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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 四十五
舗装されていない道を、ようやく慣れてきた、しかしまだ覚束ない足取りで歩く。

私は、四国に来ていた。
細く長い杖をつき、笠をかぶり、白い装束を身に纏って。
それは、お遍路参り、というやつだ。

彼氏より、肉親より、誰よりも大切にしていた友人が、お遍路参りに旅立ったのは、昨年の冬だったか。
八十八ヶ所全てを一人で巡る、若い人には割と珍しい形態を彼女は選んだ。
調べたところによると、人気が高いのは手軽なバスツアーだそうだ。
……ご利益が薄くなりそうな気がするのだが。
最近流行のインターネット参拝のようで、何だか微妙な気分になった。
こちらは現地へ行く分、少しはマシかもしれないが。

そんな余談はさておき。
その友人は現時点では、私の前に再び姿を見せてくれてはいない。
行方不明になっているのだ。

問い合わせたところ、札番通り、八十ヶ所目まで納札したのは間違いないらしいが、その後の消息は知れない。
彼女の足取りを追えば、何か分かるかも。
そんな思いが、私をお遍路参りへと駆り立てた。

そして私はやっと七十六ヶ所目を参拝したところ。
今日はこれから宿を探しに行く……つもりだった。

「お嬢さん」
後ろから、知らない声が呼ぶ。
女性だ。しわがれた声。年配だろう。
誰もいないか周りを見渡し、自分を呼んだと判断して私は振り向いた。

「…………え?」
立っていたのは、長く黒い髪を風に遊ばれる、美しい女性だった。
口に、うっすらと紅がさしてある程度の、薄い化粧。
あまりの美しさに、私は唖然とした。

「お嬢さん、お宿はお決まりで?」
聞き間違えもしない、先程と同じ声。
しかし、その口から発せられているとは思えないほど、似つかわしくなかった。

私はただ首を左右に振る。
「そう、じゃあお遍路さん、うちへおいで」
私は、老婆のような声を持つ女性に、黙ってついていった。

家はまさに豪華絢爛。
ただ、どこか時代が止まってしまったかのような錯覚を抱かせる。

けれどそんな小さな違和感は、用意された夕餉によって掻き消された。
それは、言い表すならば酒池肉林。
甘く、しかし飲みやすいお酒に、口内で溶ける柔らかい肉。
私は満願成就できなかった友人の事もすっかり忘れて、その宴を貪った。


目が覚めると、なぜか肌寒かった。
ひたりとした地面の感覚。
……そう、コンクリートだ。

「起きてしまったようだね。儀式には面倒だが、もう構いやしないさ」
あの老婆の声が聞こえる。
ふと、どこかで読んだ怪奇談を思い浮かべた。
……美女の生き血を啜って若さを保つ老婆……。
頭が完全に覚醒して、気づいた。
夥しい血の匂い。

薄暗い部屋の中、辺りを見渡して、目が合った。
老婆ではない。
それは、生気のない、友人の顔だった。
目を見開いたまま、首だけが、壁に沿って吊り下げられている。


ざくり、と何かを切る音が耳に届いた。
音の発信源を探すと、血を流し続ける首。
その首の前で、身体を切り刻む老婆。

……恐怖で、目も閉じられない。

「自分の身体を見られて、嬉しいだろう?」
心臓が綺麗だねえ、これは美味しそうだ。
老婆は荒い歯で肉を切りながら、首に話しかける。

老婆は臓器を取り出すと、こちらへと歩いてきた。
老婆の両手から、血が流れて落ちる。

「お前は若いから、生きたまま切ってあげようねえ」


-完-
老婆・酒池肉林・満願成就でした。

えええと、妲己ちゃん(違)
真面目な話、豪華な酒宴で良いんでしょうか。
追記:満願成就って四字熟語はないようですね。
満願は日数を限って神仏に祈願し、その日数が満ちること。または願いが叶うこと。
後者の意味で使われているのかなー?

あとがき↓
久々に書いたら長い!w
お遍路さんじゃない予定だったのですが、まぁ良いや。
というかお遍路さんが終わった老婆を出迎える話だったはずなのにどうしてこうなった。
きっと妲己ちゃんだからですね。うん。←責任転嫁
ああ、だったら心臓を自分でえぐらせれば良かった←原作版封神。比干(だったかな)という宰相?がこんなことやってますw(もちろんその後死んだ)
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プロフィール
書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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