは、探すだけじゃだめ」
その辺に落ちているものなら、みんな道端這いつくばって探しているわ。
少女は面白そうに笑う。
確かに。
道端を壮年の紳士淑女が這うように探していたら、さぞ滑稽だろう。
「どうしたら面白くなるかって考えて」
「考えて、それが実現できるように仕向けるの」

「それがジンセイを楽しく生きるコツ」
ぴっと人差し指を立てて、一つウインク。
「ふうん」


その後の事は覚えていない。
ただ、俺はもう一度その空き地に行ったけれど、その少女には会えなかった。
その後すぐ、空き地には家が建った。

俺は、その少女への劣等感が、今も拭えない。



完。
お題は飢餓・空き地・劣等感。
ええええええ。スラム街的な何かしか出てこない。
ちょっと展開に悩んだので一本案没にして明日書きますorz
↑とか書きつつ、結局ちょっと冒頭変えて書き直したというwww
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書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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