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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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「へっくしゅ!」
ぐすっ
「うぅ……。やっぱり空気清浄機買おう……」
私は今年、いや、今年度か。一人暮らしを始めた。
そしてもうすぐ一年。

私は、少し早い花粉症に悩まされていた。
まだいける、と頑張っていたのだが……あちこちの予報通り、今年のスギは強力だった。
何せ、「花粉症なんて罹る人いるんだー」と笑っていた友人が発症するほどなのだから。

あまり外に出たくないから空気清浄機も通信販売で購入しようと思っていたのだが、今の状態では注文から配送までの数日すら耐えられそうにない。
やむを得ず、私はマスク、サングラス、帽子にコートの完全防備で家を出た。

「ずみまぜん……」
近くにある割には行ったことがなかった家電量販店に着くと、私はちかくにいた店員を呼び止めた。
花粉で涙目の私には、天井から吊り下げられたコーナー名など読めるはずもない。
「はい、何でしょう?」
「……マンボー?」
空気清浄機の場所を聞くはずが、視界に映った名札に思わず目を奪われてしまった。
彼の名札には『マンボー』、その隣には魚のマンボウが可愛らしいタッチで描かれている。

「ああ、これは現在行われているキャンペーンです」
にっこり笑った親切な店員が何やら説明してくれたが、鼻づまりで窒息しそうになっていた私の耳にはあまり届かなかった。

「……というキャンペーンです」
「はあ。あの、ところで空気清浄機ってどこでしょうか……」
話の流れが変わりすぎて失礼だろうかとも思ったが、呼び止めた目的も果たさねば。
「空気清浄機でしたらこちらになります」
店員は気を悪くする風もなく(接客なら当たり前かもしれないが)コーナーまで案内してくれた。

持ち上げた時の軽さと機能の折り合いがついた橙色の機種を手に、私は店を出た。
……出た矢先。
猫のしっぽだろうか。ゆらんと揺れる毛の塊を私は見つけた。

「にゃんこ、」
ついいつもの癖で、私は猫を呼び止める。
ただ、普段と違ったのは、その猫がこちらを振り向き、寄ってきた事だ。

「おまえ、野良?」
頭を撫でながら問うた私に、猫は答えるようににゃおんと鳴く。
「……うちにおいで」
特別選んだ訳ではないが、私の住むマンションはペット可。
にゃおんと再び鳴いたその猫を、私は連れて帰る事に決めた。

「……名前……そうだ、『マンボー』で良い?」
足元にじゃれつく猫を靴先で構ってやりながら、私は問う。
猫は足元に擦り寄り、ゴロゴロと喉を鳴らすと。
またにゃおんと鳴いた。


完。
空気清浄機、マンボー、猫のしっぽでした。
久々に書きました。何ヶ月振りだ。
完結させる、が実はかすかな目標でしたw
猫可愛いよ猫。
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最近の言葉で表現するなら、秋葉系、とやらになるのだろうか。
日本語を無意味に片仮名表記するのは好まないが、やはりここは漢字の秋葉系、より片仮名でアキバ系と表記した方が似つかわしい気がする。

僕のお気に入りの場所……古く朽ちかけた温室に、彼は眠っていた。
物語のように死んでいる訳でも、童話のように果物を喉に詰まらせて窒息している訳でもない。
元々植木鉢でも置いてあったのだろう鉄の台に腰掛けて、その人は眠っている。

厚い眼鏡を掛け、大人しくて、地味で、少し痩せていて、時々同級生の嘲笑のネタにされる人。
直接の関わりはなかったから、目の前で寝られると……反応に困る。
いや、放っておいても構わないのかもしれないが、それも何となく嫌だった。
「んー……うぅ、はぁ……」
呻くような寝言の後、眼鏡の奥の目がゆっくりと開かれていく。

「……!」
しまった、と僕はとっさに思った。
眠っていたせいでうっかり、顔と顔の距離が……異様に近づいていたからだ。
「ええと、その」
「……ごめん、寝てた……。ふぅ」
僕の慌て様とは真逆に、目覚めたばかりの彼は眉間を押さえて瞬きする。

「ああ、この温室よく来るんだっけ」
「……ああ」
彼の思い出したような呟きに、とりあえず是と答える。
そっか、と彼は言って、立ち上がり伸びをする。

「ここ、燕が来てたんだ。去年」
「だから、今年も巣作りに来るかなって思って見に来てみたの」
彼の説明に、僕はふうん、と頷くような声を漏らすしかなかった。
渡り鳥を見つける事自体が、変わり者としか言いようがない。
……冒頭で言ったアキバ系、の発言は取り消すけれど。

「一周回ってもいないから座ったら、そのまま寝ちゃったみたい」
ごめんね、と彼は淡く微笑んだ。

……何を謝る事があるのだろうか。
ここは、誰が立ち入っても構わない共有スペースなのだから。

「……別に良いんじゃないの。僕の場所じゃないんだし」
「また、燕とか雀とか探しに来れば」

「……そう?お邪魔じゃないのなら、また来ようかな」
居心地良いよね、ここ。

そう、また淡く笑って、彼は温室を出た。


完。
渡り鳥・温室・秋葉系
うわ何これ酷い。
秋ww葉www系wwwwwとか思ってたら、文章は更に酷くなった件。
自称、僕より俺の方が似合いますね多分。
月の綺麗な、昼だった。

……そんな表現をすると、あれ?と思われるだろうか。
だが事実だ。
太陽は厚く黒ずんだ雲に隠れ、けれど雨は降らない、そんな天気。
星も瞬かないのに、ただ月だけが煌々と輝いている。

俺は、道を歩いていた。
夜に開催されるイベントのために、昼過ぎから友人と待ち合わせの予定。
もうすぐ待ち合わせに着く……というのに。

何か、が顔の前を掠めていった。

とっさに顔を後退させて避けてから、銀色だ、と認識した。
銀色の……そう、刃物。
背筋を冷たい予感がなぞっていく。

コツン、と地面を叩く音がした。
「……何、それ……」
音の発信源に立っていたのは、チャイナ服を来た、なかなかの美人。
ただ、目には生気がない。
青く、燃え盛るような瞳をしている。

女性に声を掛けられるなんて、普段の俺なら喜んでしまうのだが。
その美人は、右手に身長よりは少し短いだろうか、長い棒を持っていた。
細い棒の先には、先ほど俺の目の前を掠めた刃物。
……出会い頭に襲ってくる女性なんて、ちょっと勘弁して欲しい。

「……ええと、そうだ、戟、だ」
「オマエ、これを知っているのか」
「ああ、うん……。こないだ行った『古代中国の謎展』で展示されてた」
そう、地元の小さな博物館で開催された、全国巡回の展覧会の中で、やけに印象に残ったのだ。
持ち手特別装飾がしてある訳ではない。
ただただシンプルなそれに、俺はひどく興味を抱いたのだった。

「これ、は……っああああああああああああ!」
普通の会話が、普通ではない声で打ち切られる。
戟を振り上げて、女性がこちらへ向かってきた。
「ちょっ、どんなラノベ展開だよこれ!」
半分泣きながら、俺は足を動かしてひとまず攻撃を避ける。

戟という武器は、先端を除けばただの木だ。
振り回される戟を交わしながら、少し屈んで近づき、棒を掴んだ。

「っ!」
女性は驚き、動きが止まる。
片手で掴んだ戟を両手で押さえ、女性の顔を見る。
青く光っていた目が、黒く変色していく。

「どうした」
俺は綺麗に黒くなった瞳を見つめて、聞く。
女性の目が潤む。
「……けて」
両手で掴んだ戟が、途端に軽くなった。
女性が戟から手を離したからだ。
「助けて、お願い!」


へたり込んで泣き出す女性に、俺は少し迷って、頭をそっと撫でた。



完。
戟・出会い頭・月でした。
ちょwwwまさかのダブリwww>戟 三題噺四十四
前回は戟をちゃんと出せなかった(ほぼ「推定槍」で済ませた)ので、今回は戟の知識を持っている人に設定してみました。
今回はちゃんと『古代中国の謎展』になっていますw
舗装されていない道を、ようやく慣れてきた、しかしまだ覚束ない足取りで歩く。

私は、四国に来ていた。
細く長い杖をつき、笠をかぶり、白い装束を身に纏って。
それは、お遍路参り、というやつだ。

彼氏より、肉親より、誰よりも大切にしていた友人が、お遍路参りに旅立ったのは、昨年の冬だったか。
八十八ヶ所全てを一人で巡る、若い人には割と珍しい形態を彼女は選んだ。
調べたところによると、人気が高いのは手軽なバスツアーだそうだ。
……ご利益が薄くなりそうな気がするのだが。
最近流行のインターネット参拝のようで、何だか微妙な気分になった。
こちらは現地へ行く分、少しはマシかもしれないが。

そんな余談はさておき。
その友人は現時点では、私の前に再び姿を見せてくれてはいない。
行方不明になっているのだ。

問い合わせたところ、札番通り、八十ヶ所目まで納札したのは間違いないらしいが、その後の消息は知れない。
彼女の足取りを追えば、何か分かるかも。
そんな思いが、私をお遍路参りへと駆り立てた。

そして私はやっと七十六ヶ所目を参拝したところ。
今日はこれから宿を探しに行く……つもりだった。

「お嬢さん」
後ろから、知らない声が呼ぶ。
女性だ。しわがれた声。年配だろう。
誰もいないか周りを見渡し、自分を呼んだと判断して私は振り向いた。

「…………え?」
立っていたのは、長く黒い髪を風に遊ばれる、美しい女性だった。
口に、うっすらと紅がさしてある程度の、薄い化粧。
あまりの美しさに、私は唖然とした。

「お嬢さん、お宿はお決まりで?」
聞き間違えもしない、先程と同じ声。
しかし、その口から発せられているとは思えないほど、似つかわしくなかった。

私はただ首を左右に振る。
「そう、じゃあお遍路さん、うちへおいで」
私は、老婆のような声を持つ女性に、黙ってついていった。

家はまさに豪華絢爛。
ただ、どこか時代が止まってしまったかのような錯覚を抱かせる。

けれどそんな小さな違和感は、用意された夕餉によって掻き消された。
それは、言い表すならば酒池肉林。
甘く、しかし飲みやすいお酒に、口内で溶ける柔らかい肉。
私は満願成就できなかった友人の事もすっかり忘れて、その宴を貪った。


目が覚めると、なぜか肌寒かった。
ひたりとした地面の感覚。
……そう、コンクリートだ。

「起きてしまったようだね。儀式には面倒だが、もう構いやしないさ」
あの老婆の声が聞こえる。
ふと、どこかで読んだ怪奇談を思い浮かべた。
……美女の生き血を啜って若さを保つ老婆……。
頭が完全に覚醒して、気づいた。
夥しい血の匂い。

薄暗い部屋の中、辺りを見渡して、目が合った。
老婆ではない。
それは、生気のない、友人の顔だった。
目を見開いたまま、首だけが、壁に沿って吊り下げられている。


ざくり、と何かを切る音が耳に届いた。
音の発信源を探すと、血を流し続ける首。
その首の前で、身体を切り刻む老婆。

……恐怖で、目も閉じられない。

「自分の身体を見られて、嬉しいだろう?」
心臓が綺麗だねえ、これは美味しそうだ。
老婆は荒い歯で肉を切りながら、首に話しかける。

老婆は臓器を取り出すと、こちらへと歩いてきた。
老婆の両手から、血が流れて落ちる。

「お前は若いから、生きたまま切ってあげようねえ」


-完-
老婆・酒池肉林・満願成就でした。

えええと、妲己ちゃん(違)
真面目な話、豪華な酒宴で良いんでしょうか。
追記:満願成就って四字熟語はないようですね。
満願は日数を限って神仏に祈願し、その日数が満ちること。または願いが叶うこと。
後者の意味で使われているのかなー?

あとがき↓
久々に書いたら長い!w
お遍路さんじゃない予定だったのですが、まぁ良いや。
というかお遍路さんが終わった老婆を出迎える話だったはずなのにどうしてこうなった。
きっと妲己ちゃんだからですね。うん。←責任転嫁
ああ、だったら心臓を自分でえぐらせれば良かった←原作版封神。比干(だったかな)という宰相?がこんなことやってますw(もちろんその後死んだ)
夢を見た。
とても、リアルな夢だった。

槍のような、薙刀のような刃物を手にした、多分二十歳前後だろう、男だ。
精悍な顔つきで、中々格好良い。
場所は……どこだろうか。
砂埃が舞い上がるから荒野かと思っていたら、閑散とした場所にある、お城の前だった。

お城と言っても、日本の白鷺城やら大阪城ではない。
装飾が施された低い塀。
中に見えるのは、赤い屋根瓦を戴いた、豪勢な平屋。
……なぜお城だと判断したのか、疑問に思うほどだ。

中には甲冑を着た男達が、こちらも槍のような何かを持ってうろついている。
男は、数を確かめるように目を動かした。


推定槍を手にした男は、城壁を軽く飛び越えて侵入した。
驚く兵士達を横目に、一目散に駆けていく。

……目指すは、王の寝室。

意外に長く入り組んだ道を、まるで分岐などないかのように進む。
建物の、恐らく中央にほど近い場所に、目的の部屋はあった。

「陛下」
男は、扉を開いて中の男にひざまづき、声を掛けた。
その声は、息一つも乱れていない。

「……誰じゃ、そちは」
動揺した、部屋の男。
推定槍を持った男は、顔を上げると、きっと目を吊り上げた。
「そのお命、頂戴つかまつる」

それから後の展開はよく分からなかった。
ただ、陛下と呼ばれた男を殺した事、そして、男も殺された事は、夥しい血の匂いと共に、覚えている。

「あー……、すげえ夢見た」
秋も半ばだと言うのに、パジャマは汗に塗れている。
手元の携帯で何気なく時間を確認して、気づいた。
「古代琉球王国の謎展、今日だっけ」

それは、近くの美術館で先日から開催されている特別展だ。
この美術館で開催される普段の特別展と言えば、火災予防やら、川の環境を守ろうやら。
要するに対象が小学生の、小さなものばかりだった。

それが、主催は放送協会、後援に文化庁というレベル。
刺激の少ない田舎でのビッグイベントというもの珍しさから、高校の友人達で行こう、という話になったのだ。

「ああ、あった」
散らかった部屋から宣伝のチラシを発掘する。
裏には、夢の男が持っていた推定槍の写真。
「えーと『げき』?って言うのか」

単独犯の男は、目的を果たしたが間もなく死んだ。
死ぬ時に、彼は何を思ったのだろう。

とりあえず、この『戟』なる武器はちゃんと見てこないとな。

「さ、準備するかー」


完。
夢・戟・単独犯でした。
戟はげきと読んで、矛のような物です。
wikiペではあんまり詳しくなかったので、(しかも別サイトの丸写し?)何となく、で話を済ませてみました。
あ、古代中国の武器なので、沖縄には多分ありません。(ぇっ
夢と現実が入れ替わる系?を目指したのですが、途中で諦めましたw
このお題、何日放置したんだか。
いつも荷物の少ない友達が、その日はなぜか大きな袋を持っていた。

大きさは30cmほどだろうか。
袋の口から黒い何かが覗いている。
「どうしたの?その袋」
「ああ、コレ?法螺貝」
見つけたから買っちゃった、と笑う友人。

この友人、趣味は変なものを集めること。
そのために衝動買いは数知れず。
先日はとあるイベントで一躍有名になった『ブブゼラ』を買って吹いていた。

ブブゼラは慣れると案外まともな音が出るらしく、曲でも作れそうだと目を輝かせて語っていた。

「で、法螺貝はいくらしたの?」
ブブゼラはプラスチック製のため安価だったが、法螺貝は本物の貝で作られている。
相当な値段がするはずだ。
「二万ちょっとだったんだけど、一万五千円にしてもらったの」
値切りが効くとは、どんな店だろう。
この近辺ではなさそうだ。


「帰りにどっかで吹こうかなって持ってきたんだけど、どう?」
「もちろん行くけど」
問題はどこで吹くか、だ。
今日からうちの高校は定期試験一週間前。
近くのカラオケ店は、制服では立ち入れないように学校が指導している。
制服から着替えて行くとなると、電車を使うためにかなり時間がかかる。
「うーん、授業終わるまでに考えとく」


そして放課後。
友人が耳を貸せと手招きする。
「ね、ラブホならどう?」
「……へ?」
突然の提案に何の事かと戸惑ったが、法螺貝を吹く場所の事だと思い当たった。

「って制服で入れないんじゃないの?」
「駅の裏側に制服で入れるトコあるんだって」
……彼氏が校内にいるのか知らないが、学校の制服で入ろうとは大した度胸だ。
駅が遠いならまだ分かる。
駅が複数あるならまだ分かる。

半径1km以内に一つしかない駅は、学校から徒歩一分の距離なのだ。


性別も知れない情報提供者の度胸に内心で感嘆しつつ、私と友人はそのラブホテルへと行った。
「あった。ここだ」
そういうところ、にはありがちな目が痛くなるほどのネオンはないが、ホテルの前に立つと、確かにラブホテルの外観だった。

誰にも会わずに適当な部屋に入ると、とりあえず合革張りのソファに鞄を置いて二人で座る。
「へー、ほんと法螺貝だよね。大きい」
袋から完全に姿を現した法螺貝を見つめ、私は言った。
「これでも一番小さいらしいけどね」
言いながら、友人は黒い先端を咥える。

ふーーー ブォーーーーーーー ボォーーーーーーーーーーー

出てきたのは、長い息の後に、汽笛のような低音。
「んー?」
「もしかして、ブブゼラと吹き方一緒かもしれない」
「……え?」

「普通に息吹くとダメなの。で、ブブゼラと同じ感じでぶぶぶぶぶぶって吹いたら鳴ったから」
友人の分析になるほどと私は頷いた。
形や素材は違えど、同じ音階を操作できない吹奏楽器。
日本では法螺貝にあたるものが、遠い南の国ではブブゼラだったのかもしれない。

「よっし、コツは掴めたし頑張るぞー!」
「おー!」
友人と二人、低い天井に向かって拳を突き上げた。


完。
ラブホテル・友達・法螺貝でした。
「ちょwwwラブホwww」と思って調べたら、「偽装ラブホテル」ってのがあるそうですね。
普通のホテルとして届け出た後に改装するものだそうです。(多分違法)
ということで、風営法の制限を受けず、一軒だけぽつんとある事にしました。

ブブゼラ……結局生では見なかったなぁ。
法螺貝及びブブゼラの吹き方が正しいかどうかは知りません。
「おい、晩飯は春巻きらしいぞ」
「おお、まじか」
俺は読んでいたマンガから顔を上げて、同僚に確認する。
「マジ、マジ。今日の烹炊担当が巻いてたんだ」
春巻きは揚げるために油を多く使い、また中の具は野菜や肉が豊富。
そのため、あまり頻繁に食料を調達できない船の上ではご馳走に分類される。

船の上……そう、俺たちは今、巨大な船に乗っている。
まああと一週間ほどで、この生活も終わるのだが。

「ところで何読んでるんだ?お前」
「ん?これは『ジパング』」
俺は青い背景に白い制服が特徴的な表紙を見せながら言う。
海上自衛隊の艦隊が第二次世界大戦中の世界にタイムスリップするという話だ。
「やっぱ戦争モノ面白いわ」

「そっか。あれ、こないだ読んでた小説は?」
「こないだ……ああ、『亡国のイージス』か」
問われて、俺は最近に読んだ小説を思い出す。
『ジパング』の前に読んだのは『エリア88』は漫画。
ちなみに推定最終巻を含めて終盤四巻ほどがなく、消化不良を起こしてしまった。

「終わったよ。なかなか面白かった。ちょっと登場人物多くてややこしいけどな」
「面白かったんだ。じゃあ俺も読んでみよ」
友人の言葉に、俺も頷いて「アレはお勧め」と返す。


と、その時。
艦内サイレンがウーーーーーーーーと唸り始めた。
【駆逐艦発見。総員、直ちに配置につけ】
サイレンに続いたマイクの声に、俺たちは床に置いていた制帽を取って立ち上がった。
「じゃ、生きて帰ってこいよ」
「おう、お前もな」
「『ジパング』読み終わるまでは死ねねーよ。春巻きちゃんも待ってるし」
あはは、と笑い合って部屋を出る。


さあ、大海上戦争の始まりだ。



完。
お題は駆逐艦・マンガ・春巻でした。
えーと、春巻き?とか思いつつ、わざと軽めに仕上げてみました。
出てくる本が全て戦争ものなのもわざとです。
しかし「亡国」以外読んだことないのですが。
戦争モノでは四作目かな?
「お嬢様、起きてください」
「お嬢様!」

僕の一日は、お仕えする家のお嬢様をお起こしする事から始まる。
お嬢様、とは言っても、正しくはこの家のご当主なのだけれど。
本来ならば、お嬢様が跡を継いだ時に「奥様」もしくは「ご主人様」と呼び替えるべきだったのだけれど。
お嬢様は、執事である僕にだけ「お前は呼び名を変えない事。良いわね」と言われ、お言葉に甘えてそのままになっている。
多分、年齢がほど近く、ほとんど一緒に生きてきたから、気を許せる相手として残したかったのだろう。
貴族の当主というのは、多分に神経をすり減らす立場だから。


「んー……こんな良い天気の日に叩き起こさないで頂戴……」
お嬢様はベッドに座って目を擦る。
叩き起こさないで、と言われても、それが僕の務めなのだから仕方がない。
「今日は一日天気が良いようですから、お昼にはティーパーティが出来ますよ」
「……それもそうね」
「今日は孤児院で行いましょう。それが良いわ。子供達も喜ぶかしら」
「はい、お嬢様」
お嬢様は僕の提案を良い考えだ、と言って計画を立てていく。

孤児院というのは、この家がずっと慈善活動の一環として寄付を続けているところだ。
今は執事に収まっている僕も、そこに捨てられていたらしい。
たまたま様子を見に来た先代の当主……旦那様と奥様が、お嬢様の遊び相手として連れ帰って頂いたのが、この家で奉公するきっかけである。


孤児院と貴族。
表社会の最底辺と最上位。
この二つが結びつくのは、ボランティアなどという甘ったるい理由ではない。

孤児院で育てた子供を拾い上げ、自分の義理の子供として社交界に潜り込ませる。
その子供を他家の子供と婚姻させ、または愛人にさせ。嫁いだ家の情報を自分の家に流す。
……要はスパイ。

情報一つ一つは大した事ではなくても、複数集まれば重要な意味を持つ事もある。
狸と狐の化かし合い。
できれば、この家が……お嬢様が、狸でありますよう。

僕は、お嬢様の幸せを願っている。




完。
日だまり・ボランティア・執事でした。
まさかの二日連続日だまりwww
最後の狸は「狐七化け狸は八化け」ということわざから、化かし合いに勝ってほしいという意味があります。
ちなみにこの後「カワウソ九化けネコは十化け」と続くらしいです。
猫化かしすぎるwww
日だまりが心地よくない、真夏の午後。
私は生徒会室でインターネットをしながら、とある人を待っていた。
生徒会室とは言っても、そこは生徒が使う部屋。
クーラーなんてものは入れてくれる訳がない。

「おっそいなー、書記」
メモ帳を開いてコピー&ペースト、そして日付と内容を書き換えるだけの、学校のサイト更新は既に終わり。
私は暇を持て余していた。

書記には、次の会議の資料をコピーしに行ってもらったのだが、それが来ない限り、手元のホチキスで資料を纏める工程には入れない。
ちなみにホチキスは登録商標。
一般名詞ではステープラーという。……なんじゃそら。

がちゃり。

扉が開く音に私は立ち上がって……絶句した。
「会長!」

「こら、もう会長じゃないだろ」
「すみません」
扉を開けたのは、前生徒会長の先輩だった。
私は慌てて謝罪し、席を離れて先輩の元へ向かう。
……だって、私が入学した時には既に会長だったんだもの、この先輩。


「重いのに持って頂いてすみません」
「良いよ、これぐらい」
先輩と持っている箱に隠れて見えなかったが、後ろには書記の姿が。
普段なら怒鳴ってやるところだが、先輩の前だから許してやろう。

「印刷室出たらいたからびっくりしたー」
「はは、ごめん」
しかも箱は、先生から生徒会室に持っていけと押し付けられたものらしい。
卒業生に用事を言いつけるとは、先生も一体何を考えているんだ。

箱の中身は文化祭と体育祭の案内用パンフレット。
これでホチキス……もといステープラーの出番が増えてしまった。
「暇だし、手伝っていくよ。副会長と会計休みなんだって?」
「はい……。すみませんけど、お願いします」

先輩と書記にホチキスを渡し、私は先輩にお茶を淹れ始めた。


完。
ホチキス・日だまり・インターネットでした。
「珍しく書きやすそうだw」と思った割に……放置すること約一ヶ月ですか。
変なお題が一個混じっている方が書きやすいらしいですね。
ちなみに主人公が会長。書記→主人公→先輩みたいな三角関係を思い描いています。
ワイングラスを手に、目の前の女が薄く笑う。
「私と結婚してくれたら、父の遺産が全て手に入るのよ」

女は、大企業をいくつも立ち上げ、また傾いた企業をも再生させてきた男の一人娘。
その男は、今病院にいる。
既に脳死判定を受け、この女が承諾すれば生命維持装置も取り外され、完全な心臓死も迎える。

そんな女からの結婚話。
ここで一つ俺が頷けば、努力など欠片もしないで大金が転がり込む。

けれど。
甘すぎやしないだろうか。
俺は女の瞳を見ながら考えた。

……甘ったるい目だ。
人に媚びを売るだけで生きてきた女特有の、色気のある瞳。
澄んでいるように見える目はその実、どんな黒よりもどんよりと濁っている。
その澄んだ目の奥には、ただ欲しか見えない。

「ねえ、良いでしょう?」
ワイングラスを白いテーブルに置き、女は手を絡めてきた。
一体何人の男を、この手で、この瞳で落としてきたのだろう。

そうはなるまい。

俺は強くそう思った。
何か。何か裏があるはずだ。きっと。
その何か、はまだ分からない。
けれど直感を、俺は信じる事にした。
世の中、そんなに甘くないぜ、と心のどこかで自分に言い訳をしながら。


俺は、女の白い指を握り返した。
「いいや」
「悪いけど、この話は受けられない」

「……どうして?」
「お前には、俺は不釣合いだよ」

「だからごめん」



追いすがるような瞳を避けるように、俺は店を出た。
数日後、女は他の男と結婚し、父親は死んだ。

女には借金があったそうだ。
その上、父親の相続権は女にはなかった。
新しく妻がおり、その妻に半額を、残りは会社のために、と遺言書にはあった。
法定相続分だか何だかで、幾ばくかは女の手元にも来るそうだが……ギリギリ借金が棒引きになる程度の額。
結婚しても、金銭面のメリットはなかった。


だが俺は、それから以後、誰とも結婚の話なんて沸いて来なかった。
最後のチャンスだったらしい。



後悔するべきか、否か。
……俺には、分からない。

完。
ワイングラス・父親・瞳でした。
最初に書いた「君の瞳に乾杯☆と父親がry」の文章に引きずられてなかなか書けませんでしたw
漫画「神の雫」に出て来た女社長みたいな雰囲気ですねww
しかしこういうシチュエーションだと赤ワインのイメージがあるのはなぜだ。
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プロフィール
書いている人:七海 和美
紹介:
更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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