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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 十一
暑くなってきた。

もう六月も半ばか……。
日本の初夏独特の、重苦しい湿気を肌で感じながら、俺は休憩に入った。
当初は終わりなく見えた片付けも、延々とやっていれば、果てもそれなりに見えてくるものだ。

俺は冷蔵庫に冷やしてあるラムネ瓶を取りに、立ち上がった。

ころん。

どこからか零れ落ちてきたのは、現像していないフィルム一本。
俺はそれを手に取ると、冷蔵庫へ足を向けた。


ぶしゅうっ

爽やかな炭酸を吐き出しながら、瓶の蓋を開ける。
……ラムネ瓶にだけは、「蓋を開ける」という表現が相応しいとは思わないが。
中のラムネを飲むためにやっている動作は、付属の蓋を使ってビー玉を瓶の中に落とし込むことだ。
「蓋を開ける」という言葉からはどうしても、プルトップ缶のように、また栓抜きで王冠を外すように、上へ持ち上げるという行為を思い浮かべる。


さて、と俺はラムネ瓶を机に置き、手中の物を見る。
先程部屋から持ち出したフィルムである。
ちなみにプラスチック製で白く半透明な、よくあるフィルムケースに入っている。
写っているだろう写真に、一切の心当たりはない。

俺は写真を撮ることは嫌いじゃないが、格段好きでもない。
携帯電話についているカメラと、セールで一万円前後のデジカメで満足しているレベルだ。
中身の手がかりを求めて、俺はフィルムケースを眺めまわす。
側面にも上蓋にもヒントは得られず、俺は何気なくケースをひっくり返した。
「アミモノ……何じゃそれ」
こんな狭い面にマジックでは、漢字で書けないと判断したのだろう。
「編み物、ねぇ……」

俺は、その文字を、言葉を理解するように繰り返して、ふっと思い出した。
去年死んだ親父のことだ。
一昨年の春に母が入院した時、親父は突然に「編み物をやりたい」と言い出したのだ。
兄弟の誰にも、親戚の誰にも理由は分からない。
母が入院していなければ分かったのかもしれないが、親父は母にだけは絶対に言うなと固く口止めをして回った。
そして親父はその夢を一人で実行し、秋に白いセーターを編み上げた。
完全に弱り切っていた母に親父はそのセーターを渡し、母はそれを機に回復へと向かった。

母は今も元気だ。

そういえば、この文字、親父の筆跡に似ている気がする。
「写真屋ってどこにあったっけなぁ……」
とりあえず現像してみないことには真相は分からない。

俺は、ラムネを飲みながら近くの写真屋を一軒一軒思い出し始めた。

完。
フィルム・編み物・ラムネ瓶でした。
うん、ノパソは小説書くのに向いてない!w
どこ片付けてんだお前って?多分家です。←
何も考えてないですw
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書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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