忍者ブログ
気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
[3178]  [3177]  [3176]  [3175]  [3174]  [3173]  [3172]  [3171]  [3170]  [3169]  [3168
ざっくざく > 文章 > 三題噺 四十六
月の綺麗な、昼だった。

……そんな表現をすると、あれ?と思われるだろうか。
だが事実だ。
太陽は厚く黒ずんだ雲に隠れ、けれど雨は降らない、そんな天気。
星も瞬かないのに、ただ月だけが煌々と輝いている。

俺は、道を歩いていた。
夜に開催されるイベントのために、昼過ぎから友人と待ち合わせの予定。
もうすぐ待ち合わせに着く……というのに。

何か、が顔の前を掠めていった。

とっさに顔を後退させて避けてから、銀色だ、と認識した。
銀色の……そう、刃物。
背筋を冷たい予感がなぞっていく。

コツン、と地面を叩く音がした。
「……何、それ……」
音の発信源に立っていたのは、チャイナ服を来た、なかなかの美人。
ただ、目には生気がない。
青く、燃え盛るような瞳をしている。

女性に声を掛けられるなんて、普段の俺なら喜んでしまうのだが。
その美人は、右手に身長よりは少し短いだろうか、長い棒を持っていた。
細い棒の先には、先ほど俺の目の前を掠めた刃物。
……出会い頭に襲ってくる女性なんて、ちょっと勘弁して欲しい。

「……ええと、そうだ、戟、だ」
「オマエ、これを知っているのか」
「ああ、うん……。こないだ行った『古代中国の謎展』で展示されてた」
そう、地元の小さな博物館で開催された、全国巡回の展覧会の中で、やけに印象に残ったのだ。
持ち手特別装飾がしてある訳ではない。
ただただシンプルなそれに、俺はひどく興味を抱いたのだった。

「これ、は……っああああああああああああ!」
普通の会話が、普通ではない声で打ち切られる。
戟を振り上げて、女性がこちらへ向かってきた。
「ちょっ、どんなラノベ展開だよこれ!」
半分泣きながら、俺は足を動かしてひとまず攻撃を避ける。

戟という武器は、先端を除けばただの木だ。
振り回される戟を交わしながら、少し屈んで近づき、棒を掴んだ。

「っ!」
女性は驚き、動きが止まる。
片手で掴んだ戟を両手で押さえ、女性の顔を見る。
青く光っていた目が、黒く変色していく。

「どうした」
俺は綺麗に黒くなった瞳を見つめて、聞く。
女性の目が潤む。
「……けて」
両手で掴んだ戟が、途端に軽くなった。
女性が戟から手を離したからだ。
「助けて、お願い!」


へたり込んで泣き出す女性に、俺は少し迷って、頭をそっと撫でた。



完。
戟・出会い頭・月でした。
ちょwwwまさかのダブリwww>戟 三題噺四十四
前回は戟をちゃんと出せなかった(ほぼ「推定槍」で済ませた)ので、今回は戟の知識を持っている人に設定してみました。
今回はちゃんと『古代中国の謎展』になっていますw
PR
【 この記事へコメント 】
名前
コメントタイトル
URL
本文
削除用パスワード
累計アクセス数
アクセスカウンター
レコメンド
プロフィール
書いている人:七海 和美
紹介:
更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
忍者ブログ [PR]