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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 四十三
いつも荷物の少ない友達が、その日はなぜか大きな袋を持っていた。

大きさは30cmほどだろうか。
袋の口から黒い何かが覗いている。
「どうしたの?その袋」
「ああ、コレ?法螺貝」
見つけたから買っちゃった、と笑う友人。

この友人、趣味は変なものを集めること。
そのために衝動買いは数知れず。
先日はとあるイベントで一躍有名になった『ブブゼラ』を買って吹いていた。

ブブゼラは慣れると案外まともな音が出るらしく、曲でも作れそうだと目を輝かせて語っていた。

「で、法螺貝はいくらしたの?」
ブブゼラはプラスチック製のため安価だったが、法螺貝は本物の貝で作られている。
相当な値段がするはずだ。
「二万ちょっとだったんだけど、一万五千円にしてもらったの」
値切りが効くとは、どんな店だろう。
この近辺ではなさそうだ。


「帰りにどっかで吹こうかなって持ってきたんだけど、どう?」
「もちろん行くけど」
問題はどこで吹くか、だ。
今日からうちの高校は定期試験一週間前。
近くのカラオケ店は、制服では立ち入れないように学校が指導している。
制服から着替えて行くとなると、電車を使うためにかなり時間がかかる。
「うーん、授業終わるまでに考えとく」


そして放課後。
友人が耳を貸せと手招きする。
「ね、ラブホならどう?」
「……へ?」
突然の提案に何の事かと戸惑ったが、法螺貝を吹く場所の事だと思い当たった。

「って制服で入れないんじゃないの?」
「駅の裏側に制服で入れるトコあるんだって」
……彼氏が校内にいるのか知らないが、学校の制服で入ろうとは大した度胸だ。
駅が遠いならまだ分かる。
駅が複数あるならまだ分かる。

半径1km以内に一つしかない駅は、学校から徒歩一分の距離なのだ。


性別も知れない情報提供者の度胸に内心で感嘆しつつ、私と友人はそのラブホテルへと行った。
「あった。ここだ」
そういうところ、にはありがちな目が痛くなるほどのネオンはないが、ホテルの前に立つと、確かにラブホテルの外観だった。

誰にも会わずに適当な部屋に入ると、とりあえず合革張りのソファに鞄を置いて二人で座る。
「へー、ほんと法螺貝だよね。大きい」
袋から完全に姿を現した法螺貝を見つめ、私は言った。
「これでも一番小さいらしいけどね」
言いながら、友人は黒い先端を咥える。

ふーーー ブォーーーーーーー ボォーーーーーーーーーーー

出てきたのは、長い息の後に、汽笛のような低音。
「んー?」
「もしかして、ブブゼラと吹き方一緒かもしれない」
「……え?」

「普通に息吹くとダメなの。で、ブブゼラと同じ感じでぶぶぶぶぶぶって吹いたら鳴ったから」
友人の分析になるほどと私は頷いた。
形や素材は違えど、同じ音階を操作できない吹奏楽器。
日本では法螺貝にあたるものが、遠い南の国ではブブゼラだったのかもしれない。

「よっし、コツは掴めたし頑張るぞー!」
「おー!」
友人と二人、低い天井に向かって拳を突き上げた。


完。
ラブホテル・友達・法螺貝でした。
「ちょwwwラブホwww」と思って調べたら、「偽装ラブホテル」ってのがあるそうですね。
普通のホテルとして届け出た後に改装するものだそうです。(多分違法)
ということで、風営法の制限を受けず、一軒だけぽつんとある事にしました。

ブブゼラ……結局生では見なかったなぁ。
法螺貝及びブブゼラの吹き方が正しいかどうかは知りません。
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書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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