忍者ブログ
気ままな一人暮らしの、ささやかな日常
美術鑑賞からプログラムのコードまで、思いつくままに思いついた事を書いています。
[3010]  [3009]  [3008]  [3007]  [3006]  [3005]  [3004]  [3003]  [3002]  [3001]  [2998
ざっくざく > 文章 > 三題噺:三
「歩きにくいなー」
隣にいる彼が呟く。
「左手だけでもバランス崩れる?やっぱり」
橙色の鞄を持った私の問いかけに、彼はおう、と短く答えた。

部活中に怪我をした、と言えば、大抵の人は運動部を想像するだろうか。
しかし、彼は、……否。私たちは文化部だ。
実名を出すと、文化部と一文字違いの文芸部所属である。

毎日、お茶を飲みながら本を読む。
昨年秋からは、新聞部に頼まれて「最近のお薦め本」の選定も行う。
長期休み前には、学年毎に異なる読書感想文のための提案もやっている。
(行うのは提案、であって、最終決定は学年担当教師全員である。
そのため、全く関係のない本が選ばれることもたまにある)

そんなのんびりした部活で、彼が怪我をした理由。
それは、図書室で本の整理をしている最中のこと。
積み上げられた本が後輩に向かって崩れたからである。

校内でも可愛いと評判の彼女をかばって、彼は本の下敷きになり。
咄嗟の事故だったため、妙な体制になったのだろう。
左手を捻って挫くという怪我に到る。

「明日からどうすっかなー」
夕暮れ、真正面から攻めてくる夕日に、眩しそうに目を細めて彼は言う。

「明日から……って何を?」
「俺左利きだもんよ」
明日じゃねーや、今晩メシどうやって食おう。
右手で顔に影を作りながら、彼は続けた。
「……あ、そっか。左利きだっけ」
「そうだよー?右手でノート取れねえんだけど」

部活中、読書記録を書いている姿をたまに見る。
思い返せば、シャープペンシルを持っていたのはいつも左手だった。
「なぁ、まじでどうしよう。今度のテストやばいんだけど!」
彼は真剣な瞳で私に聞く。

そんなに成績悪かったかな、私はと言いかけて……。
現代文も古典も、国語だけは壊滅的に成績が悪かったことを思い出した。
確か、そう。
中間試験の答案が返された時、期末で八十点とか無理!と嘆いていたのだ。

「……ノート、貸してあげようか?」
「えっ、代わりに取ってよ」

「読むだけより書いた方が頭に入りやすいらしいけど」
宿題に音読というものがあるのは、口に出すという動きがあるから。
ただ黙って読むより文章を意識しやすくなるらしい。
「だから、左手が治ったら貸してあげる」
「……国語だけなら、教えられるし」
「お願いします先生」
彼が頭を下げると、白いシャツも、彼の顔も。
夕焼けで橙色に染まった。

「厳しいんだからね、私の授業は」
「うっ……が、頑張ります」
軽くうろたえた彼に、私が笑ったら。
彼は怒って、橙色の顔が少し赤くなった。


------------
ミクシアプリ「三題噺」第三弾です。
「橙・左手・夕暮れ」でした。
あんまり橙と夕暮れが生かしきれなかった気がします……。うう。
最初に簡単そうだと思ったのは、夕暮れ≒橙だったからでしょう。

この彼、期末で八十点てことは、中間は限りなく0に近い点数だったようですね。
中間+期末÷2=40でぎりぎり赤点を免れる訳ですから。

ふう、おしまい。

カテゴリーに文章でも追加すべき?w
雑談に紛れ込んだ散文詩が探し出せないのは既に分かっているのですが←
PR
【 この記事へコメント 】
名前
コメントタイトル
URL
本文
削除用パスワード
累計アクセス数
アクセスカウンター
レコメンド
プロフィール
書いている人:七海 和美
紹介:
更新少な目なサイトの1コンテンツだったはずが、独立コンテンツに。
PV数より共感が欲しい。
忍者ブログ [PR]