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気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
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ざっくざく > 文章 > 三題噺 二
「明日で最後じゃん」
いつも騒がしかった男子生徒が言った。


二ヶ月前、私の組は丸ごと田舎に引っ越した。
何だかよく分からない法律の、テストケースに選ばれたそうだ。

最初の一週間は、特に恐怖だった。
自分でも、よく乗り越えられたと思う。

朝は五時半に起きる。
もっともその時間は、田舎に一つだけある小さな目覚まし時計を信じるなら、であるが。
その目覚まし時計も、じりりりりりと低く大きな音で泣き喚くのだから、起きる、ではなく起こされる、が正しいか。


まずは外で薪拾い。井戸で水を汲む。
お米を洗って、かまどで火を調節しながらご飯を炊く。
野菜は畑に植えてあるのを収穫して、洗って切って。

初日の朝ごはんはなぜか私を含めた数人の女子だけでやらされて。
男子の「もっとうまく炊け」だの「水っぽい」だのという我がままを、黙って丸二日間聞いていた。
二日目の夜。
いつも大人しい子の、堪忍袋の緒が切れたらしい。

「じゃあてめえらでやれよ」


その子は、翌日起きてこなかった。
三日目の朝ごはんを食べた時、それは既に朝ではなかった。
目覚まし時計が正しければ、昼の二時過ぎだったと思う。

男子が初めて炊いたご飯は、少なくとも昨日の夕ご飯より間違いなく不味かった。
いつも「メシがマズい」と不平を言い続けていた男子が小さな声で言った。
「俺らも手伝うから夕ご飯作ってください」と。

薪拾いや水汲みを男子に押し付けて作ったその日の夕ご飯は、やっぱりまだ微妙な味だったけれど。
もう誰も文句は言わなかった。


翌日、つまり四日目からは、かなり余裕が出てきた。
洗濯をする時間が出来たのだ。
引っ越してくる際に許されたのは、四日分の着替えだけだったから。
こういう経緯を辿ることを、読まれていたのだろうか。

何となく力仕事は男子が、家事は女子がメインになることが決まり。
男子十五人女子十五人の少人数クラスでもさすがに多いことが分かり。
何となく決まった順番で担当者が変わっていくことが日常になった。


そして、約束の最終日……前夜。

「思い出作りに、みんなで遊ぼうぜ」
「あ、メシとかあるから、昼の二時ぐらいから」
明日が終われば家に帰れるから、もう洗濯は必要ない。
三回のご飯さえ作れば、後は自由時間に出来るのだ。

「どう?」
「良いと、思うけど」
なぜ私に聞くのだろう。
戸惑いながら曖昧に返した言葉を、彼は了承と取ったらしい。

「じゃあ決まりな!」


にっと笑った彼を、良いなと思った私は。
その時どんな気持ちを抱いていたのだろう。

知りたくもない。
―― 明後日から、新しい日常が始まる。


完。
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ミクシアプリ「三題噺」から「遊び 目覚まし時計 思い出作り」でした。
多分中学ぐらいですきっと。
十五少年漂流記もどき?w
あ、着替えが四日分なのは、一枚着る。一枚洗う。一枚乾かす。で三枚、それに余分一枚の計算です。
ああ疲れるこのシリーズ。
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書いている人:七海 和美
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更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
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